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今日はここから  作者: いのくちりひと
第6章
43/44

(43)

 シュート練習はクロスからのシュートに変わっている。クロスというのはセンタリングのことで、ピッチの左右どちらかの(サイド)からボールを中央に向けて蹴ること。高めのクロスに合わせたヘディングシュートは得点に繋がることが多い。

 福さんからのパスを受けて、悠生(ゆうき)が左サイドをドリブルしながら走ってくる。僕の位置からで言うと、向かって右のライン沿い。悠生はユミさんの推し選手だ。その悠生が縦に真っ直ぐ駆け上がってきて、ボールを中央に蹴り上げた。ゴールの前にクロスが上がる。それを澤田がヘディングシュート。山崎が右手を伸ばしてゴールの上へと(はじ)いて防ぐ。キーパーを()める「ナイスキー」という声が上がった。

「ピッチ内練習を終了してください」

 スタジアムDJのアナウンスが流れて、練習にキリをつけた選手たちから引き揚げを始める。まず最初に動いたのはキーパーの2人。さらに続いて何人かの選手たちが通路に向かって歩いて行った。通路の上に位置するメインスタンドからは、選手たちを迎える拍手や声援が聞こえる。

 ピッチ内練習の終わりを告げる2度目のアナウンスが流れたとき、悠生はまだ練習を終えずに再び左サイドを駆け上がろうとしていた。お約束なのか、傾向として2度目のアナウンスまでは練習を続ける選手が多く、ゴールの前にまだ残っている選手たちはこのタイミングで引き揚げを始める。と、急に悠生は進む方向を縦から斜めに変更した。すれ違う選手たちを左へ右へと()けながら、(たく)みなドリブルでゴール前へと切り込んでいく。悠生の見事な切り込み(カットイン)。そのまま右足でシュートを打った。

「ガン!!」

 シュートは残念ながらゴールには入らず、近いほうの(ポスト)に当たってゴールの前へと勢いよく跳ね返った。と、そこへ福さんの左足。ペナルティエリアの枠の外から、豪快な中距離(ミドル)シュートが放たれた。

 でも残念。ボールはゴールの枠の上を大きく越えて、ワンバウンド、ツーバウンドしてからスポンサー企業の広告ボードに当たった。打ちごろのボールが急に目の前に転がってきたからといって、福さんそれはシュートに力が入りすぎやて。

 見てたかな。そう思って優香さんのほうを見たら、優香さんと目があった。

「見た? 今の思いっきりホームラン」

 大きく飛んで外れてしまったシュートを茶化して僕がそう揶揄(やゆ)する。

「思いっきり蹴れるようになって良かったね。福さんも今日の復帰が嬉しいんやない?」

「そうそう。僕らも嬉しいよね」

「うん」

 そう思う。

 優香さんは、僕が初めて福さんのゲーフラを作ったときからの知り合いだ。それ以前から福さんのゲーフラを掲げていた優香さんに、僕が作ったゲーフラを見てもらって隣で並んで掲げたのが始まり。哲也さんの勧めで教えてもらって作ったゲーフラ。ゲーフラは僕がゴール裏で応援するようになったきっかけのひとつだ。

 今日のピッチ内練習で出てきた福さんの姿を見て、優香さんはどうやら泣いてしまったらしい。その気持ちはよく分かる。僕も少し涙が出たもん。嬉しかったのはみんな一緒。


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