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今日はここから  作者: いのくちりひと
第2章
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「そうだ! 私、この前のハロウィーンのときの仮装、実は今年が初めてだったの。誘われてね。最初は恥ずかしくて嫌だって言ったんだけど、やってみたら楽しかった。また来年もやりたいと思ってる」

 毎年ハロウィーンの時期にはスタジアムでハロウィーン祭りと題して仮装大会のイベントがある。2週間前のホーム戦がちょうどそのときで、僕の予想より多くの人たちが思い思いの仮装をして集まっていた。屋台村ではお互いに写真を撮り合って、試合の合間のハーフタイムのときにはその衣装で陸上トラックのさらに外周を歩いてパレードしていた。

 僕はそのときスタンドからそれを見て知り合いのサポ友さんに手を振っていた。あの日が初対面だった仮装姿のカオリさんにも手を振った覚えがある。僕もあの輪に混ざりたいと少しだけ思いながら、そんな気持ちは表に出さずに笑って手を振っていた。

「来年はダイスケさんも一緒にやってみない? 今よりもっと楽しくなると思うよ」

 この話の展開でハロウィーンの話題になってすぐ、なんとなく誘われるんじゃないかと思っていた。たじろぎつつも、そう言われるのを待っていた自分もいた。それなのに――

「僕はそういうキャラじゃないし……」

 とっさに最悪の返しをしてしまった。

「え? あらそう? やるって言うかと思ったけど……」

 そうです。その通りです。今のは絶対に誘いに乗るべき流れです。それなのに僕は今、チャンスに乗れない言い訳を考えている。断ったのを撤回するのが先決なのに。

 なんでやろ。ときどきそういう言い方をしてしまう。自分でも腹が立って嫌になる。もっと普通に素直になればいいのに。何が怖いのか。確かに仮装で自分や誰かを楽しませる、そういうことが得意なタイプでないことは自分でもよく分かっている。それでもカオリさんがせっかく誘ってくれたんやから、この機会に殻を破ってチャレンジしてみてもいいやん……。

 とは思ってみても、いざその先に進むとなったら自分で自分にブレーキをかけてしまう。

「旦那さんは?」

 僕は何を言っているのだろう。風向きを変えて責任転嫁。もう自分が大嫌いになる。

「ああ、あの人は絶対にやらない」

 笑いながら言う。僕はカオリさんの旦那さんを知らない。

「まあいいや。まだ1年あるから。その気になったら言ってね」

 そう言われて僕は曖昧に笑ってごまかした。いつもならここで怒らせるか、それを通り越して(あき)れられる。たぶんカオリさんにも呆れられた。

「こんにちは」

 誰かがカオリさんに声をかけて、行き先を失いかけていた会話が終わった。男性は僕のほうにも会釈する。見たことはあるけど名前は知らない。カオリさんとは知り合いのようだ。

「すみません。じゃあ僕、行きますね」

 タイミングが良かったのか悪かったのか、とりあえず僕はその場から逃げた。ほんと最悪。

 驚いた顔の男性が申し訳なさそうな表情に変わって、僕とカオリさんとを交互に見ている。

 ごめんなさい。違うんです。悪いのは僕なんです。

 カオリさんとはリアルでも仲良くなれそうで、たくさん元気を貰ってハロウィーンにも誘ってくれた。会釈してくれた男性とも知り合いになれるチャンスだった。それなのにそれなのに――

 たぶん嫌われちゃうんだと思う。

『なんだよ、こいつ』って思われたかな。

 あー、バカバカ。

 何度もこれで失敗してきた。

 消えて無くなってしまいたい。

 あー、もう、バカバカ。

 なんで僕はいつもこんなんなんだろう。


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