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今日はここから  作者: いのくちりひと
第1章
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(05)

「うちの悠生(ゆうき)もサブ。今日も途中交代で後半とかから出てくるんかな。本当はスタメンで出てほしいけど、スタメンじゃダメなんやろか?」

 さきほどまでとは違い、今のユミさんは顔をしかめて不満げな表情をしている。

 悠生というのは、ユミさんがまるで本当の息子のように溺愛して応援する岡田悠生選手のこと。大学を卒業して昨年FC立花に入団したプロ2年目の成長株。ゴールを決めることが役割のフォワードと呼ばれるポジションで、足が速くてドリブルが巧いのが彼の特徴。

 足技を駆使した細かなタッチでボールを運び、真っ直ぐ前か、左か右か、どっちに行くのか予測がつかない(たく)みな動きで素早く相手の選手をかわして抜き去っていく。ユミさんはそういうタイプの選手が好きだ。

 若手というだけじゃなく、顔が童顔だからということもあるのだろう。彼のことを親目線で応援しているサポーターはユミさんの他にもたくさんいる。それでもユミさんの溺愛ぶりは僕の周りでは有名で、愛の深さでユミさんの上を行くのは実のご両親だけなんじゃないかと思うくらいだ。

 だから僕もサポーター同士で悠生の話をするときには、親しみを込めて彼の下の名前を呼び捨てで呼ぶ。身近なサポ友さんの推しの選手は僕にとっても愛着がわく。仮にユミさんが親代わりというのであれば、僕の場合は親戚とか近所のおじさんのような感覚だ。

 悠生は試合の流れを変えられる選手。最近は特に、試合の後半途中や終了間近に交代で入ってプレーすることが多い。今までも相手の守備が固くて攻め手に詰まったときに、悠生のドリブル突破からチャンスを作って味方のゴールを生んだ場面が何度かあった。だから途中交代でも悠生が出てくると、何かが起こるんじゃないかと思って期待が高まる。でも悠生が自身のシュートで得点したことは、プロに入ってから実はまだ1度もない。

 悠生にもっと長い時間をプレーさせてみたいという意見は、SNSの投稿でもよく見かける。悠生のプロ初ゴールとさらなる得点の量産を、多くのサポーターが待ち望んでいるんだと思う。特に悠生のことを熱く応援しているユミさんであれば、なおさらその期待は大きいだろう。

「スタメンで出て、まずは初ゴールを決めてほしいね」

 僕がそう言うと、

「そやろ」

 とユミさんが返す。

「でも相手の選手からしたら、自分たちが疲れてきた後半に悠生が出てきてあのスピードで走り回られるのは嫌やろな」

「それもそうやな」

「スタメンでもサブでも、まずは初ゴールやな」

「それな」

 この会話で完全に納得したわけではないのだろうけど、悠生の話になってから初めてユミさんが少しだけ笑った。


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