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 馬車に揺られながら、エリックの話に耳を傾ける。


「私とクリスは幼なじみなんだ」


「それであんなに仲がよかったの」


「あぁ、クリス本人というか……、ご両親、国王陛下の話になるんだけど、クリスの父親は愛妻家で有名なんだ」


「それは素敵ですね」


「そうだね、優しい両親に育てられたクリスは、本人もあんなに優しく育った。クリスは基本的には老若男女問わず、誰にでも優しいからね」


「分かります、グリッドさんや騎士の皆さんにも、丁寧に接していましたから」


「国王陛下がね、よくクリスに女性には優しくするようにと仰っていた。真面目なクリスだから言葉をそのまま受け取ったんだろうね。それにクリスは仲のいい両親を見て育ったから、それを見本に女性を大切にするようになったんだ」


「女性に優しくすること自体は悪くないと思いますが……」


 クリストファー王子の優しさはあまりにも度が超えているように思う。


「まだ幼かったこともあって、加減がわからなかったんだろうね。立場もあって寄ってくる女性は多かったし、それに対してなるべく応じてあげようとしていた。幼少期の頃なんて、相手の要望も可愛いものだ。だから周りの人も、優しいクリスを褒めていたけど、今思えばそれがよくなかったんだろう」


「何となく事情は分かったけど……、誰も何も言ってあげなかったの?」


「もちろん言ったさ、優しくし過ぎるのはよくないってね。学園の高等部辺りからは周りの女性からの要望も過激になっていったんだ」


「過激……ですか?」


「恋人としてのクリスを求めるようになったとでも言えばいいのかな。彼女達はね、皇太子としてのクリスもだけど、多分本当にアイツの事が好きなんだ。あの優しさに当てられちゃうのかな」


「今日見かけてた、イザベラさん……でしたか。確かに2人は恋人のように見えました」


「クリスは自分の優しさが過ぎてることをわかっていない。一応アイツの中でも基準があるみたいなんだけど、その基準が甘いというかなんというか」


「基準というのは、どの辺り? と聞いていいんでしょうか」


「まず、婚姻をせがまれたらそれは断るし、その令嬢とは距離を置きたがるようになるね。令嬢達もそれを知っていて、アイツにその話はしない。あとは人に迷惑をかけないこと、傷つけないこと。人として当たり前のラインを超えればアイツでも怒るさ」


「クリストファー王子が怒るんですか!? 想像できない……」


「ふふっ、クリスは怒ると口をきかなくなるタイプだよ」


「あぁ……、納得です」


「だからね、今回クリスが自分の態度を改めると言ったのは凄いことなんだよ。まぁ、まだ本人はどこをどう直せばいいのか分かっていないんだろうけどね」


「そうだったんですね。少しでも力になれていたなら良かったわ」


「もう少ししたら、ルーナのお店に着くんじゃないかな」


 窓の外へ視線を向けてみたけれど、馬車の中の方が明るいせいで外の様子は見えない。変わりに見えたのは自分の容姿だった。


 白金で根元にかけて桃色に染まっている髪。瞳の色はピンクサファイアみたいだとお祖母様が言っていた。


 母親によく似ているらしいこの容姿は、私のお気に入り。


「あぁ、そうだ。転移の魔法の事なんだけれど、ルーナは出来るのかな?」


「それなら、準備は必要ですけど可能ですよ。場所を2箇所指定して、そことそこの間であれば転移できます」


「それは良かった。そうすればルーナもいつでも薬草を積みに来られるだろうし、クリスも喜ぶよ」


「クリストファー王子が、喜ぶ?」


「アイツにとって普通の女の子は初めてだっただろうからね、新鮮だったと思うよ」


「そういう……。エリックさん、私を普通の女の子だと言ってくださってありがとうございます」


「今日1日君を見ていてそう思ったんだよ。……ほら着いたよ」


 先に馬車から降りたエリックさんは、私が降りる時に手を差し出してくれた。まるでお姫様扱いされてるみたい……。


 私ったら、本の読みすぎなのかな。


「ありがとうございます」


「また明日伺ってもいいかな。今後のことについても話したいし、同意書とかそういうのも確認が必要だからね」


「分かりました。お客が来ていたらそちらを優先しますけど……」


「それは構わないよ。では、また明日」





 杖を振るって鍵を開ける。

 魔女の家は大抵、家主がいなければ勝手に鍵が閉まるようになっているからだ。


 慣れ親しんだ場所に、ようやく心が休まる。


 店内の奥へ行き、生活スペースへと移動した私は、とりあえず風呂場へ行き湯を沸かす。


 こうして自分の家を改めて見てみると、ほとんどが木で出来ていることに気が付いた。

 今日行ったあのお城とは、全然違う。


 普段しない体験を沢山したせいか、気持ちがいっぱいであまりお腹は減っていない。


 ローブを壁にかけて、使った魔法薬を補充していく。


 少なくなってきている魔法薬がいくつかあるわね。


 精神安定の魔法薬は沢山作り置きしておきたいわ。クリストファー王子からの依頼を受けるのであれば、大量に使うことになりそう。


 明日は早起きして、お店を開ける前に魔法薬を作ってしまおう。


 魔法薬の棚を確認して、減っているものをメモしていく。


 それから湯船の様子を見に行ってみれば、ほぼお湯がたまっていた。


 ぽいぽいと服を脱いで、お風呂場に置いてある棚から魔法薬を杖で取り出す。そして浴室へ入った。


 取り出した魔法薬は、湯船の中へといれる。するとお湯が白く染まり、甘い香りが浴室を満たした。


 お肌もスベスベになる、私特製の魔法薬。


 お風呂でリラックスした私は、魔法薬で髪を乾かし、お気に入りのベッドで就寝した。





 大変な1日だった。




 私の意識が沈むのは一瞬だった。










 翌朝、目を覚ました私は、まず外の空気を吸いに外へ出た。ついでに店の裏にある小さな庭から、薬草も積んでしまおう。そう思っていた。


 だけど、お店の外の景色はいつもと違った。


 豪華な馬車が1台、まず視界に飛び込んできた。


 馬車からは1人の男性が降りてくる。




「おはよう、ルーナ!」




 とてもとても、爽やかな笑顔。





「どうしてクリストファー王子がここにいるんですか!?」







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