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今日はここから  作者: いのくちりひと
第3章
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 息子の裕太(ゆうた)がスタジアムに来ていた頃は、いつも裕太が2人分のコロッケを注文してくれた。もちろんお金は事前に裕太に渡しておく。裕太の社交性とか経済性とかを(はぐく)むためには良いような気がして、意識してそれを習慣にしていた。受け取るときは裕太が先で、僕はいつも後から受け取る。店頭のおじさんも僕のその辺りの意図を分かってくれているような気がした。

 モリタの牛串と同じ地元特産牛の肉。それがごろごろ入ったコロッケの、旨さとボリュームは文句無し。そのうえ値段が手頃だから、特に腹が減っていないときでもついつい買ってしまう。

 適度に熱いやつを口の中でほふほふしながら食べるのが僕は好き。揚げたてのタイミングで買うときは、すぐに口の中に入れると火傷(やけど)するから要注意だ。今でもときどきやらかしてしまうけど、火傷した上顎を舌で触ると口の中で皮がベロベロする感じになる。

 このコロッケを初めて食べたのは今からもう5年も前のことで、その日が家族4人での初観戦だった。

「熱いで少し冷ましてからね」と美紀が子どもたちにストップをかけている隣で、僕はすでに口の中を火傷していて悪い見本を披露してしまった。そのときのことは今でもよく覚えている。

 ついでにいうと、モリタの牛串を初めて食べたのはその次のホーム戦で、そのときも家族4人での観戦だった。牛串を食べた美紀がその旨さに珍しくはしゃいでいたことを僕はちゃんと覚えている。

 家族でスタジアムに行くようになったきっかけは妻の美紀だった。福さんのプライベートな用件で美紀の職場に福さんが来たことがその始まり。福さんの職業がプロサッカー選手だと知った美紀に対して「スタジアムへ応援に来てください」と福さんが声をかけたらしい。

「福宮さんっていう名前の選手、知っとる? 関西のほうから異動してきたらしいんやけど」

 その日の夜に美紀からそう聞かれたときが、僕が福さんの名前を聞いた最初だった。

「そういう場合の言い方は、異動じゃなくて移籍でしょ」

 そんな会話で美紀の変な言い回しを指摘した覚えがある。どうやら美紀は、会社から部署異動の辞令が出て選手がチームを変わるような、Jリーグ全体をひとつの会社のように思っていたらしい。美紀はサッカーだけじゃなくてスポーツ全般に疎い。スタメンという言葉の意味さえ知らなかったほどだ。とは言う僕もその頃は、サッカーは日本代表やJ1の試合をたまにテレビで見るくらいで、FC立花については地元のチームだという理由で名前を知っているだけだった。


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