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今日はここから  作者: いのくちりひと
第4章
27/44

(27)

「ほんなら、まあ行くわ」

 ラップやウエットティッシュなどのゴミを1つの袋にまとめてから、和美さんは肩の鞄を深くかけ直した。

「僕ももう行きます。席はどこです? ゴール裏?」

 アウェイチームのゴール裏は、僕らホームチームのゴール裏とは真反対の場所。そうであるなら僕とは入り口が違う。メインスタンドであれば最初の入り口は僕と同じだ。

「メインの真ん中へんの前のほう。一応アウェイ側やけどちょっとホーム寄り。どこにしようか迷ってんけど、福ちゃん今日ベンチ入りしたんでそこで正解やった」

 メインスタンドの中央前列の席は、両チームのベンチに最も近い場所だ。それぞれのベンチはスタンドの前の中央の位置を境に横に少し離れて並んで、どちらも同じように屋根と一体化した透明なボードに囲われている。もちろん近いとはいっても、ベンチの中での選手たちの会話がスタンドまで聞こえるほどには近くはないし、選手の背中をボード越しに後ろから見ることになる。それでも和美さんたちの席からであればやっぱりベンチはすぐ目の前で、しかも出番を待つサブの選手がウォーミングアップする場所にも近い。福さんがベンチにいるときでも、ベンチから出てウォーミングアップをしているときでも、福さんの姿はよく見えるはずだ。

「いいとこ取れましたね。じゃあ入り口はこっちですね。僕もこっちなんで、行きましょう」

 僕ら3人は足早に、屋台村の通路をスタジアムに向かって移動した。既に他の多くの人たちも同じように動き始めており、人の滞留が緩和された通路は先ほどまでと比べて少し歩きやすくなっている。

「ちょっとこれ捨ててくるね」

 和美さんは近くのゴミステーションを経由するため一旦僕らから離れた。桜の木の下に並ぶ、憩いのベンチとベンチとの間を通り抜けていく。ベンチの周りにはまだまだたくさんの人がいる。僕と陽一さんは和美さんが戻ってくるのを待つため、歩く速度を少しゆっくりにした。

 僕がこのご夫婦と知り合ったきっかけは、和美さんが書いていた福さんの応援ブログを僕が見つけたことだ。ブログの内容は福さんのことが大好きだという和美さんの情熱が随所に溢れたもので、福さんのことをもっとよく知りたいと思っていた僕には優れものだった。開設当初のものまで遡ってひと通り読ませて頂いた。阪奈FCに在籍していた頃の福さんも、多くのサポーターから愛される選手であったことがよく分かった。

 そのブログに僕がコメントを寄せたことで和美さんとの交流が始まった。僕が練習見学に行って福さんと話す機会があったとき、緊張のあまり何を話せば良いのか分からなくなって、とっさに和美さんのブログを会話のネタにした。福さんは以前から和美さんのことやそのブログのことを知っていたらしい。僕は福さんと話せたことが嬉しくて、その報告と感謝の気持ちをコメントに書いて和美さんに伝えたのである。

 直接お会い出来たのはその翌年くらいの阪奈FCとの試合の日。僕が応援バスツアーに参加して、アウェイ戦での現地応援デビューを果たしたときのことだ。和美さんと陽一さんと、さらに娘さんと息子さん。全員が阪奈FCのサポーターだというこのご家族と、阪奈のスタジアムでご挨拶をした。

 僕が知っているサポーターの中には、試合の前や後に相手チームのサポーターとの飲み会を開き、お互いの親交を深めている人たちがいる。立花サポを除いた他のチームでの知り合いは僕にはこのご家族しかいない。だからこそこの関係をこれからも大切にしたいと思っている。この関係は福さんの存在はもちろんのこと、Jリーグや互いのチームがあったからこそ築けたもの。この出会い、和美さんと陽一さんに出会えたことに僕はとても感謝している。


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