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今日はここから  作者: いのくちりひと
第2章
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(09)

 スタジアムで会う人たちと仲良くなるきっかけには、大きく分けて2つのパターンがある。1つは対面で直接知り合って仲良くなるパターン。さっき会ったユミさんとヨースケさんのような例だ。もう1つはSNSで知り合ってから実際に会ってみたパターン。カオリさんとはSNSが先だった。

 何年か前のこと。いつだったのかも、どんな内容だったのかも覚えていない。たまたま目に入ってきたカオリさんの投稿が、たぶん僕にとって心地良かったのだと思う。それをきっかけにカオリさんの投稿を気にするようになって、お互いの投稿に共感したり返信したりするようになった。「いつかご挨拶したいです」と言ってみたけどその機会はなかなかなくて、スタジアムで初めて会えたのが前回のホーム戦、つい2週間前だ。

 決して怪しい出会いじゃない。直接会うまでにわりと時間がかかったから、SNSを見ていて感じる以上にカオリさんはきっと慎重な人なんだと思う。僕とカオリさんをそれぞれ知っている共通のサポ友さんが引き合わせてくれて、ようやく会うことが出来た。

 ビールと日本酒と美味しい食べ物が好きで、呑むことも食べることも好き。カオリさんのSNSからはそんな様子が感じ取れた。旅行好きな印象もあって、アウェイ戦にもよく旦那さんと現地まで遠征される。社会人と大学生にそれぞれなったばかりの2人の息子さんがいるようで、カオリさんの年齢はたぶん僕より少し上か同世代。楽しむことが上手で行動的で(じょう)に厚い。僕が想像していた人物像はそんな感じだった。

 実際に会ってみたカオリさんはたぶん、外見を除けばだいたいは想像していた通りの人なんじゃないかと思う。ふっくらした体格の肝っ玉母ちゃん(ふう)だという僕の想像はまったくのハズレ。実物はわりと細めな体型で、長くて黒い髪を後ろでひとつに束ねて、なんとなく(ひん)が良さそうな感じ。雰囲気は妻の美紀に似ている。

 ビールのカップとコロッケの包みを手に持って話しかけてくる姿は想像通りで面白かったし、見た目の品の良さとのギャップも面白かった。

「この前のドラマ、ダイスケさんも見てたんですよね?」

 通路の真ん中で立ち止まっての長話は他の人に迷惑をかける。とはいうものの、挨拶ついでに軽く話をするつもりが気がついたら長話になっている、なんてことはよくあることだ。僕も含めていつもみんなこんな感じだろう。

 行き交う人や行列に並ぶ人の数は多いけど、向かい合う屋台と屋台の間の通路は広い。それでも少しだけ通路の端に移動することにした。もう少しカオリさんの話を聞いてみたいと思った。

「ドラマって、福さんが出てたやつのことですか?」

 そう僕が聞き返す。そのドラマなら多くの立花サポが見ていたと思う。

「そうそれ。ちょうどドラマの時間にダイスケさんがSNSに『泣ける~』って投稿してたでしょ? 見てるんだろうなって思ってました」

「見てた見てた見てました。めっちゃ泣きましたよ、あれ」

 ドラマのタイトルは忘れたけど、地元のローカル局がFC立花とのコラボで制作したドラマ。このスタジアムが舞台になっていて、クライマックスの応援シーンでは実際の試合での応援風景が使われていた。

 ストーリーはサポーターの女の子の成長物語。事故で家族を亡くしてひとりぼっちになってしまった女の子が大人になって、かつて家族と来ていたスタジアムに再び通うようになるという話。スタジアムで出会う人たちとのふれあいの中で少しずつ心の傷が(いや)されて、幸せに向かって歩き出すというところまでを描いていた。

 よく知っている地元の身近な場所が物語の舞台になっていたこともあって、僕はそのドラマをとても感情移入して見てしまった。仮に僕があの場にいたとしても同じように主人公の女の子を応援したいと思ったし、ああやって応援されてる女の子を(うらや)ましいとも思った。

 福さんを含めた何人かの選手が本物の役者さんに混ざって選手役で出演していて、珍しく美紀も僕と一緒にドラマを見ていた。

 美紀は僕の好きな人情ドラマに普段はあまり興味を示さないけど、福さんのことは個人的に知っているし、スタジアムの他にも公園とかお城とかお店とか、知っている場所がいくつも出てくるこのドラマを身近に感じていたようだ。美紀がそうであったように、立花サポではない他の人からの反応も良かったらしく、このドラマはチームの知名度アップにとても良い企画だったんじゃないかと思う。


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