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今日はここから  作者: いのくちりひと
第2章
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(07)

 地上2階に相当する高さのスロープの上からは、眼下に広がる屋台村の風景がよく見える。ここはサッカーの試合が行われるこのスタジアムの他にも、野球場やプールやテニスコートなどの施設がある総合運動公園の中。

 右側に見えるのはスポーツ広場。全面に芝生を張った多目的な広場で、親子連れも含めて多くの子どもたちがボールを蹴ったり走ったりしている。

 左側には憩いの広場。子ども向けの遊具や何かのモニュメントがある。モニュメントの向こうは迷路に迷い込んだような感覚にもなる不思議な空間で、抜け出た先がフラワーパークだ。

 2つのエリアの真ん中の、南門まで続く広い通路に試合の日にだけ屋台が並ぶ。屋台には各種のスタグルやチームの公式グッズを扱うお店があって、それらをひっくるめて屋台村と言う名前がついている。まず目に飛び込んでくるのは人の多さ。今日も大盛況。人の重なりで地面が見えない。

 スタグルというのはスタジアムグルメの略。つまりは食べ物の屋台だ。唐揚げとか、焼きそばとか、カレーライスとか、牛丼とか。他にもいろいろある。ここのスタグルはJ1も含めたJリーグ全体の中でも、とても評判が良いらしい。

 手前の大きな木が並んでいる周りにベンチがいくつか置かれていて、多くのサポーターがそれぞれ会話を楽しんでいる。僕が知ってる顔もいる。直接知っている人や、話したことはないけど知っている人、もちろん知らない人もいる。いつか話をしてみたいと思ってる人もいる。

 木の種類は桜。今は秋だから咲いていないけど、もしもこれが春であれば花見をしている気分にもなれる良い場所だ。

 スロープの手摺(てすり)に背中を預けて寄りかかりながら、僕はジーンズのポケットからスマホを取り出した。SNSにメッセージが届いている。

『来てますよ』

『屋台村で食べてます』

 僕がさっき投稿した『今日はここから』に対する和美(かずみ)さんからの返信。メッセージの最後にビールジョッキの絵文字が付いているから、食べているだけじゃなく既にビールも飲んでいるのだろう。

 中本(なかもと)和美さんは今日の対戦相手である阪奈(はんな)FCのサポーターで、旦那さんである陽一(よういち)さんと2人で昨日から泊まりで立花へ遠征に来ている。昨夜は2人に誘ってもらって僕も晩御飯をご一緒したけど、酔っぱらった和美さんの高いテンションに押されて僕はもうたじたじだった。

『僕はこれから屋台村』

『見つけたら声かけます』

 そう返信してからスマホをポケットに突っ込んだ。今すぐ会うのなら待ち合わせ場所を決めるけど、僕も自由にふらふらしたい。昨日はたくさん話をしたし、まだ時間はあるからきっと後で会えるだろう。でも会ったらきっと和美さんに怒られるとは思う。

 スロープを降りたところで、再入場のためのスタンプを押してもらう。特殊な光を当てたときだけ印影が見える仕組みのスタンプで、押されたはずの右手の甲には今は何も映っていない。ちゃんと押してもらえたのかどうか少しだけ不安になるけど、再入場で止められたことは今までに1度もないから、今回もきっと大丈夫。

 こうしていったんスタジアムから外に出る。ここからが屋台村の始まりだ。

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