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 お腹も膨らみ満足した後、私はクリストファー王子に見送られ王城を後にした。


 帰りの馬車の中、エリックさんと2人きり。


 窓の外を眺める私に、彼が話しかけてくることは無かった。


 今日の出来事を未だにしっかり呑み込めずにいる私に、配慮をしてくれているように感じる。


 外を見ていても景色が頭に入ってくることはなく、私の頭の中は、引き受けた仕事の事でいっぱい。


 グルグル、グルグルと、同じことを何度も考えてしまう。


 誰も幸せになれなかったという事実が、辛く私にのしかかる。それに、1人で落ち込み王子に気を使わせてしまったことも、申し訳なくて仕方がない……。


 仕事を引き受ける時に、もっとちゃんと考えるべきだった。だけど、しっかり考えたところで、私はこの事実にきがつけたのだろうか。


 自分の無能さが憎い。


 そもそも、自分がこんなにも無能だったなんて知らなかったわ。





 気がつくと、窓の外の景色は慣れ親しんだものになっていた。

 昨日と今朝の移動時間に比べると、随分とあっという間に感じた。


「ルーナ、今日はありがとう。3日後にまた王城へ来て欲しいんだけど、構わないかな」


 エリックさんの声色が、どことなく遠慮がちに聞こえる。


「構いません、私が引き受けた仕事ですから」


 引き受けたからには責任を持ちたい。その気持ちは確かに私の中にあるのだ。


 だけど……


「ルーナ、無理はしなくて大丈夫だよ。もし断りたいなら、それをクリスに伝えればいい」


「そんなことっ」


 許されるのだろうか。許されたとしても、そんな無責任なことを私はしたくない。


 ……3日間ある。その間に気持ちの整理をしっかり付けなくちゃ。


「エリックさん、お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です」


「そっか、分かったよ。また3日後、迎えにくるよ」


「分かりました。よろしくお願いします」


 エリックさんに見守られながら、私は店の入口から家へと入っていった。


 外はまだ明るいけれど、店を開ける気にはなれず、看板は『CLOSE』のまま。杖を振って扉の鍵を閉める。


 奥へ向かって歩いていくと、慣れ親しんだ匂いが私を包み込んでいった。家に帰ってきたのだと実感して、緊張していた身体から力が抜けていくのを感じる。


 ここへ来てようやく呼吸が出来たような気がした。







 生活スペースへ到着すると同時に、ローブを脱ぎ壁へと掛ける。そして、裏口へと向かった。


 お店を開ける気にはならないけれど、何もしないでいたら、また気持ちがおちこんでしまうもの。


 外へ出たら袖をまくり、数日前に干しておした薬草をかき集め、地下の工房へと持っていった。


 作業台の上にかき集めた薬草の入ったカゴを置いたら、今度は中の薬草の確認だ。


 魔力を込めながらかき混ぜ、水分の抜け切り具合を確認していく。

 この時に込める魔力の密度が高ければ、薬草の効能がグンと上がるの。


「大丈夫そうね」


 抜け切ってなかったとしても、どっちみち魔法でなんとかなるんだけどね。おばあさまは、なるべく自然の力で魔法薬を作ることにこだわっていた。だから私もおばあさまのこだわりを引き継ぎたいと思っている。


 おばあさまが言うには、その方が魔力が込もりやすく、効能があがるらしいの。


 その教えのおかげか、私の作る魔法薬はよく効くってお客がよくそう言ってくれる。


 今作っているのはただの風邪薬だけど、結構人気で直ぐに売り切れてしまう魔法薬だ。




 作業用の手ぶくろを付けて、棚から鍋を取り出す。そして、釜の上へと置いた。


 その中へ薬草を放り込む。


 釜の中には火の魔石が置いてあって、そこへ魔力を込めると炎がともる。


 薬草を温めて余分な水分を吹き飛ばすと共に、先程込めた魔力をより一層強めるために魔法を使って鍋の中の薬草をかき混ぜる。


 乾燥した葉は、次第に形を失い粉状になっていく。すると不思議なことに、魔力が形をもち輝き出す。こうしてキラキラとした色鮮やかな粉が完成するのだ。


 風邪薬となるこの魔法薬は、綺麗な黄色味のかかったグリーン色の粉になる。


 私は出来上がった粉を、小さな瓶へと移していった。

 中の魔法薬はキラキラと輝いていてとっても綺麗。出来栄えは完璧だ。





 私は瓶を店内へと運び、棚へと並べていく。この魔法薬が誰かの役に立ってくれることを考えたら、自ずと元気が出てきた。


 ふと、クリストファー王子の顔が脳裏に浮かぶ。


 柔らかく微笑む、彼の表情が好き。


 色々と心をくだいてもらったのだから、今度は私が彼に何かを出来ればいいのに。


 そう思うと、今並べている魔法薬が目に止まった。


「これをクリストファー王子に差し上げよう」


 彼だって体調を崩すこともあるだろう、その時に役に立ってくれたら嬉しい。

 風邪薬の他にも傷薬だってある。エリックさんは騎士なのだから、傷薬があると安心かもしれない。


 自分に出来ることはこれだ! そう思うと、心が一気に元気になったような気がした。









 次の日の朝、私は早朝から薬草を摘むために近くの森を訪れた。カゴいっぱいに薬草を採り、そして家へと帰る道を辿る。


 この薬草達がクリストファー王子の役に立ってくれる。そう思うと、早く帰って薬草を日陰干ししたいと、気持ちが逸る。


 魔法で水分を飛ばしてしまいたい気持ちに駆られるけれど、その行為は薬の効能を落とさない為にぐっと堪えなければ。




 家が見えてくると、早く帰ろうと足の動きが早まる。その時だった、誰かがお店の前に立っているのが視界に映る。それと一緒に立派な馬車が止まっているのも見えた。


 クリストファー王子が迎えに来てくれた時とは、また違う馬車のようだ。


 近づいていくと、店の前に立っている人の影がハッキリとしいてく。そして、その人物に驚いた。


「えっ、リディナさん!?」


 昨日私が恋心を取り除いた令嬢だ。


 私の声は彼女の耳にまで届いたようで、リディナさんは振り返り、私の姿を視界にとらえた。


 瞳を揺らした彼女は、一目散に私の元へ掛けてくる。そして私の前までくると、綺麗なドレスが砂に汚れてしまうことも気にせず、額を地面へ擦り付けるように頭を下げた。





「ルーナさん。昨日の非礼、大変申し訳ありませんでした。心よりおわび申し上げます。そして、私から恋心を抜き取ってくださったこと、感謝しております」





 これは一体……。私は目の前の理解し難い光景に、ただ立ちつくすことしか出来なかった。





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