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今日はここから  作者: いのくちりひと
第6章
37/44

(37)

 ピッチでは既にパス練習が終わって、今は練習メニューがシュートストップに変わっている。シュートを打つほうではなく止めるほう。キーパーとしては最も重要な練習だ。いつもであればこれが最初でピッチ内練習が始まる。

 コーチが手から離して蹴ったボールをほぼ目の前の距離でキャッチする。胸や腹で(かか)えるのではなく、立て続けに放たれるそのひとつひとつを素早く両手で(はさ)んで止める。速いボールに見えるのに、止めるというより受け取る感じ。手にはめたグローブに吸いつくようにピタッと止まる。磁石か吸盤がついているんじゃないかと思うほどだ。

 距離を取ってのシュートでは、ゴールの右上に向けて蹴られたボールを、飛びついた手の先で枠の外へと追い払う。地面に倒れこむとき痛いし怖いだろうと思うのだけど、すぐに立ち上がって素早く次に備えるところが凄い。次のボールは左上。諸星にしても山崎にしても、キーパーは本当に大変なポジションだと思う。

 中心部から拍手が上がった。座っていた人たちが立ち上がる。空気の変化にピンとくるものがあって、僕はメインスタンドの下の通路に視線を移す。思った通り、選手たちが出てきた。メイン側からも拍手が上がる。スタジアムDJのアナウンスが流れた。

 僕も勢いよく立ち上がる。他のまわりの人たちも全員ではないけど立ち上がった。哲也さんは立ち上がると同時に拍手を始め、思い出した僕は足元に置いてあったゲーフラを手に取った。

 ピッチに出てきた選手たちは、メインとバックのそれぞれのスタンドに向かってお辞儀をした。人数が多くて長い列になっているけど、動きの流れはキーパーが出てきた最初のときと同じ。そしてそのまま1列で、こちらに向かってゆっくりと走ってくる。

 僕は両手で(かか)げたゲーフラの下から覗き込むように、選手たちの顔をひとりひとり捉えていく。どこだろう。サブだから後ろのほうかもしれない。そう思いながら、一生懸命に福さんを探す。

 分かるかな、この感じ。子どもたちの運動会とか発表会のときにちょっと似ている。出てきた大勢の中のどこにいるのかを必死になって探したやつ。もちろんそこまで頑張らなくても福さんはすぐに見つかるし、見つけたときの感動もそれほどまでには大きくない。それでも見つけて嬉しかったりほっとしたりドキドキしたりする感じは、あのときのそれにちょっと似ている。ハラハラしなくても良いぶん気は楽だ。

 福さんもあちこちキョロキョロ見回している。たぶんいつも自分を推して応援してくれるサポーターを、可能な範囲で探しているんだと思う。

 ほら、このゲーフラ、見つけて。

 場所は以前と変わってないよ。

 見つけた。見つけて手を振ってくれた。たぶん。

 今のは僕にだよね?

 目が合ったと思うもん。たぶん。

 優香さんのゲーフラも見つけたかな。

 頑張れ――。

 中心部の前で選手たちが横一列に並ぶ。キャプテンの武田が手を上げて、それを合図に選手たちが一斉に頭を下げた。そしてピッチのほうへと走っていく。

 サポーターからは拍手とコールでお返しだ。諸星や山崎のときと同じように、龍さんとリズム隊がみんなの応援を引っ張ってくれる。選手個人にチャントが作られている場合は個人チャントを歌って、それがない選手に対しては名前のコールで応援する。福さんにも個人チャントがあるけれど、今日はサブなのでチャントは歌わずコールだけ。福さんの個人チャントは次の機会までお預けだ。


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