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それが収まるのを待って、再び龍さんが続ける。
「来週のホーム戦、本当のことを言うと、もうどうしていいかも分からんくらい俺も今は凹んどる。でも可能性がある限り絶対に絶対に絶対に諦めたくない。俺らは応援することしか出来んけど、どうしたら勝てるサポートが出来るのか、気持ちを切り替えてまたみんなで考えてくる。だから君たちももっともっと必死になって、この先、全部勝てるように頑張ろうや。俺らと一緒にこのチームでJ2に上がろうや」
龍さんの話が止まったところで、ようやく武田が動いた。並んだ列から前に出る。話す目線の先は龍さんだ。
「今日は申し訳なかった。みんなの応援は僕ら選手にとって凄く大きな力になってる。ほんとありがたいし、それは間違いない。僕らも勝つために準備してきて、結果は出せなかったけど、やってるときは精一杯のつもり。でも確かに気持ちで負けてたというか、球際とか競り合いとかゴールに向かう気持ちとか、もっともっと、やれたところはあったと思う。そうやってはっきり言ってもらえると、まだそこも足らんかったんやなって僕らも分かる。ほんとありがたいし申し訳ない。上手くいかずに焦ってミスも多かった。だから本当に申し訳ない」
武田は口に手を当てて1度咳払いをした後、スタンドの上を見渡してから、視線を龍さんに戻して話を続ける。
「来週に向けて、僕らもチームみんなでダメやったところを反省してくる。やろうとしてることが出来てるところもあるし、出来てないところはもう1回取り組み直す。とにかく勝ちにこだわって準備してくるんで、次のホーム、また僕らと一緒に闘ってください。お願いします」
そう言い終わって頭を下げた武田に対して、スタンドからは激励と拍手が起こった。深々と頭を下げる選手たちに対して、罵声を浴びせる人はもう誰1人としてそこにはいない。挨拶を終えて戻っていく選手たちの背中を、拍手とコールとタムの音が見送る。
繰り返し何度も何度もあの動画を見たからだろう。あれから1週間が経った今でも、僕はその場面をよく覚えている。
龍さんの熱さと、それに向き合ってくれた選手たち。それがあって僕は今、大きく気持ちが昂っている。みんなの気持ちは僕にもちゃんと繋がった。それが僕に届いたことを、僕は僕にできる精一杯で伝えたい。僕も絶対に諦めない。絶対に絶対に諦めない。今日はいつもよりもっと声を出す。いつも出してるつもりだけれど、きっとまだまだもっと出る。あんな動画を何度も見たら、また頑張って応援しようと思えてくるやん。いや、自分でそう思いたいがために、気持ちを切り替えられるまで何度も繰り返して動画を見たのかもしれない。
この昂りが、ポジティブなものだけじゃないことは分かっている。相手は阪奈だ。簡単に勝てる相手ではない。ワクワクというよりソワソワ。ドキドキというよりザワザワ。怖さを感じているのが自分でも分かる。でも絶対に勝ちたい。僕は絶対に諦めない。とにかく勝つ。みんなと一緒に絶対に勝つ。最後まで絶対に諦めないで僕も闘う。
――理想としてはそう思う。そう思うんだけど、僕は龍さんのようには強くない。頑張ってもまたダメだったら自分の気持ちがしんどくなる。それはそれでとっても怖い。大好きなチームを嫌いになりたくはない。だからまずは今日の試合を楽しむことを最優先に、その中で頑張って応援して――、
それでもやっぱり絶対に勝ちたい。