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今日はここから  作者: いのくちりひと
第1章
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(06)

「ところで今日はヨースケさんは?」

 やっぱり気になって聞いてみた。ユミさんの隣にヨースケさんがいないというのは違和感のかたまりでしかない。

「来とるよ。ほれ、ちょうど出てきた」

 ユミさんの視線を追いかけてみたら、ヨースケさんがこちらに歩いてきているのが分かった。さっきからユミさんの視線が何度も動いていたのは、ここでヨースケさんを待っていたからなのだろう。

 ヨースケさんは背が高くて肩幅も広い、上にも横にもがっしりしたタイプ。黙っているときはちょっと怖い感じの人だけど、わりとイケメンな部類。ケンカは強そう。最近は短髪に白髪が少し目立ってきて、以前よりもさらに貫禄が増している。

 僕に気が付いたヨースケさんは笑顔になって両手を上げた。僕も両手を上げ、タイミングを合わせてハイタッチ。お互い「ウェーイ」みたいな声をあげる。強面(こわもて)のヨースケさんが陽気なおっさんに変身した瞬間だ。

 イケメンで優しくて強くて余計なことはあまり喋らないけど、いざ口を開けば話にユーモアがあって面白い。僕に無いものをたくさん持っていて、僕は(ひそ)かにヨースケさんのそういう部分に(あこが)れている。話好きのユミさんは進んで僕に話しかけてくれるけど、ヨースケさんは自分からはあまり話しかけてくれない。嫌われているわけではなさそうだけど、もう少しヨースケさんと仲良く話せたらいいなと思う。お酒を飲みながら話せたらもっと面白くなりそうで、いろんな話を聞いてみたい。

「先週のアウェイ戦、現地まで行っとったやろ? 映っとったの見たよ」

 先週の試合は関東に遠征したアウェイ戦。僕は自宅で画面越しでの応援だったけど、その画面の中にユミさんとヨースケさんがいるのを見つけていた。

「めっちゃショックやったわ。始まってすぐ失点してさ……」

 ヨースケさんがそう言ったところで先週の負け試合を思い出してへこむ。勝つつもりの試合を何度も落として、最近は切り替えるのにも時間がかかる。何度もぐるぐるしながらようやく切り替えられたはずなのに、またあの悔しさを思い出してしまった。

 たぶんヨースケさんも同時にへこんだ。おとなしくなった熊のよう。へこむとまたつい愚痴が出そうになる。でも終わった話だ。今日の試合に向けてもう一度切り替えなきゃいけない。

「そうやん。ダイスケさんこれ、お土産あげる」

 切り替えてくれたのはユミさんで、遠征に行ったときのお土産を鞄から取り出した。サポ仲間に配り易いよう個装してあるお菓子を選んだのだろう。定番のバナナのシリーズだけど、僕は見たことがないやつ。

「ありがとう。――チーズケーキ?」

「うん、今って種類たくさんあるやん。チョコクッキーにしようか迷ったけど、ちょっとチャレンジしてチーズケーキにしてみた。初めて買ったけど、チーズケーキが嫌いじゃなければ結構いけると思うよ」

「へえー、今こんなんあるんやん。いっつもありがとね。今度なんか返すね」

「いーの、いーの。気にしない、気にしない」

「前さ、僕がアウェイ行ったときにお土産買ったけど、ユミさんも現地に行っとったで意味なくて返せんかったやん」

「でもあのときは、ダイスケさんがアウェイに来てること自体が私は嬉しかったよ」

 またグッときた。

「そう言ってもらえると救われる」

「なに大袈裟なこと言っとんの!」

 ユミさんもヨースケさんも、きっとふたりは旅行好き。アウェイ戦でも現地まで応援に行ってる頻度が高い。遠征の後のユミさんのSNSにはそのときに観光先で撮った写真がよく載っていて、書いたコメントの最後にはだいたいヨースケさんへの感謝の言葉が綴られている。楽しかったことや嬉しかったこと、行けたことへの喜びや来年もまた一緒に行きたいという気持ちなど。

 傍目(はため)に見れば自由で活発なユミさんと、見た目は強そうなのに実は尻に敷かれていそうなヨースケさんとのお似合い夫婦。ユミさんが主導権を握ってるように見えるけど、本当はヨースケさんの大きそうな包容力に、甘え上手なユミさんが優しく包まれているんじゃないかと思う。

 ふたりは本当に仲が良い。

「今から屋台村?」

「その前にガラポン並ぶ」

 僕の問いにユミさんが答えた。スロープを降りる手前の通路にガラガラ抽選会の待ち行列が出来ている。回して出た玉の色によって景品が決まる福引きだ。

「そっか。じゃあ、また後で」

 僕は手を振って、スロープに向かってまた歩き始めた。

 うちも、美紀(みき)がサッカーに興味があれば良かったのにな。

 あのふたりを見ているとそう思う。ユミさんにもヨースケさんにも言っていないけど、スタジアムでいつも仲良く一緒にいる姿がやっぱり僕には(うらや)ましい。


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