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今日はここから  作者: いのくちりひと
第1章
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(01)

『今日はここから』

 スマホの画面にそう書きこんで、撮ったばかりの写真をSNSに投稿した。

 サッカーのサポーターによくあるSNS定番の投稿。スタジアムに着いて試合の開始を待つときなどに、そこから見える風景をこの決まり文句とともに投稿するやつだ。今日の観戦場所を他のサポーター仲間に伝えたい人もいるだろうし、ただ純粋に楽しい気持ちをそのまま伝えたい人もいるだろう。誰かのそれを見かけたときにはその人のワクワク感が伝わってきて、つられて僕のテンションも上がる。真似して僕もやってみて、さらにテンションが上がった。切り替えスイッチなんだと思う。

 日常の中にある、ひとときのちょっと特別な非日常。

 きっと誰にでもある話。お祭りだったり、旅行だったり、好きなアーティストのライブだったり。いつもと違う非日常を感じると楽しくなってワクワクする。僕にとってはサッカーの応援もそのうちのひとつで、試合の日が近づくにつれてワクワク感が高まってくる。この感じがまた他の誰かに伝わって、みんなで楽しくなれたら僕は嬉しい。この気持ち、分かってもらえるかな。

 よく晴れた青い空の向こうにうっすら広がる白い雲。秋の優しい陽射しがピッチの芝を照らしている。芝の緑は濃淡2色。濃いめと(うす)めの緑の帯が四角いピッチに整然と並んで、手前のゴールから向こう側のゴールまで、綺麗な(しま)模様を描いている。清々(すがすが)しくて荘厳。見ている僕も心が洗われる感じ。

 芝が2色に見えるのは、機械で刈られたときに出来た目の向きの変化のせい。間隔ごとに順目か逆目か葉先の向きが交互に違って、光に映えると表情が出る。僕が投稿したのはそんな風景。選手の姿は今はまだない。

 やっぱり半袖のほうが良かったかな、と思いながら、左右の袖を仕方なくそれぞれ肘までまくり上げた。

 今朝は少し寒かったけど、お昼を過ぎた今の時間は陽が当たる場所だとちょっと暑い。ユニフォームの中に着るTシャツをわざわざ長袖にしたものの、今だけを思えば半袖か、むしろ着ないほうが良いくらい。それでも試合が終わる夕方ごろには寒くなっているはずだから、分厚い上着も持ってきている。通い慣れたスタジアムでもこの季節は服装に迷う。

 ここはサッカーの他にも、陸上競技やラグビーの試合が行われる県営の多目的なスタジアム。ピッチの周りには陸上競技で走る赤茶色のトラックがあって、それを見下ろすかたちで観客席のスタンドが周囲をぐるりと囲んでいる。我が家の子どもたちがまだ小さかった頃、市が主催した親子向けのマラソン大会に参加して僕もここで走ったことがある。

 スタンドのあちこちには既に観客がちらほらいて、試合の開始をのんびりと待っている。何人かのグループで談笑している人もいれば、手を大きく上にあげて伸びをしている人もいる。ずっとそこで待つのは退屈なんじゃないかと思うけど、まったりとしたあの感じもまた貴重な非日常なのかもしれない。

 場内のスピーカーから聞こえてきたのはスタジアムDJの声。大型スクリーンに次々と映し出されるスポンサー企業のロゴに合わせて、各社の名前を落ち着いた口調で読み上げている。

 試合が始まる2時間前。スタジアムはまだ穏やかだ。

 僕は確保した席を離れて屋台村へと向かった。そこにもまた切り替えスイッチがある。


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