その後2 もしかして?
「そのさ。──拓人」
講義が終わって昼食の時間となり。皆でぞろぞろと学食に向かう途中、友人の達生が言いづらそうに声をかけてきた。
俺は立ち止まった友人を、小首をかしげ振り返る。
「なに?」
「…思ってたんだけど」
達生は、先を歩く友人らを見送った後、俺の袖をくいと引いて、人気のない脇道へと逸れた。
「なんだよ…」
「前に迎えに来てた奴ってさ…。もしかして──付き合ってたり、する?」
「──え?」
しばし、色々な思いが交錯し返事に時間がかかった。前に送迎してくれていたのは、朗だ。朗とは付きあってはいないが──。
俺がだんまりしたのを、いい方へ取らなかったのか。
「ごめん! 余計なお世話だったな! いや、その。心配の仕方がさ、普通じゃなかったって言うか…。仲のいい友だちだよな? ははっ、余計な詮索しちゃった。だいたい、だから何だって言うんだよな──」
これは──いい機会なのかもしれない。
達生はいい奴で。陰で教授の物まねはしても、裏で友人らの悪口を言うことはなかった。
何かあっても、理解を示し、ああいう奴だよな? と笑い飛ばす。それで、場が和む事がよくあった。
俺は小さく息をつくと。
「朗は──友達だよ。キックボクシングのジムで知り合ったんだ。なんでか俺のことを気にってくれて、懐いてくれてる。──でも、付き合ってる相手は他にいるよ。──千尋って言う。家具職人を目指してる人」
「…それって?」
「うん。同性だよ。──驚くかもしれないけど…。たまたま、なんだ。それまでは、好きになるのは漠然と、異性だって思ってた。──けど、千尋と出会って、好きだなって思えたから付き合ってる。…一緒に住んでもいるんだ」
「一緒に…」
なぜか、ぼぼっと達生の顔が赤くなった。
「おおっ! すげーな。同棲って奴か? 大人だなぁ。拓人、年の割に幼い感じなのに…」
と、そこまで言ってから。
「──いや。落ち付いてはいたな。大人っぽい。幼いのは──見た目か?」
「ガキっぽくて悪かったな…」
「ふは。てか、見掛け倒し! そっか…。俺らより、かなり前に進んでんだなぁ…」
達生はしみじみそう言うと、顎に手をあて感慨深げに頷いてみせる。
「達生は? 誰かと付き合っているの?」
「えっ? 俺? 俺は──」
どこか遠い目をしたあと。
「──ま、おいおい。な。今は勉学に励む時だ! ふははは!」
そう言って笑うと、唐突にスタスタと先を歩き出した。
「あ! ちょっと! 俺だけに告白させてなんだよ。話せよ!」
しかし、ふははははと、達生は笑ったままで、返事は返って来なかった。
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とうとう達生には話してしまったのだけれど、その後、他の誰かから、尋ねられることもなく。
達生もそれ以降、特にからかったり態度が急変したりすることはなかった。
ただ、仲間同士の話題で、あの子がかかわいいとか、スタイルがいい! とか。誰それが好きとか、好みのタイプはどんなだとか。
俺の絡み辛い異性の話になると、こっそり話題を逸らしてくれたりする。
達生はいい奴だった。
「…拓人。今度、そいつ連れて来いよ」
ある日の休日。
遅めの昼食後、柔らかな日差しが庭に降り注ぐ中。
テラスのベンチに千尋と並んで座りながら、大学での話題を上らせた時、千尋に言われた。
俺の手を弄びながら、どこか憮然としている。
「いいけど…。いいの?」
「いい」
「顔が拗ねてる…」
下方から上目遣いに見上げる。
すると、千尋はそれまで握ったり、開いたりさせていた俺の手を膝の上に一旦おいて、こちらをチラと見ると。
「拓人の会話にいつも出てくる…。気になるんだ」
「へ…?」
「拓人にちょっかいだすのは、朗だけで充分だ」
「あ? ああ…。ははは! 達生は違うって。──でも、わかった。今度、連れてくるよ。千尋も安心するから」
「…ん」
そう返事をすると、千尋は俺の手を握ったまま、肩に頭を預け目を閉じた。
その後、大学の帰りに家に遊びに来た達生を、千尋はただただ観察していた。
せっかくだからと夕飯も一緒に食べて。
その間もじっと見てくる千尋に、達生はかなり恐縮していたが、それでも帰る頃には、いつもの調子に戻っていて。
「てか。かっこいいっすね? 拓人が好きになったの、ちょっと分かります…。あ! これはお世辞とかじゃなくで。もちろん、俺は拓人に手、出したりはしませんから。──ご心配なく」
また、ジムも見学に行くと約束して、大きく手を振りながら、夜道を帰って行った。
どうやら、呼ばれた意図を悟っていたらしい。
そんな達生を見送ったあと。俺は玄関先で、千尋を振り返り。
「ね? いい奴だろ?」
「…だな。──けど、一回きりじゃ分からない」
そんな千尋に俺は笑うと、その背を押して玄関に入る。
「わかった。じゃ、また一緒に遊びに行く時間、作ろうか? 谷さんとか朗も誘ってさ。他にも何人か。きっと楽しいよ」
それに千尋は眉間にしわを寄せると。
「…それ、面倒くさそうだな」
「ふふ。楽しいって。ためしに一回。だめだったら次はなしで」
「拓人がやりたいなら…」
仕方ないと言った具合の千尋。リビングまでの間、俺はその手を取って腕を絡ませると。
「無理にとは言わない。──けど、俺の周りにも、千尋の周りにも。多くはないけど、理解してくれる人がいるって、きっと実感できるよ」
「…そうだな」
そう言って、最後には千尋も笑みを浮かべてみせた。
そう。人数じゃない。たった一人でも、認めてくれる人がいたなら、それは貴重で。とても大きな存在で。
大切にしていきたいと思うのだ。
でも──。
「千尋が一番だから。そこんとこ、忘れないように」
ビシッと千尋の鼻先で指差しして見せると、
「わかってる…」
そう言って、笑みに表情を崩した。俺もつられて笑い出す。
なにがあっても、どんな出会いがあっても、俺の中の一番は千尋以外にあり得ない。
笑いながらリビングに戻って。
また、ふたりだけの時間が流れ出す──。
ー了ー




