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「どうしても、ダメ?」


「ダメと言いますか、その女性達から同意のサインは頂けるのでしょうか。それにクリストファー王子がそのままなら感情を抜き出しても同じことの繰り返しかと」


 同意が得られないなら、その人の感情には絶対に触れない。それはおばあ様と約束した絶対ルールだ。


 だから私は惚れ薬生成の依頼なんかも絶対に受け付けないと決めている。







 王子は手を顎に添え、少し考え込んでいるようだ。



「分かったよ、サインはしっかり貰う。僕も振る舞いには気をつける。それでいいんだよね」


「えぇ、同意の上でサインが貰えるなら問題ありません」


「良かった。振るいに関しては、周りに協力してもらいながら頑張ってみるよ。そうと決まれば城にルーナの部屋を用意しなくちゃね」


 あれ? 何かおかしなことが聞こえたような。


「えっと、あの……、私はもう帰ってもいいですよね?」


「どうして? これから僕ためにここにいてくれればいいのに、その方が楽だと思うんだけど」


「お店を放っておく訳にはいけませんから」


「クリス、無理強いはいけないよ。それに彼女が城で過ごすのは難しいんじゃないかな。ステンレスのような合金でも痛みが出てしまうようだからね」


 エリックの言う通りだ、きっと私がここで過ごすのは難しい。先程の痛みを思い出し、思わず手を摩ってしまった。


 クリストファー王子が、あからさまにガッカリとしていて、少しだけ申し訳ない気持ちになってしまう。


「だけど、魔女様は特定の場所を一瞬で行き来する手段を得ていると聞いたことがあるよ。その辺どうなのかな? それに城へ来ることはルーナにとって悪いことばかりじゃないよ」


「えっ、」


「薬草、毎回取りに行くの大変なんじゃない?」


「それは、そうですけれど」


「城には貴重な薬草も沢山あるし、クリスが一声かければ積み放題だよ?」


 貴重な薬草が積み放題……そんな上手い話あるの!? そんなお話受けてもいいの!?


 若輩魔女の私がそんな待遇、受けてもいいのかしら。


「ルーナ、それなら1度薬草園へ行ってみないかい? 凄く広いから驚くと思うな。そうと決まれば早速行こう」


 まだ行くとは言っていないけれど、クリストファー王子は当たり前のように私手を引いて歩き始めた。


「こんなに楽しそうなクリスは久しぶりだな」


 私の少し後ろを着いてきているエリックが、私にギリギリ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。


 彼の方を振り返ってみると、口元に人差し指を当てて、ウインクされてしまった。深くは聞かない方がいいのかしら。







「ルーナ、ここが薬草園だよ」


 私は目の前の建物を見上げた。


「ここが、薬草……園??」


 あまりの大きさに、圧倒されてしまう。


「世界の色んな土地や気候が再現されているんだ、説明するよりも見る方が早いよ。ほら、行こう」


 薬草園の中はとても広く、薬草の種類も凄まじい。


「嘘でしょっ!? 月光草の花が咲いているわ」


 月光草の花は、寒冷地隊の月夜にのみに咲く花だ。積んでしまうと直ぐに花が萎んでしまうため、薬草集めを生業としている魔女が、花のうちに煎じたものを物々交換で譲ってもらっていた。


 月光草の花を見れる日が来るだなんて信じられない。氷のような花びらがキラキラと輝いていてとても美しい。


 ……それにしても、寒いわ。寒いところの花だから、それに環境を合わせているのね。とても凄い技術だわ。


 だんだんと身体が震えてきて、両手で肩をさすった。


「ここは寒いから、次のエリアへ行こうか」


 クリストファー王子に促され、色んなエリアを見てまわった。けれどあまりにも広く、薬草園の全ての薬草を見ることは叶わかなった。


「ねぇ、ルーナ。薬草園は気に入って貰えたかな?」


「えぇ、とても気に入ったわ。あれだけあれば魔法薬も作りたい放題よ! そしたら沢山の人の力になれるわ!」


 言葉を言い終わると同時に、ふわりと頭に重みを感じた。


「えっ」


「ルーナは本当にいい子なんだね。可愛くて、優しくて、本当に素敵な女の子だ」


 柔らかなクリストファー王子の笑顔に、つい見蕩れてしまう。まるで口説かれているのではと勘違いしてしまいそう。


 だけど、これが彼の素なのだ。


「クリストファー王子、そういうところを直さないといけないんですよ」


「何かダメなところがあったかな?」


「むやみやたらに女性を褒めてはいけません。勘違いさせてしまいます」


「そういうものなのか……」


 私が少し怒ったふりをしながらそう言ってみれば、王子は驚いたように瞳を大きく開く素振りを見せた。


 そして今度は眉尻を下げて、口を開いた。


「僕は思ったことをそのままルーナに伝えただけなんだけど……、難しいね」


 だから、もうっ! そういうのが良くないのに。

 だけどこれを言ったところで、きっとクリストファー王子は理解出来ないのだろう。


 先は長そう。








「ルーナ、疲れたんじゃない? そろそろ送るよ、クリスもいいだろう?」


 話が落ち着いたところで、エリックが口を開いた。


「ルーナに無理はされられないし仕方ないね、また明日にでもお城へ来てね」


「明日ですか!?」


 当たり前にそんなこと言うクリストファー王子。明日もだなんて、私の体力が持たない。


「クリス、そのことについては私からルーナに道すがら話すよ。今日のお前は少し強引だ」


「そうかな? まぁ、エリックが引き受けてくれるというなら安心だ。よろしく頼むよ」


「あぁ、引き受けた」










 薄暗い夜道を馬車が進んでいく。馬車の中には私と騎士であるエリックの2人きりだ。


「ルーナ、今日はありがとう。みんな君にはとても感謝をしているよ。あのクリスが女性への態度を改めようとしてくれたんだからね」


「私は何も大したことはしていないけど……」


「そんなことはないさ。……クリスはあんなんだけど、自分にはとても厳しいし、仕事には手を抜かない奴だ。女性に優しいのにも一応理由はあるんだよ。帰りの道中に、クリスのことについて話してもいいかな」




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