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その先の景色を僕は知らない 2  作者: マン太


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13/25

13.決意

 俺は他の職人と話し出した千尋には声をかけず、沢木にだけ(いとま)を告げる。


「あの、俺はこれで」


「お? ああ、拓人くん、帰るのかい? 千尋は──」


「さっき、紡さんを送っていくって。俺も大学による用事があったの思いだしたんで。──千尋、よろしくお願いします」


「あ、ああ…」


 沢木は幾分怪訝な顔をして見せたが、他の職人に呼ばれそこを離れた。

 去り際、チラと見た千尋は、ずっと話し込んでいる。真剣な様子に邪魔はできない。気づかれないよう、そっとそこを後にした。


 工房を出てバス停へと歩き出す。坂を下ってすぐにあるバス停だ。

 着いたと同時にバスが来る。それに飛び乗ると、その予定もなかったのに、途中でバスを降り、徒歩で大学へと向かった。

 バス停から少し歩くが、そこまでの距離じゃない。道中人通りも多いため、蒼衣の事を気にする必要はなかった。

 初夏の光が、木々の間から透けて差し込む。歩くと汗ばんだ。丘の上にある大学で、道中、坂を上ると海が見える。キラキラと水平線が光って見えた。

 ほんとうは、あの道沿いをドライブして、海へ降りてちょっと佇んで。


 そんな時間を過ごしたかったのだけれど──。


 そこまで思って、ポロと目の端から涙がこぼれた。


 やだな。情緒不安定だ。


 慌てて手の甲で拭って、思わず苦笑を漏らす。

 俺が望むのは、ただ、千尋と長く幸せに暮らすことだけ。

 大家族を作ったり、家系を支えたり、そんな立派な未来じゃない。ささやかなそれだけだ。

 それで充分。

 けれど千尋にとって、それは本当に望むものではないのかも知れない。


 俺の中の幸せと、千尋の幸せは重ならない。


 蒼衣とだって、本当は結婚して家族を作ろうとしていた。紡となら、もっと建設的な未来が開ける。

 紡と結婚して、沢木の工房の後を継いで。子どもをつくって、沢木に孫の顔を見せて。

 さらにさきへと繋がっていく。千尋の欲しかった家族がそこにある。


 俺は──。


 きゅっと手を握り締めた。



 それから、休日も開いている大学の図書館で暇をつぶして、コンビニでサンドイッチとパックジュースを買って、それを手にバスと電車を乗り継いで海へと向かった。

 休日の浜辺は人でにぎわっている。それらが見渡せる階段状になった石段に座ると、ひとつ息をついた。

 これはこれで楽しい。きっと一人ならこれが当たり前で。だいたい、ちょっと前まで引きこもっていたじゃないか。

 視線を目の前に広がる海に向ける。


 ──けど、ここはただの海辺だな。


 千尋がいれば、きっとここは南国の島の休日になったかもしれない。


 千尋がいれば──。


 そこまで思って、また頬を涙が一筋こぼれた。

 千尋がいれば、どんなつまらないと思える世界も、楽しく思えた。見事な色がついて見えたのだ。

 俺は千尋が好きで。別れたくなどない。


 でも、好きだからこそ──。


 視線の先には、幼い子どもを真ん中に、左右に父親と母親が手をつなぎ、一緒に並んで波打ち際で遊んでいた。

 俺は石段に手を付いて空を見上げる。

 どこまでも高く続く空は、それでも心を幾分晴れさせてくれた。



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