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今シーズンも残り試合はもう少ない。今はJ2昇格を目指して闘うし烈な争いの真っただ中だ。昇格圏内となる上位2チームのうち、1つは既に和美さんたちの阪奈FCに決まっている。今は残るもう1つの枠を争う戦い。阪奈FCは先週の試合でJ3優勝とJ2昇格を決めたばかりだ。
その阪奈FCと今日対戦する僕らのFC立花は、現在4位の位置にいる。下から順位を上げていった昇り調子の4位ではなく、2位にいたところから負けが続いて落ちた結果の4位だ。
まだまだ巻き返せる可能性は十分にあって今は悲観するときじゃない、と以前であればそう言って前向きに応援し続けることができていた。でも今は違う。前向きに頑張って応援したのにJ2からJ3に降格し、復帰しようと頑張って応援したのに昨年は昇格できなかった。現実はそんなに甘くないことは身に染みて分かった。悲観も楽観もなく僕らにできることを前向きに考え、強い気持ちでそれと向き合う必要がある。実のところ、今日を含めて残りの試合を全部勝つつもりで望まないと、昇格するのは非常に難しいと思う。
「だったら今日は立花に勝ち点3を下さいよ」
そんなことを言ってみる。
チームの順位は積み上げた勝ち点の合計で決まる仕組みで、試合での得点に関係なく1つ勝つと勝ち点3が加算される。つまりは今日の試合でFC立花に勝たせてくれと言っているのだが、和美さんにそれを言っても仕方がないことは分かっている。分かってはいても、それを言いたくなるのがサポーターの心情だ。
「立花さんにも頑張ってほしい。ほんまに。絶対昇格してほしい。でも阪奈が負けるのは嫌。せやけど福ちゃんが活躍するなら許すかな」
和美さんは阪奈FCのサポーターという他に、福さんの個サポという顔も持っている。個サポというのは特定の選手個人を追いかけてずっと応援し続けるサポーターのこと。阪奈FCから移籍した福さんを追いかけて、移籍先であるFC立花のことも本気で応援してくれている。
「福さんにとってはケガ明けの復帰戦やん。しかも昇格争いの最中で相手が古巣の阪奈さんやから、今日はめっちゃ気合い入っとると思いますよ」
「せやろなあ。福ちゃんにはほんまに頑張ってほしい。でもここ最近ケガが多くて、それはそれで心配」
和美さんも、福さんに対しては親目線だ。
とにかく勝ち点3を僕らに下さい。昇格してまた来年も阪奈FCと戦えますように。次のチャンスが僕にありますように。言葉には出さず、僕はそう祈った。