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今日はここから  作者: いのくちりひと
第2章
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 それからしばらくカオリさんといろんな話をするうちに、僕の緊張は解けてきた。もともとSNSではよく会話をする間柄だった安心感もあって、僕はリアルなカオリさんとも仲良くなれそうな気がした。

 会話は近況の話に移り、カオリさんは最近僕が投稿したSNSの話にふれた。どうやらカオリさんはその内容が気になっていたらしい。ネガティブでツッコミどころ満載な僕のその投稿をきっかけに、僕の愚痴を聞いてもらったし、カオリさんの愚痴を聞くこともできた。

 SNSではいつも明るいカオリさんが口を尖らせて愚痴を言う。カオリさんでも愚痴を言うんだと分かって、それを見て僕は少し安心した、というのは内緒の話。

 カオリさんが言う仕事の愚痴は僕にはよく分からなかったけど、誰かに話せたことで少しはスッキリできたみたい。役に立てて良かったと思う。

 旦那さんに対する愚痴は聞いている僕にも少し刺さるものがあって、家に帰ったら美紀にちゃんとお礼を言おうと思った。

「こうしていろんな話が出来るのもスタジアムの良さ、屋台村の良さですよね」

 そう言う僕は、楽しかったし嬉しかった。

「でしょ! 隣に夫がいたらこんな話できない!」

 そう言って笑う。

「私、人とこうしておしゃべりするのが本当は好きで、夫と別々に行動するようになってから、それまで話したことがなかった人とも話すようになって楽しみが増えたの。夫は夫で自由にやってるみたいで、向こうも前より友達が増えたと言って喜んでる」

 そう言った後で「普段、夫とは仲はいいのよ」と付け加えてまた笑う。よく笑う人だ。

 今度は少し()を置いてから、少し小さめの声でカオリさんが続ける。

「以前はね、息子たちがまだ小さくてサッカー教室に入ってた頃はね、スタジアムで私はサッカー教室のママさんやパパさんたちといることが多かったの。みんないい人ばかりで最初は私も楽しかったけど、私そもそもグループっていうのが苦手でさ、だんだんしんどくなってきたの。夫も同じだったみたい」

 サッカー教室というのは、FC立花が運営する子ども向けのスクールのことだろう。

「僕もそういうの苦手。みんなでワイワイするのは楽しくて好きやけど、ずっと同じメンバーでいるのは息が詰まる」

「やよね。みんなと程よく繋がりつつ、縛ったり縛られたりしない距離感がいい。だから今の感じが私にはちょうど良くて楽しいの」

「いいなぁカオリさんは。本当に楽しそうで(うらや)ましい」

「ん?」

 心の声がつい漏れた。


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