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その先の景色を僕は知らない 2  作者: マン太


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25/25

その後2 もしかして?

「そのさ。──拓人」


 講義が終わって昼食の時間となり。皆でぞろぞろと学食に向かう途中、友人の達生が言いづらそうに声をかけてきた。

 俺は立ち止まった友人を、小首をかしげ振り返る。


「なに?」


「…思ってたんだけど」


 達生は、先を歩く友人らを見送った後、俺の袖をくいと引いて、人気のない脇道へと逸れた。


「なんだよ…」


「前に迎えに来てた奴ってさ…。もしかして──付き合ってたり、する?」


「──え?」


 しばし、色々な思いが交錯し返事に時間がかかった。前に送迎してくれていたのは、朗だ。朗とは付きあってはいないが──。

 俺がだんまりしたのを、いい方へ取らなかったのか。


「ごめん! 余計なお世話だったな! いや、その。心配の仕方がさ、普通じゃなかったって言うか…。仲のいい友だちだよな? ははっ、余計な詮索しちゃった。だいたい、だから何だって言うんだよな──」


 これは──いい機会なのかもしれない。

 

 達生はいい奴で。陰で教授の物まねはしても、裏で友人らの悪口を言うことはなかった。

 何かあっても、理解を示し、ああいう奴だよな? と笑い飛ばす。それで、場が和む事がよくあった。

 俺は小さく息をつくと。


「朗は──友達だよ。キックボクシングのジムで知り合ったんだ。なんでか俺のことを気にってくれて、懐いてくれてる。──でも、付き合ってる相手は他にいるよ。──千尋って言う。家具職人を目指してる人」


「…それって?」


「うん。同性だよ。──驚くかもしれないけど…。たまたま、なんだ。それまでは、好きになるのは漠然と、異性だって思ってた。──けど、千尋と出会って、好きだなって思えたから付き合ってる。…一緒に住んでもいるんだ」


「一緒に…」


 なぜか、ぼぼっと達生の顔が赤くなった。


「おおっ! すげーな。同棲って奴か? 大人だなぁ。拓人、年の割に幼い感じなのに…」


 と、そこまで言ってから。


「──いや。落ち付いてはいたな。大人っぽい。幼いのは──見た目か?」


「ガキっぽくて悪かったな…」


「ふは。てか、見掛け倒し! そっか…。俺らより、かなり前に進んでんだなぁ…」


 達生はしみじみそう言うと、顎に手をあて感慨深げに頷いてみせる。


「達生は? 誰かと付き合っているの?」


「えっ? 俺? 俺は──」


 どこか遠い目をしたあと。


「──ま、おいおい。な。今は勉学に励む時だ! ふははは!」


 そう言って笑うと、唐突にスタスタと先を歩き出した。


「あ! ちょっと! 俺だけに告白させてなんだよ。話せよ!」


 しかし、ふははははと、達生は笑ったままで、返事は返って来なかった。



 とうとう達生には話してしまったのだけれど、その後、他の誰かから、尋ねられることもなく。

 達生もそれ以降、特にからかったり態度が急変したりすることはなかった。

 ただ、仲間同士の話題で、あの子がかかわいいとか、スタイルがいい! とか。誰それが好きとか、好みのタイプはどんなだとか。

 俺の絡み辛い異性の話になると、こっそり話題を逸らしてくれたりする。

 達生はいい奴だった。



「…拓人。今度、そいつ連れて来いよ」


 ある日の休日。

 遅めの昼食後、柔らかな日差しが庭に降り注ぐ中。

 テラスのベンチに千尋と並んで座りながら、大学での話題を上らせた時、千尋に言われた。

 俺の手を弄びながら、どこか憮然としている。


「いいけど…。いいの?」


「いい」


「顔が拗ねてる…」


 下方から上目遣いに見上げる。

 すると、千尋はそれまで握ったり、開いたりさせていた俺の手を膝の上に一旦おいて、こちらをチラと見ると。


「拓人の会話にいつも出てくる…。気になるんだ」


「へ…?」


「拓人にちょっかいだすのは、朗だけで充分だ」


「あ? ああ…。ははは! 達生は違うって。──でも、わかった。今度、連れてくるよ。千尋も安心するから」


「…ん」


 そう返事をすると、千尋は俺の手を握ったまま、肩に頭を預け目を閉じた。



 その後、大学の帰りに家に遊びに来た達生を、千尋はただただ観察していた。

 せっかくだからと夕飯も一緒に食べて。

 その間もじっと見てくる千尋に、達生はかなり恐縮していたが、それでも帰る頃には、いつもの調子に戻っていて。


「てか。かっこいいっすね? 拓人が好きになったの、ちょっと分かります…。あ! これはお世辞とかじゃなくで。もちろん、俺は拓人に手、出したりはしませんから。──ご心配なく」


 また、ジムも見学に行くと約束して、大きく手を振りながら、夜道を帰って行った。

 どうやら、呼ばれた意図を悟っていたらしい。

 そんな達生を見送ったあと。俺は玄関先で、千尋を振り返り。


「ね? いい奴だろ?」


「…だな。──けど、一回きりじゃ分からない」


 そんな千尋に俺は笑うと、その背を押して玄関に入る。


「わかった。じゃ、また一緒に遊びに行く時間、作ろうか? 谷さんとか朗も誘ってさ。他にも何人か。きっと楽しいよ」


 それに千尋は眉間にしわを寄せると。


「…それ、面倒くさそうだな」


「ふふ。楽しいって。ためしに一回。だめだったら次はなしで」


「拓人がやりたいなら…」


 仕方ないと言った具合の千尋。リビングまでの間、俺はその手を取って腕を絡ませると。


「無理にとは言わない。──けど、俺の周りにも、千尋の周りにも。多くはないけど、理解してくれる人がいるって、きっと実感できるよ」


「…そうだな」


 そう言って、最後には千尋も笑みを浮かべてみせた。

 そう。人数じゃない。たった一人でも、認めてくれる人がいたなら、それは貴重で。とても大きな存在で。

 大切にしていきたいと思うのだ。


 でも──。


「千尋が一番だから。そこんとこ、忘れないように」


 ビシッと千尋の鼻先で指差しして見せると、


「わかってる…」


 そう言って、笑みに表情を崩した。俺もつられて笑い出す。


 なにがあっても、どんな出会いがあっても、俺の中の一番は千尋以外にあり得ない。


 笑いながらリビングに戻って。

 また、ふたりだけの時間が流れ出す──。



ー了ー


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