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「2名様ですか?」


 店員女性の明るい声が鼓膜を揺らす。店内には甘い香りが漂っていた。

 甘い食べ物であることは間違いなさそう。


「2名でいいよ」


「かしこまりました。お席へご案内致しますね」


 あら、エリックさんたちは来ないのかしら?


 後ろを振り向くけれど、誰の姿も見当たらない。


「エリック達なら後から来るよ」

「そうなんですね」


 店員さんに続いて、店内の奥へと進んでいく。まだ朝早いせいか店内は空いていた。


 女性2人組と、1人で来ている人がちらほらといる。


「こちらの席へどうぞ」


 店員さんが案内してくれたのは、2人がけのソファが、机を挟んで向かい合っている席。


「ルーナ、ここへ座るといいよ」


 クリストファー王子に指定された、手前のソファへ腰を下ろす。すると王子も私に続いてそこへ腰を下ろした。


 てっきり机をはさんで向かい合うとばかり思っていたわ。


 横に座った王子を見上げると、ニコニコとしていて、何だかご機嫌そう。


「ご注文がお決まりの頃に、またお伺いしますね」


 店員の女性は、頬を染めながらクリストファー王子に向かってそう告げた。

 そんな彼女の様子を見て少しだけ安心する。やっぱり誰から見ても、クリストファー王子はかっこいいんだわ。私がおかしい訳では無いんだ。


「これがメニューだね、ルーナは何か気になるものある?」


 王子が手に取ったのは手書きのメニュー表。目を通してみるけれど、どれを選べばいいのか全然分からなかった。


 どうしようかしら……。


「どれも気になるなら、お店の人に任せようか?」


「お任せできるんですか?」


「出来ると思うよ、聞いてみようね」


 私は首をたてに振って、店員さんが来るのを待つことにした。





「ご注文はお決まりになりましたか?」


「パンケーキがいいんだけど、見た目が可愛いものを2種類見繕ってもらえるかな? あとは、このブレンドティーを2つお願いするよ」


「かしこまりました」


 注文を確認した店員が、戻っていくのを目で追う。すると、店内の他の席にエリックさん達が座っているのが見えた。


 彼らは数人でテーブルを囲んでいる。


 皆さん、クリストファー王子の警護の為にいらしているのね。


「ルーナ、何を見てるの?」


「エリックさん達を見つけたので、皆さんクリストファー王子の警護でいらしているんですよね?」


「ルーナ、今の僕はお忍びだから、王子っていうのは秘密ね。警護はエリックだけでいいって言ったんだけど……みんな心配性だね」


「あ、ごめんなさい」


 思わず自分手で口を塞いで、王子に謝罪の言葉を告げる。


「伝え忘れていた僕が悪いんだから、ルーナは謝らなくていいんだよ」


「は、ぃ……」


 王子が悪くないと言ってくれても、罪悪感は拭いされなくて私は俯いてしまう。





「お待たせいたしました。ドリンクとパンケーキになります」


 頼んだものがタイミングよく運ばれてきた。


「これが、パンケーキ……」


 これはパンなのだろうか、プルプルと震えていてとても柔らかそうなものがお皿の真ん中に乗っている。その周りは、ソースやフルーツでふんだんに彩られていた。

 フルーツはキラキラと輝いていて、まるで宝石のようだわ。


「ルーナ、初めてのパンケーキはどうかな」


「す……、凄いです! 見た目だけでもこんなに素敵だなんて! 一体どんなお味なのかしら」


「あ、そうだ。ルーナはこれを使って食べてね」


 クリストファー王子が私に差し出したのは、木で出来たフォークとナイフだった。


「クリストファーおうっ……、えっと……用意してくださったんですか。ありがとうございます」


「正確には、執事のグリッドが持たせてくれたんだけどけね」


「わぁ、グリッドさんが! とても気の回る方なんですね」


 昨日グリッドさんが用意してくださったお茶が、とても美味しかったことを思い出す。


「そうだね、グリッドには小さい頃から沢山お世話になってるよ。ほら、ルーナお食べ」


「は、はい。いただきます」


 グリッドさんが用意してくださった、フォークとナイフを持ち、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 目の前のパンケーキとやらは、一体どんなお味がするのだろうか。


 フォークでパンケーキに触れると、まずその柔らかさに驚いた。切り分けたパンケーキを、イチゴやベリーのジャム、そしてアイスクリームと一緒に口へと含む。


「ふわふわだわ!! それにフルーツの甘酸っぱさも口の中に広がってとても美味しい……。アイスの甘みもとてもいいわ、このパン自体はそんなに甘くないのね。凄いわ、見た目も素敵でお味もこんなに美味しいだなんて」


「ふふ、やっぱり可愛い反応を見せてくれたね。ほら、僕のもお食べ。こっちはブドウがのっているよ」


「そ、そんな……申し訳ないです」


 驚かないよう覚悟しようと思っていたのに、すっかり忘れていたわ……。こんなにはしゃいで、私ったら恥ずかしい。


「僕もルーナのパンケーキを少し貰いたいんだ。どうかな?」


「それなら、仕方ありません……」


「ありがとう」


 もはや当たり前だけど、王子の分のパンケーキもとても美味しかった。それにお茶も、カップの中に刻まれた桃が入っていて、香りもお味も、もう最高。


 お腹が満たされ幸せを感じると同時に、支払いをどうすればいいのか分からない事に気がついた。


「あ、あの……。クリストファーおっ……えっと、お金はどうしたら?」


「それならもう、エリックが済ませているよ」


「まぁ、ありがとうございます」


 後でエリックさんへお支払いすればいいのね。確かにまとめて支払ってしまった方が店員さんは楽だわ。


「ねぇ、ルーナ。僕のことはクリスって呼んでよ」


「え、」


「またこうして出かけることもあるだろうし、普段からそう呼んで慣れておいたほうがいいと思うんだ。ね?」


「努力……します」


「うん。頑張ってねルーナ」


 そう言ったクリストファー王子、もといクリス……さんは、私の手を握って歩き出した。


 というか、またこうして出かけることがあるの? 嬉しいような、こそばゆいような、何とも言えない気持ちになる。


 半歩ほど前を歩く王子を見上げれば、彼の綺麗な金髪が風でなびいてる。その髪は太陽の光で透けていた。

 肌も陶器のように綺麗で、本当に作り物のように美しい人。


 私の視線に気がついたのか、彼の碧色の瞳が私を映した。


 視線が絡み、ドキリと心臓が跳ねる。


 咄嗟に視線を逸らしてしまって、勝手に気まずい気持ちになってしまった。


「ルーナは、可愛いね」


 頭上から聞こえてきた声に、私の顔は一気に熱くなる。それを悟られたくなくて、しばらくは下を向いたまま歩いた。





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