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僕と優香さんとが福さん復帰の感傷に浸っていた頃、哲也さんはレーコさんたちと別のいろんな話で盛り上がっていた。
「今年もやるんやよね?」
レーコさんが言ったその言葉が聞こえてきて、そこに鋭く反応した優香さんとともに僕もみんなの会話に加わった。シーズン最終戦の後の飲み会の話。今回は何人くらい集まるだろうかお店はどこにしようかと、哲也さんが企画し始めたことを僕は既に知っている。お店はまだ決まってないけど僕はもちろん参加の予定だ。
「そのつもりで予定空けてあるでね」
チホさんも哲也さんに向かって念を押す。
僕らの飲み会の幹事はいつも哲也さん。哲也さんはサポ仲間に顔が広くて人気があって、哲也さんが飲み会を企画すると多くの人が集まってくる。今年はその飲み会に牧君も加わることになりそう。参加するかどうかは奥さんに相談してから正式に答えを出すらしいけど、今シーズンの途中から挨拶をするようになった牧君とは、今よりもっと仲良くなりたいと思う。
そして僕にはもう1人、飲み会に誘いたい人がいる。カオリさんだ。さっきの屋台村では気まずいことになったけれど、今度の飲み会に誘ってみようと思う。話が上手くいけば旦那さんも参加されるかもしれない。旦那さんとも気が合うといいな。今はまだ誘う勇気がないけれど。
ヨースケさんとユミさんにも最終戦の後で飲み会に行く話をしてみた。2人には既に別のグループの会に行く約束があるらしい。残念だけどまた今度。いずれじっくりお酒を飲みたい。それをヨースケさんに伝えることはできた。
本当にいい人たちに出会えたと思う。僕はこのスタジアムに来るようになってから、いろんなことをポジティブに考えられるようになった。頑張っている誰かを応援する、そうすることで僕自身も頑張れて、そういう前向きな自分を好きでいられる。
「今日は絶対に勝つよ! 応援頑張ろうね!」
レーコさんがそう言う。
「今日勝って、次のアウェイも勝って、最終戦ももちろん勝って、その後の飲み会は昇格祝いのパーティーや! 他のチームには全部コケてもらわなあかんけど」
哲也さんが最後は笑ってそう返す。毎年この時期、僕らサポーターは身勝手に都合よく他力本願だ。他のライバルチームが負けてくれれば僕らの昇格の望みが繋がる。もちろん僕らは僕らで残り試合の全てに勝つことが前提だ。全部勝つ。絶対に勝つ。みんながいるから前向きになってそう思える。
試合が始まる直前までは、時間があればこんな感じでみんなと談笑。選手が入場してくるときには、ゲーフラを掲げてチャントを歌う。選手入場のときにだけ歌う特別なチャントがあって、それを歌うと心も体も震える感じで熱くなる。試合が始まる直前の、最後の切り替えスイッチだ。
負けたくないっていう気持ち。
勝ちたいって強く思う気持ち。
ピッチを見つめて歌いながら、強い気持ちを選手たちへと送り、同時にそれを自分自身にも言い聞かせる。
俺たちがともにいる、どんなときもお前と。
さあ行こうぜ、勝利掴もう、誇り胸に闘え。
俺たちはここで歌う、仲間の勝利を信じて。
熱い気持ちで、声を響かせ、誇り胸に闘え。
と、今日はそういう気持ちで勝利を掴むはずだったのに。
あかんて、ヤバいて、危ねぇて。
おぉ、ナイスキー。
掻き出せ、クリアや、大きくクリア。
小さい、げっ、正面。
あかんて、頼むて、誰か止めて!
あぁ、マジかぁ……。
相手の選手が打ったシュートが僕らのゴールに入ってしまった。