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その先の景色を僕は知らない 2  作者: マン太


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21/25

21.その後

 その後、達生と朗にも連絡をした。

 達生には、面倒事に巻き込まれたが、大丈夫だったからと──それ以上、多くは語らなかった。

 すべて話すには、情報量が多く。今はそれだけに留めた。達生は察してくれたのか、余計な詮索はせず無事で良かったと言ってくれ。

 いつか、近いうちに達生には話そうと思っている。けど、そのうち放って置いても、千尋との関係はバレそうな気もしていた。

 一方、事情を知っていた朗は。


「ありがとう、朗。千尋に連絡してくれたって聞いた」


『俺はなにもしてない。千尋に連絡しただけで…。てか、ほんと怪我なくて良かったって。やっぱり無理してでもついてけば良かった…』


「なにいってんの。充分、やってくれてたよ。朗だって自分の予定も色あるだろうに、俺のためにずっとついててくれただろ? ──朗が一緒じゃなくて良かった。巻き込まれたら大変だったよ」


『なに言ってンだよ! ──俺がついてれば今あんなこと起きなかった…。次はないから。同じ目には合わせない』


「ありがとう。──朗」


 次、また同じような事はないと思うが、あったとしても、危険な目にあわせるつもりはない。

 でも、今はその事は口にしなかった。朗の気持ちが嬉しかったのだ。



 蒼衣が手下としていた若衆と共に逮捕されたと千尋から聞いたのは、夜、ニュースとなってテレビで流れたのと同時だった。

 逮捕理由は、違法薬物の所持、使用。過去に行った恐喝、暴行に対してだった。

 手足同然に使っていた若衆の自宅マンションにいたところを逮捕されたらしい。

 千尋に言い寄りながら、実際は手下の若衆の男ともできていたのだ。千尋はそんな事だろうと思っていたらしい。

 薬物使用等に関しては、初犯となるため、通常だとそう重くなることはないらしいが、芸能人と言うこともある。

 見せしめ的に刑が重くなる可能性もあるとのことだった。ニュースはその話題で持ちきりだ。


「それって、もしかして…?」

 

 お風呂から出たばかりの俺は、まだ湿っていた髪をタオルで拭きながら尋ねる。

 前に真砂の車の中で、千尋が口にした事を思い出していた。蒼衣が二度と俺と千尋に関わらなくなる方法があると言っていたはず。


「そうだ。これで蒼衣が俺たちに手を出すことはもうない」


 千尋と真砂で相談し、裏で手が回された──と、言う事だろう。そうしなくとも、いずれ捕まっただろうが、それが幾分、早まったと言う事になる。


「本当?」


 千尋はそれまで座っていたリビングのイスから立ち上がると、冷蔵庫から麦茶の入ったサーバーを取り出し、コップに注いで渡してくれた。

 それを受け取りながら、千尋の話しに耳を傾ける。


「蒼衣の件も含め、下の奴の不始末は上の責任でもある。臣司さんの話じゃ、今後、一般人に手は出さない、蒼衣の父親は上にそう誓ったって。破ればそれなりに重い制裁があるだろうな。だから、幾ら娘だと言っても、今までのように甘い顔はしないだろう」


「そっか…」


 傍ら立った千尋は、俺の頰に軽く触れて見下ろすと。


「蒼衣もこれで懲りなきゃ、相当の馬鹿だ。だいたい、他の男とつるんでて、寄りを戻すもなにもないだろ。合わせる顔がない」


「そうだね…」


 これで一件落着というところか。

 彼女はこの件で社会的地位も失うことになる。イメージが悪くなるのは必至で。モデルや俳優業を続けるには現実的に厳しいだろう。

 それでも、捨てる神あれば拾う神あり、で。

 自分を見つめ直し態度を改め、投げやりにならず地道に生きれば、きっと先も開けるはずだ。現に自分がそうだったのだから。


 まあ、俺はちょっと投げやりになりかけてもいたけど。


 それでも、千尋に出会えて。前に進むことができた。

 見逃さなければ、きっと前をむいて歩けるサインはあるのだと思う。

 ようはそれに気づくことができるかどうかだ。せっかくのサインも、目も耳も閉じてしまえば気付くこともできない。

 千尋はリビングに面した廊下に向かうと、そこに置かれた椅子の背に触れた。


「この椅子も前のと一緒、時間が経つと色が変わってく…」


 件のイスだ。素材はナラでオイルで仕上げが施されていると言う。


「拓人と──見ていきたいんだ」


 そう言ってこちらを見返してきた。その言葉の意図を理解する。


 他の誰でもなく、俺と一緒に。


「──うん。見ていこう」


 飲み終えたコップをテーブルに置くと、千尋の元に歩み寄って、その腕に抱きつくようにして寄り添った。

 向かい合うように置かれた、柔らかいクッションがついたイスは、まるで俺と千尋のように思えた。



 千尋は、布団の中、眠る拓人を抱きしめる。

 すっかり気をゆるして腕の中で眠る姿をみるにつけ、愛おしさが増し、このまま腕の中に閉じ込めて置きたくなる。

 が、現実はそうはいかない。

 拓人はきっと大学で仲間を見つけ、やりたいことを見つけ、羽ばたいていく。それを妨げるつもりはない。

 拓人自身も、自分へそうしてくれるように。


 でも、心はここへつなぎとめる。


 拓人がどんなに遠くへ羽ばたこうとも、帰ってくるのは──。


「…千尋?」


 拓人が目を覚ました。目を瞬かせつつ、見上げてくる。千尋はそんな拓人の額にキスをして、


「まだ寝てていい」


 夜は明けきらない。あと小一時間ほどは眠れるはず。千尋の言葉に拓人は頬を緩ませると、


「うん…」


 そう言ってまた目を閉じた。

 その一方の腕が自然と千尋の腰に回される。抱きつく拓人に千尋もまた笑みを浮かべた。


 俺のもとだ──。



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