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今日はここから  作者: いのくちりひと
第5章
32/44

(32)

 ピッチに出てきた選手たちに話を戻そう。

 諸星と山崎の2人はピッチに足を踏み入れた辺りで並んで立って、出てきたほうのメインスタンドのお客さんに向かってお辞儀をする。スタンドからは拍手が沸いた。続いてその位置のまま向きを変えて、今度は反対側のバックスタンドにもお辞儀した。拍手で沸くのが目で見て分かる。ゴール裏に来るのはこの後だ。こちらを向いた。諸星を先頭に、少し遅れて山崎が、僕らのほうに向かってゆっくりと走って来る。

 スタメンキーパーの諸星は、僕らが歌うチャントに拍手で応えてくれている。胸の前で何度も小さく手を叩くスタイル。自分宛てのゲーフラか何かを見つけたのだろう、ときどき少し視線を止めて、そちらに向かって手を振っている。諸星も福さんと同じくケガからの復帰で、今日が復帰後2戦目だ。

 もう1人のキーパーで今日はサブの山崎は、僕らが歌うチャントのリズムで一緒に大きく手を叩く。応援に対する反応のしかたは選手によって違うけど、サポーターに寄り添おうとする山崎らしい反応が嬉しくて、これを見るたびぐっと気持ちが熱くなる。共に闘う仲間との、喜びとか楽しさとか緊張とか意気込み。お互いにそれが伝わって、選手と共有できている感じがする。

 中心部の前まで行った2人はスタンドを見上げて、そこでもまた深く丁寧なお辞儀をした。僕らはそれに応えて拍手をし、2人はさらに応えて頭の上で手を叩く。そうやって拍手の交換を2度ほど繰り返しながら、2人は練習を始めるためゴールの前へと走って行った。

 選手とのこういうやりとりが僕は好きだ。そういうところは知っているよね。

「モロボシ!」「モロボシ!」「モロボシ!」

「ヤマザキ!」「ヤマザキ!」「ヤマザキ!」

 スタメンの諸星から順に、選手の名前をみんなで3回コールする。応援を先導するのは龍さんと、そして太鼓のリズム隊。リズム隊の中には結菜ちゃんもいて、結菜ちゃんは中心部でタムを叩いている。娘の真帆と仲が良かった、哲也さんの娘の結菜ちゃんだ。中学生になった頃に一時期スタジアムに来なくなっていたけど、しばらくしてからまた戻ってきて、復帰後にリズム隊に加わった。

 結菜ちゃんが叩いているタムはフロアタム。スネアや他のタムと比べて胴体(シェル)の部分が少し長い太鼓だ。ドラムセットでいうならば、正面の丸い大きなバスドラムの上に1つか2つ乗っているのが普通のタム。フロアタムはこれとは違って、下にスタンドを取り付けて床の上に置くタイプのタムだ。叩くと低めの重い音が鳴る。バスドラムの音が最も低い「ドンドン!」だとすると、フロアタムは存在感がある「ダンダン!」だ。

 そのフロアタムにギターやベースでも使うストラップを取り付けて、タスキ掛けにして肩から下げる。今も細身の結菜ちゃんにフロアタムは重いんじゃないかと思うけど、色んな意味で結菜ちゃんはあの頃よりもたくましくなっていると思う。

 選手の名前をコールするときの多いパターンは、龍さんのコールに続いて結菜ちゃんたちが3連打を叩き、それに続けて僕らも選手の名前をコールするという流れ。

「モロボシ!」

「ダンダンダン!」

「モロボシ!」

「ダンダンダン!」

「モロボシ!」

「ダン!」「ダン!」

 こんな感じ。分かるかな。最後の太鼓は3連打ではなく、ゆっくり()をとっての2連打。名前が長かったり短かったりする選手の場合は変則リズムだったりするけど、諸星と山崎は2人とも同じでこういう感じ。そんなに難しいリズムじゃない。


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