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「君を迎えにきたんだ。書類の用意も出来ているから、城で一緒に確認しよう! さぁ、行こう!」


 クリストファー王子の後ろには、疲れた顔をしたエリックさんが立っているのが見えた。


「クリスそんなすぐには無理だろう、ルーナの支度もあるだろうし……。そもそも彼女には仕事があるんだから、城へ来れるかも分からないだろう」


「もちろん無理にとは言わないさ。どうかなルーナ?」


 寝起きの私に、彼の笑顔はあまりにも眩しい。

 王子様っていつでもこう、キラキラとしているものかしら……?

 何もしていないのに、何だかとても疲れたわ……。


 王子に質問をされている訳だけど。何も言葉が出てこない、頭が働かない。……私はどうすればいいのだろう。

 とりあえず寝起きのこんな格好じゃ、クリストファー王子に失礼よね。そんな事だけが頭に浮かんだ。


「とりあえず、着替えてきます」


 王子に背を向け、フラフラとした足どりで戻っていく。


「あ、ルーナ! 店に興味があるんだ、店内で待たせてもらってもいいかな」


「お好きにドーゾ」


「ありがとう!」









 今のは夢、なのかしら。


 自室で着替えながら、そんなことを考えてみる。

 昨日の出来事は私にとって非現実的過ぎる1日だったから、変な夢を見てもおかしくないわ。


 ならば、今も私は夢の中……?


 夢と現実ってどう区別すればいいのかしら。





 お気に入りのこのローブを羽織れば、着替えは完了。


 クリストファー王子がいる店内へと向かった。


 店内は雑多に置かれた物で溢れている。それらを物珍しそうに眺めるクリストファー王子の姿を、私はじっと見つめた。

 いつも私の座っている椅子の位置からは、店内がよく見渡せる。彼は私が見ていることにこれっぽっちも気がついていないみたい。


 隣に立っているエリックさんも、王子同様に店内の品が気になるらしい。

 そういえば訪れるお客達も、お店に入るとキョロキョロと辺りを見回している事が多い。私のお店は大した物は置いていないけれど、何がそんなに気になるのだろう。


 あ、エリックさんがこっちに気が付いたわ。さっそくクリストファー王子に耳打ちしている。

 こちらに視線を向けた王子は、笑顔で手を振っていて、何だか動物に懐かれたような気分になってきてしまった。


 会計用のテーブルの横に備え付けられた階段を降りて、王子たちの元へと行く。


「ルーナ、支度は終わったのかな?」


「着替えは終わったけど、洗濯もしたいし、薬草も摘みたいわ。朝食だってまだ食べていないし……、というかまだ5時半よ。クリストファー王子、何時からあそこにいたんですか……?」


「うーん、何時だったかな?」


 ふわふわとした王子を横目に、私はエリックさんの方へと体を向けた。


「あの、これは現実なんでしょうか。それとも私の夢なのでしょうか。こんなところにクリストファー王子がいるだなんて、その……信じられなくて」


「夢であってくれたなら、どれほど良かったか。まぁ悪い事ばかりではありませんが」


 やれやらといった様子のエリックさんの横から、ひょいとクリストファー王子が身を乗り出してきた。


「ルーナ、僕の真似をして頬をつねってごらん」


 王子は真剣な表情で自分の頬をつまんで、思い切り引っ張っている。

 私も王子を真似て、思い切り頬をつねった。


「こう、でしょうか」


 思い切り頬を引っ張りながら王子に問う。正直めちゃくちゃ痛い。王子は一体どうしてこんなことを……。


「僕は今凄く頬が痛いんだけど、ルーナはどうかな?」


「私も痛いです」


「なら良かった。そしたらお互い夢じゃないね。もう手を離して平気だよ」


 先程の真剣な表情はどこへやら。王子はふわりと微笑みながら私の頬を撫でた。


 意外にも彼の手はひんやりとしていて、私のジンジンと熱を持つ頬を冷ますのには丁度いい。

 つねっていない方の頬までもが、熱を持っているのはどうしてなんだろう。


「赤くなってしまってるね、大丈夫かな」


 心配そうに顔を覗き込んでくるクリストファー王子。そのせいで今、彼との距離はあまりにも近い。

 ……近すぎる。

 思わず返事をする声が裏返ってしまった。


「だ、だ、だ、大丈夫ですっ!」


「大丈夫なら良かった。やりた事があるなら済ませてしまって大丈夫だよ。朝食はルーナが良ければ一緒に近くの町で食べないかい」


「は、はいっ」


 そのままの距離で普通に話し続ける王子。私は彼と距離を取りたくて、後ずさりながら返事をした。


「良かった。そしたら僕は馬車の中にいるから、ルーナはゆっくり用事を済ますといいよ」


「ありがとうございます」


 ようやく私から離れたクリストファー王子は、扉の方へ向かって歩いていく。


 その姿を見ているのは……、私ともう1人。エリックさんだ。


「フフッ、ククククッ……クリスってば面白いなぁ」


 彼は肩を震わせながら、堪えきれない笑いを漏らしていた。


「面白い、ですか……?」


「あぁ、とても面白いものが見れたよ。ルーナには悪いけど楽しませてもらった。代わりとは言ってはなんだけど、洗濯とか薬草摘みとかなら私にも手伝えるかな。できることがあるなら遠慮なく言ってくれ」


「そんな、大丈夫ですよ」


「クリスを待たせる時間を少なくするためでもあるからね、遠慮しないで」


「なら……、洗濯はほとんど魔法でやってしまいますから、薬草摘みをお願いしようかしら……」


 手伝ってもらうなら、やはりそちらだろう。


「任せてくれ」


「なら店の裏の方で待っていて下さいますか?」


「あぁ、分かったよ」



 店内から出ていくエリックさんを見届けて、私は洗濯物を取りに部屋へと戻った。


 浴室に置かれたカゴを持ち、私も店の裏へと向かう。


「エリックさん、お待たせしました」


「いいや、全然待っていないよ」


「それなら良かった。ではさっそく摘んで欲しい薬草を伝えますね」


 適当な所へ洗濯カゴを置き、店の裏にある物置小屋へ薬草を摘むときに使用するザルを取りに行く。


「お願いするよ。急がないとルーナもお腹が減ってしまうだろうし、頑張らないとね」


「ふふ、お気遣いありがとうございます」


 朝食は、近くの町へ食べに行こうと王子と約束した。


 そういえば、町での食事だなんて初めてだわ。町へは食料の調達くらいでしか行ったことがないもの。


 いつも、いい香りの漂うお店を見かけても、勝手が分からず入る勇気がなかった。


 そう思うと、今日の朝食はとても楽しみだ。


 朝食の為に、早くやることを済ませてしまわないと!


 急いで物小屋へと向かう。そして取り出したざるを手に、私はエリックさんの元へ駆けていった。





お盆休みが終わり、のんびり更新となりますがお付き合いいだけると嬉しいです。

ブクマや評価等、どうぞよろしくお願い致します。

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