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今日はここから  作者: いのくちりひと
第2章
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(12)

「遠征に行った先のお店で食べた料理を私がよくSNSに載せてるの知ってる?」

「知ってる知ってる。あの投稿は好き」

「お、ありがと。――で、私は食べるの好きだし記録にもなるから、あれは絵日記みたいな感覚でやってるの」

「うん」

「でもさ、誰かに届いてくれたら嬉しいな、って思ってやってるところもあってね」

「うん?」

「例えば今、遠征に向かってる途中の人がいて、お昼をどこで食べるか迷ってるとするじゃない? そういう人がいたら、『ここのお店は美味しいよ』って教えてあげたい」

 カオリさんは食べることがほんとに好きなんだと思う。

「でね、それに対する返信でさ、『教えてもらったお店に食べに行きました』とか、私の投稿を引用してさ、『これ見て食べに行きました』なんて言われたときにはとっても嬉しいの。それをきっかけにそれまで直接の面識がなかったその人と、そのすぐ後にスタジアムで会ってご挨拶したりしてね。そうやって知り合いが増えていくこともあったなぁ」

 本当に嬉しそうで、聞いている僕まで嬉しくなる。

 ちょっと熱くなった口調でカオリさんは続ける。

「行きたくても行けない人がいるのは分かってる。こっちが楽しんでるのを見て、いい気がしない人もいるかもしれない」

 いい気がしないと言うよりは、僕の場合は勝手にひとりで()ねているだけだ。

「でも例えば今年は行けなかった人がいて、来年は行けるとするじゃない? そのとき仮に私が行けない番だったとしても、『あそこのお店が美味しかったよ』ってやっぱり私は教えてあげたい。『あそこの景色が綺麗だったよ』って言ってあげたいの。せっかく行けたんだし、その人が少しでも多く楽しめる寄り道の選択肢が増えたほうがいいじゃない。逆に教えてもほしいしね」

 確かに今まで見た投稿の中にも、僕がいつか遠征に行けたときに寄ってみたいと思うお店があった。背景にして写真を撮ってみたい景色があった。自分も混ざっていたい写真があった。

「私はね、今はサッカー優先で動けてるけど、そうなれたのはつい最近のこと。息子たちが大きくなって、それぞれがひとり暮らしするようになってから。それまでは何でも息子たちが優先でさ、特に小さい頃は考える余裕もなくいつも必死だった」

 美紀と同じ。自分のことは我慢して、いつでも子どもたちのことが優先。美紀と比べたら僕は美紀よりわがままに生きている。

「今は前より余裕ができて、少しだけ自由になれた感じ。それでもまた違う新たな悩みがあったりするよ。別の理由でまたアウェイに行けなくなるかも知れないし」

 確かにそうだ。今は行けているからといって来年も行けるとは限らない。その逆の可能性だってありうる。

「まあ、ダイスケさんが(ひが)んじゃう気持ちも分かるよ。正直に言うと私にもあるもん、そういうこと」

「そうなの?」

「ちょうど今って七五三の時期でしょ? 他には成人式とか雛祭りのとき。うちには男の子しかいないじゃない。振袖とか着物姿の女の子を見ると、やっぱり女の子が欲しかったなぁって思うもん」

「あ、そっか」

「でも(ねた)むほどじゃないよ。ちょっと(うらや)ましいなって思うだけ。その代わりに私には、夫によく似たイケメンの息子が2人もいるしね」

 そう言って結局また笑いに変える。カオリさんは明るい。


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