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強面さまの溺愛  作者: こんこん
一章
9/66

近い未来についてです

「――ロゼ、弓なんか使ってたっけ?」

「あれ、ほんとだ」


リリーの声がけにロゼが振り返る。それに反応したのは、同じ新人隊第二隊所属のローラだ。

ロゼたちは今、新人棟の近くにある第四訓練場で訓練中だ。神殿には第一から第四までの大きな訓練場があり、第一から第三までの訓練場はそれぞれ第一聖師団、第二聖師団、第三聖師団の執務室や団員の部屋がある棟を外側に囲むようにして存在する。第一聖師団が常駐している第一棟は北に、第二聖師団の第二棟は西、第三聖師団の第三棟は東に位置し、これらの棟と神殿の南に位置する聖殿――神官が事務をこなし、祈りを捧げる所――はそれぞれ回廊で繋がっており、この回廊に囲まれるようにして大きな中庭が存在する。

ちなみに第四訓練場と新人棟はこの輪から少し外れた神殿の北端、森林に近い部分にある。


「最近使い始めたんです。結構自分に合ってる気がして」

「へえ。でもこれ、なんか凄いお値段しそうじゃない?大丈夫なの?」

「……ええ、まあ。貰い物なので」



あの珍妙な事件(?)の後、ゼルドが言葉少なにこれは自分のお下がりなのだと教えてくれた。ロゼは驚愕した。あんな巨体の男にも、自分と同じくらいの身長の時があったのかと。

『…………ち、ちなみに幾つくらいの時ですか……?』

『六歳だな』


――――六歳の子供と、自分は今同じだと言う事ですか?いえ、ロードさんが例外なだけであって、標準での六歳はもっと小さいはず………!


まあ、概ねその通りではあるが。

そもそも六歳で弓を引くとは、どのような環境で育ったのだろうか。



先日のことを回想していたロゼに、今度はローラが質問する。


「ね、それってさ、リデナス様の隊の人に貰ったの?」

「そうですけど……なんで分かったんです?」

「……まあそれは、なんて言うか……………あー」


歯切れの悪いローラの返答に、ロゼは首を傾げた。と、ローラの言葉を引き継ぐようにリリーが口を開く。


「ロゼ、かなり仲良くなったみたいね。あの男と」

「っへ?」

「見たって人が何人かいんのよ。ロードがロゼの頭を撫でてるって言って、ほんのちょっと噂になってるのよ。魔王に子猫が懐いたとか、巨人が子供を愛でているとか」

「ぇっ」


――――どっちにしろ私小さいって意味じゃん!あとなにげロードさんに失礼な気がする……。いや、いやいやいやいや、それよりも!それよりもっ!!


「め、愛でてるって何ですか!私は子供か!」

「えー私は噂をそのまま言っただけよー。ね、ローラ」

「まあ、ね。そんな感じの噂だったね」

「まあでも、気にすることないんじゃない?

噂って言ってもほんの一部でだし、広まらずにすぐ消えるでしょ。ね、そんなことよりさ、その人に教えて貰ってるんでしょ?どんな感じなの?」


そんなことで片付けられたロゼは少しむくれたが、少し考えて答える。


「……教え方が上手くていい人、だと思いますよ。ほんとは共闘訓練だけでいいのに、初心者の私に弓を教えてくれるくらいですから」

「……そうなの?私が一度討伐で一緒だった時はずっと腕組んで黙ってたし、1回仕事内容について話しかけられても一言二言しか返してなかった気がするけど……。いやまあ、怖くて直視出来なかったから何となくでなんだけどね」

「まあロゼと上手くやってるならいいじゃん。リデナス隊長の隊に入れたら、ロードと同僚なんでしょ?ロゼ」

「……まあ、そういうことになりますね。でもそもそも入れるかどうか…………」


ロゼは気が重いあまり、項垂れながら深いため息を吐いた。

今から2週間後、新人隊所属の隊員は自分の希望する隊で面接を受け、そして実践として模擬討伐をその隊の審査員の前で行うのだ。要するに新人隊卒業前の選抜試験である。しかしこれに落ちても解雇ということはもちろんなく、何処か他の隊へと配属になる。


――――面接は何とかするにしろ、問題は模擬討伐……。良くも悪くも平凡な私が受かるかどうか……。


ロゼの第一志望である第一聖師団第一隊は実力揃いでおそらく人気も高い。見られる内容は強さだけではなく、チームとの協調性、その隊への適正などがあるそうだ。そうだ、と曖昧になってしまうのは、評価基準がどの隊においても公開されないからである。

自分が平凡なのは事実だが、強さだけで判断する訳では無いのなら選抜に通る可能性はあるとロゼは考えていた。


「まあそこはホント、頑張るしかないよねぇ」

「リリーの希望は第一聖師団第三隊だっけ?私は2人とは希望する隊の師団が違うから、新人隊卒業したら暫くは会えないかもねー」

「……なんだか寂しいですね。こうして過ごせるのも、あと少しで終わりだなんて」


ロゼは訓練場を見回しながら言った。

新人隊は原則一年で解散だ。訓練や討伐を繰り返すうちに、その期間はあっという間に過ぎてしまう。

新人隊を卒業して師団の隊に入ったら、一人前の御使いとして扱われ、討伐する魔物のレベルも上がるし遠征で日を跨いで遠くに行くこともあるだろう。

……()()()となることに不安がない訳では無い。危険度が上がる上に責任も重くなり、まだ若いからでは済まされなくなる。


そんな考えが顔に出ていたのか、リリーが励ますようにロゼの肩にぽんと手を置いた。


「まあなるようになるって!今から気を重くしてても何も変わらないでしょ?」

「……そうですね。取り敢えず、面接は何とかなるので模擬討伐の対策を練らないと」

「私面接の方がやばいかも。訓練生の時の講義内容なんて覚えてるわけないもん。…………え、皆覚えてないよね?ロゼが良い子なだけだよね?……ロ、ローラ?」

「私は覚えてなかったけど、教材とノートがあったからそれはもう頭に叩き込んである。……っていうかリリー、あんた隊に入ったら討伐以外にも事務仕事とかやんなきゃいけないんだよ?覚えてなくてどうするの」

「えぇっ、そんなん後でどうとでもなるじゃん!どうしよ、どうしよぉ……。あと2週間死ぬ気で詰め込むしかない〜〜」

「…………なんか私、リリーのなるようになるって言葉、信じない方がいい気がしてきました」

「ヒドッ」


うわああと頭を抱えるリリーを見て、ロゼはぽろっと零してしまった。

ローラが苦笑しながら口を開く。


「まあ、こんな奴が言ったことでもさ、今から気を重くしても何も変わらないっていうのは本当の事だよ」

「私の扱い!」

「そうですね、頑張ることだけに集中すればいいのですから」

「聞いてる!?ね、ね、お願いします!2人とも、私の勉強手伝ってぇぇぇ」

「「お断り」します」

「ヒドッッ」



ちなみにこの後、訓練中に騒いでいるとしてリデナスにこってり絞られることになる。

主にリリーが。



()せぬ」

「……反省なしと見るが」

「ナンデモナイデス」




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