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今日はここから  作者: いのくちりひと
第5章
33/44

(33)

 パス練習の距離がどんどんと広がっていく。

 山崎が広がった先はペナルティエリアの枠の外、というより、ほとんどピッチの右端のラインに近い場所。ポジションでいうと右サイドバックで、それより少し外寄りだ。

 ゴールの前から諸星が、山崎に向けてパスを蹴る。ボールは芝生の上を滑るように転がって、一直線に山崎に届いた。

 山崎はそれを左足で受けて右足に持ち替え、同じように転がるボールで真っ直ぐ諸星へと返す。

 キーパーであるが2人とも足元の上手い選手だ。素人の僕から見たらプロである選手が上手いのは当たり前だけど、止める、蹴る、といった足でのボールコントロールは、プロの目から見ても定評がある。

 諸星は、戻ってくるボールを迎えに行くような感じで優しく受けて、次は中央にいるコーチに向かってパスを出した。さらに戻ってきたボールを右足のアウトサイドで受けながら、今度は左端に広がっているもう1人のコーチへと送る。

 4人での、ピッチの横幅を大きく使ったパス練習。ゆっくりだったり、速くだったり、ときどきはバウンドさせたボールも混ざる。

「今日の練習、いつもと違うね」

 僕は哲也さんにそう話す。

 そもそもピッチ内練習で、キーパーがパスの練習をすること自体が珍しい。珍しいというか、今までに僕が見た中で、こういうパターンは無かったんじゃないかと思う。

「レアやから、とりあえず写真撮っとかんと」

 哲也さんはそう言いながら、ピッチに向けていたカメラをパシャリと鳴らす。そうして何枚か写真を撮った後で、カメラを下ろしてシートに座った。

 チャントやコールでの応援がひと通り終わって、ゴール裏の空気は再び(ゆる)やかだ。

 ピッチでは、諸星が右サイドの位置に移動した。入れ替わりでゴールの前に立った山崎が、今度はパスの起点になっている。

 僕にとっての今の時間は、他のフィールドの選手が出てくるタイミングを待つ時間。いつもであれば、ピッチやスタンドをぼんやりと眺めて過ごす。

 次に出てくる選手の中には福さんもいるはずだ。

 今日は絶対に勝たなければいけない。

 ずっと立ちっぱなしだったことに気がついて、僕はようやくシートに腰をおろした。


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