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今日はここから  作者: いのくちりひと
第5章
34/44

(34)

「先週のパスミスの反省なんじゃない?」

 ペットボトルを口から離して、蓋を閉めながら哲也さんがそう言う。

「やっぱり、それやね」

 哲也さんにつられて僕も、ペットボトルを手に取った。

 振り返りたくもない先週の負け試合、キーパーと守りの選手の連係ミスがその発端だった。

 ピッチの芝の影響なのか、単なるキックのミスなのか、諸星が蹴ったパスが弱すぎたように思えた。パスを出した先の選手がボールをもらいに来るのも遅くて、選手どうしの意思の疎通に問題があったようにも思う。結果的に中途半端に短くなったパスをゴールの近くで奪われて、シュートを打たれてそのまま失点。

 自分たちの不用意なプレーが招いた、本来であれば取られずに済んだはずの失点。監督の言葉を借りて言うなら、安い失点、というやつだ。

 最初のこの失点が相手の試合運びを優位にし、試合はそこからまた失点を重ねて最後まで相手のペースで進んだ。僕は自宅で画面を見ながら立て直しを願っていたけど、選手のプレーにだんだんと覇気を感じなくなって、ほとんど盛り上がる場面もないまま試合は終わった。

 サポーターの想いが届かずに、選手が闘うことを諦めてしまった試合。龍さんの言葉を借りて言うなら、クソ試合、というやつだ。

 それに対して(おこ)ったのは、現地まで行って応援していたサポーター。最後まで諦めずに必死で応援の声を出していた人たちだ。試合が終わってサポーターの前に並んで挨拶をする選手たちに、厳しい激励に混ざって激しい怒号(どごう)が飛んだ。

 ミスを責めるものではなく、選手が途中で試合を諦めてしまったことに対する(いか)り。僕はその日の夜、SNSに流れてきた選手とサポーターとのやりとりの動画を、何度も何度も繰り返し見てはそれを目と心に焼き付けた。動画には映っていなかったけれど、その場にはヨースケさんとユミさんもいたはずだ。

 正直に言うと、あの試合を自宅で見ていた僕もクソだったと思う。本気で応援できていたのはせいぜい前半が終わるまで。後半は巻き返しを願って一応は応援していたものの、上手くいかないプレーのひとつひとつにイライラを募らせて、画面に向かって舌打ちをしたり、声を荒げて(おこ)ったりしていた。選手の動きや監督の采配に不満を言って審判の判定にも八つ当たりをした後、そんな自分が嫌になって最後はいつもの自己嫌悪。部屋で1人だという気楽さの代わりに気持ちの支えがそばにいなくて、つい歪んだほうへと迷いこんでしまう。もしあのときリビングで見ていたならば、きっと美紀にも八つ当たりをしていたことだろう。1人で見るクソ試合は自己肯定感に良くない。


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