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今日はここから  作者: いのくちりひと
第1章
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(04)

「これで思いっきりゲーフラ()げれるね」

 ユミさんのその言葉が嬉しい。グッと熱いものが込み上げてくるのが分かって、僕は短く「うん」とだけ返した。それ以上何かを言おうとすると感情が(たかぶ)ってしまいそうだ。

 ゲーフラというのはゲートフラッグのことで、選手を応援するときに使う旗の種類のひとつ。選手が入場するときや観客席へ挨拶に来てくれたときに、選手に見えるようにそれを(かか)げる。大きさは作る人によってまちまちだけど、僕のは縦横70センチくらいで横のほうが縦よりも少し長い。布の両端にそれぞれ棒を取り付けて、万歳をした両手に持って掲げるタイプの旗だ。それが漢字の「門」の形になるからゲートフラッグと言う、と、今までにゲーフラをいくつも手作りしてきた自称ゲーフラ職人の哲也(てつや)さんが教えてくれた。

 哲也さんは僕のサポ友で、いつも僕の隣で応援している。今日も座席確保のための荷物が置いてあったから、既にスタジアムに来ているはずだ。屋台村かスポーツ広場か、きっとどこかにいるのだろう。

 ゲーフラのデザインは持つ人や作る人の個性があって人それぞれ。自分で手作りする人もいれば専門の業者さんに依頼して作ってもらう人もいる。僕の福さんゲーフラは僕の手作りで、白地の布に福さんの似顔絵と名前と背番号の8を()いたもの。初めて作った1作目の文字だけのものより、似顔絵も描いた今の2作目のほうが気に入っている。練習を見に行ったときに直接お願いして書いてもらった福さんのサイン付きだ。

 選手が観客席へ挨拶に来るとき、福さんはいつも僕のゲーフラを見つけて手を振ってくれる。試合の前か後か、試合に勝ったか負けたかによって表情はそれぞれ違うけど、福さんと目が合う距離でゲーフラを掲げて、反応を返して貰えることはとても嬉しい。

 以前に哲也さんが「ゲーフラはラブレター」だと言っていた。僕と同じ男の選手にその言い方は抵抗があるけれど、なるほど上手いこと言うなぁと思う。

 福さんがケガで離脱している間、挨拶に来る選手の中に福さんがいないと分かっていながら僕は福さんのゲーフラを掲げ続けた。僕が何かの役に立てるわけじゃないけれど、今日もここから応援しているということを伝えたい。スタジアムのどこかで福さんが、いつもと同じこの席から掲げる僕のゲーフラを見ていてくれたら嬉しい。そう思っていた。

 僕が願うほど都合よく、そんなに簡単には伝わらないのかもしれない。それでも僕がゲーフラを掲げ続けたのは僕がそうしていたいと思ったからだ。福さんがケガをしてから今までずっと、悔しいけど、僕にはそれしか出来なかった。

 だから晴れた気持ちで思いっきりゲーフラを掲げられる今日が嬉しいし、それを分かってくれるサポ友のユミさんの気持ちが優しかった。


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