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プロローグ「世界の終わり」

この世界は、気まぐれな女神によって創造された。彼女の意志は時に天災となり、人類に試練を与えた。だが、その試練が最大の災厄となる日が訪れるまでは、アストラリスと呼ばれる古代文明が魔道技術の絶頂を極めていた。

アストラリスは、魔石を動力源とする技術で未曾有の繁栄を築き上げた都市だった。中心には巨大な魔力塔がそびえ立ち、夜空を青白く照らす魔石の光が星々を凌駕した。魔道技術はあらゆる分野で革新をもたらし、機械人形が労働や戦闘を担い、魔力回路を組み込んだ浮遊船が空を飛び、魔石のエネルギーで動く自動農場が食料を無尽蔵に供給した。富裕層の生活範囲には、魔素を浄化する巨塔が設置され、黒い魔石から放出される有害な魔素を無害化し、彼らの健康を守っていた。アストラリスの民は「我々は女神をも超えた」と誇り、魔道技術の進歩に絶対的な信頼を寄せていた。

だが、繁栄の裏には暗い影が潜んでいた。アストラリスの社会は、魔石の恩恵によって階層化が進んでいた。魔石採掘や魔道技術の研究に従事する富裕層は、都市の上層にそびえる輝く宮殿で暮らし、魔力で動く自動人形に仕えられていた。一方、下層に住む貧民たちは、魔石採掘の過酷な労働を強いられ、魔素に曝露することで「魔石病(黒石病)」に苦しんだ。魔石病は魔力過多による身体の崩壊を招き、皮膚が黒く変色し、激痛と共に内臓が溶ける不治の病だった。富裕層はこの病を「下層民の穢れ」と呼び、治療法の研究にはほとんど関心を示さなかった。

近年、小規模な隕石が年周期で降り注ぐようになり、アストラリスの研究者たちはそれを巨大隕石襲来の前兆と捉えた。隕石は「星の欠片」と呼ばれる黒い魔石をもたらし、魔力を増幅する恩恵を与えたが、同時に魔石病の原因となる魔素を放出した。富裕層は地下シェルターを建設し、魔素から身を守る準備を進めた。しかし、魔素浄化の技術が不完全であったため、地上に戻っても魔素に適応できないと判断。研究者たちはデウスマキナ計画を基に、新たな計画を発案した。地下シェルター内で自分たちの脳を機械人形に移し、魔素の影響を受けない新たな存在として生き延びる――それが「ネオマキナ計画」だった。

アストラリスの魔道技術の頂点は、研究施設の地下深くで進められていた「デウスマキナ計画」に現れていた。そこは魔力回路が脈打つ巨大な施設で、黒い魔石を動力源とする魔力砲が眠っていた。魔力砲は、迫りくる巨大隕石を消滅させる最終兵器として開発されており、女神の気まぐれによる天災に対抗する最後の希望だった。デウスマキナ計画は、この魔力砲を制御するための鍵として、自我を持つ機械人形を創り出すプロジェクトだった。

研究者レオンは、デウスマキナ計画の中核を担う人物だった。彼の娘カティアは、魔石病に侵されていた。黒い魔石の魔素に曝露したことで発症したカティアは、幼い体で闘病生活を送りながらも、父に微笑みかけていた。レオンはカティアを救うため、魔石病の治療法を模索したが、アストラリスの社会は病に無関心だった。レオンは、巨大隕石の襲来とその後の魔素汚染が文明を滅ぼすことを予見していた。彼はデウスマキナ計画を急ぎ、衝突前に計画を完成させる決断をした。カティアの脳を移植し、高性能AIチップを埋め込んだ機械人形、デウスマキナ00型プロトタイプ――後のマキナ――が、隕石襲来の直前に誕生した。

だが、その日は突然訪れた。空が赤く燃え、星々が消えた。巨大な隕石が襲来しアストラリスの観測機が反応した。研究施設の地下深から、魔力砲が地上にせり上がり、轟音と共にその姿を現す。黒い魔石が不気味に輝き、青白い魔力の光が天を貫く。巨大隕石が射程範囲に入った瞬間、魔力砲が発射された。だが、巨大隕石を完全に消滅させることはできず、砕けた破片が隕石群となって降り注いだ。衝撃波が都市を飲み込み、地下シェルター内の機器に異常をきたし、機能停止に追い込まれた。ネオマキナ計画は未完のまま終わり、魔石病がさらに広がり、古代文明は滅亡へと追い込まれた。

研究施設の地下深くで、レオンはカティアの病室にいた。カティアは虚ろな目で父を見つめ、か細い声で呟いた。「パパ…お腹空いた…」レオンは涙を堪えながら彼女を抱きしめた。「カティ…必ず君を守る。たとえこの世界が終わっても…」彼はカティアの脳を急いで摘出し、研究施設の最深部へ駆け込む。そこにはデウスマキナ00型プロトタイプが待っていた。カティアの脳とAIチップを移植し、動力源である黒い魔石を心臓部に埋め込む。「これで君は永遠に生きられる…」と呟くレオンの声は、崩れ落ちる施設の轟音にかき消された。

隕石群の衝撃で研究施設は封鎖され、デウスマキナ00型は地下深くのメンテナンスポットで眠りにつく。だが、彼女のエメラルドグリーンの瞳には、微かな光が宿っていた。それはカティアの記憶か、それとも新たな生命の兆しだったのか――。

長い時が過ぎ、滅亡した文明の遺跡は「ダンジョン」として現代の冒険者たちに探索されることになる。地下深くで眠る機械少女、マキナの物語が、今、始まる。



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