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「嫁さんは来てなくて、さっきの人は普通にサポ友さんです」
和美さんも陽一さんも、妻の美紀には会ったことがない。
「誘ったん?」
「誘ってないです」
「なんで? 昨日あんなに言うてあげたやん」
家族や夫婦でスタジアムに来ている人たちを見て、僕が羨ましく思っていることを和美さんは知っている。だからということもあって、今日の試合に美紀を誘ってみることを和美さんが僕に強く勧めてくれていた。
「誘ってもどうせ来ないですよ」
昨晩の食事の席でもそう言ったはずだ。諦め悪く高いテンションで熱く語る酔っぱらいの和美さんを前に、その話が終わるまで僕はずっと防御の姿勢だった。僕もそこそこ酔っぱらっていたけれど、親切がゆえの和美さんのその勢いには勝てない。
その様子を傍目で見ていた陽一さんは最初は楽しんでいたのだと思う。でも和美さんが「奥さんに電話するでスマホ貸して!」と言い出したところで僕が陽一さんに助けを求め、仲裁に入った陽一さんがそこでその話を終わりにしてくれた。
「まあ、ええけどさ。でもいつか奥さんにも会いたいわな」
昨晩の押しの強さとはまったく違う今日の和美さんの退きの早さに、僕はちょっとだけ拍子抜けした。
他のチームのサポーターで僕と仲良くしてくれている人たちがいること、和美さんと陽一さんというこのご夫婦のことを、家では美紀にもときどき話す。会って美紀に紹介したいと思うし、美紀を紹介したいと思う。
「……そうですね。次は誘えるように、もう少し嫁さんと仲良くしときます」
「なに言うてんの。たぶんもう十分に仲ええし、ダイスケさんは奥さんのこと大好きやん」
「まあ、それはそうなんですけど……」
すべてお見通し。やっぱり和美さんにはかなわない。
とにかく次のチャンスのときにはちゃんと美紀と向き合おうと思う。美紀がスタジアムには来なくても、例えば和美さんと陽一さんと4人でどこかで食事をするとか、そうなるように何かチャレンジしてみようと思う。
「また来年に期待。せやから立花さんも昇格してな」
今度はそっち。またまた厳しいところに話が飛んだ。