(13)
「みんな同じなの。だからほんとに何でも楽しんだもん勝ち。アウェイには行けなくても、ダイスケさんに出来ることはきっと他にもあるよ。少しずつチャレンジしながら出来る範囲を増やしていけばいいんじゃない?」
確かにカオリさんの言う通りだと思う。僕はアウェイに行けないんだと、僕自身で決めつけてしまっていたのかもしれない。アウェイには来ない人、そう周りの人から嘲られているような思い込みがどこかにあって、自分で勝手に疑心暗鬼になっていたのかもしれない。
「僕も何か考えてみよっかな……」
「うん。――私はね、遠征の話とは違うけど、チャレンジっていう意味では次はサポ同士の飲み会に参加してみたい。今までは夫が嫌がってたから飲み会に参加したことがなかったの。夫にも今は友達が増えて以前と比べて行きやすくなってると思うし、今が参加するチャンスかなって思ってる」
サポ同士の飲み会なら、いつもじゃないけど僕も年に数回程度なら参加する。カオリさんならきっとみんなもウェルカムだ。
飲み会に参加することがチャレンジだなんて、大袈裟に思えてちょっと変な感じがした。だけど今の状況から変わろうとすることは、変化の大小に関係なく何でもチャレンジなのかもしれない。僕がぐずぐず考えてることも他の誰かから見たら大袈裟に思えることで、なぜそれで悩んだり僻んだりするのかさえ理解されないような、小さなことなのかもしれない。
チャレンジか……。
カオリさんが言うことをポジティブに受け止めたいと思っている自分がいる。でももう1人、それに対して逆にブレーキをかけようとしている自分がいる……。
僕の迷いに気がついたのかもしれない。カオリさんがまた話を続ける。
「そりゃあね、最初は不安だし、壁を感じることもあるとは思うよ。もう出来上がってる人間関係の中に、自分だけ後から入っていくわけだから。でも立花サポのみんなって、わりとそういうの楽しく受け入れてくれる人が多いじゃない?」
「うん。確かにそれはそう」
「でしょ? 目の前のチャンスにまずひとつチャレンジできればきっとまたすぐ次のチャンスがやってくる。いきなり大きく変わるのはやっぱり抵抗あると思うけど、大きく変わろうとしなくていいから、少しずつ出来ることを増やしていければいい。――どう?」
SNSを見て以前から思っていた以上にカオリさんは熱い。もともと僕はしがらみさえ無ければ、そういう熱い話に影響されてすぐに飛びつくタイプ。話を聞きながら気持ちが昂ってきているのが自分でも分かる。今の僕にもまだ出来ることはきっとある。自分の殻を破ってみたい。そう思えた。
だけど、「どう?」とカオリさんから聞かれた瞬間に現実に戻った感じがして、僕は少したじろいでしまった。僕のその戸惑いを、カオリさんは既に勘づいているような気がする。