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強面さまの溺愛  作者: こんこん
一章
39/66

分かっているけれど

大分間が空いてしまい、申し訳ありません!

突如響いた複数の鳴き声に、大怪鳥(ルフ)に飛び掛かろうとしていた隊員達の動きが一瞬、止まる。その隙を着いた怪鳥は先端に鋭い鉤爪のついた翼を横に振り、全ての攻撃を一掃した。


「っが」

「かはっ」


その風圧によって吹き飛ばされた複数名が、地面や岩に打ち付けられる。複数の血が放物線を描いたのを見るに、先程の鉤爪に何人かがやられたようだ。近くにいたアリアとレイは風圧に耐え、未だ木にぶらさがっている状態である。




ほかの隊員の安否も気になる。

だがしかし、今はそれどころではないと頭の何処か冷静な部分が告げている。


「ギュギァァァ!!」

「――っ」


正面、鬱蒼と生い茂る薮からの急な突進に、思わず反応が遅れてしまう。咆哮が轟いてから数拍もしない内の出来事に、しかし横に立つゼルドは動じた様子もなく――突進してくる魔物へ、真っ直ぐに片手に持ったハルバードを突き立てた。


「ガァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」


風を斬る音を耳に捉えたロゼは、次の瞬間に目の前に広がる紫の鮮血と、苦しげな魔物の呻き声に唖然とすることしか出来ない。


苦しみ地に頭を擦り付けながら叫び続けるその大怪鳥(ルフ)は、恐らく最初に現れたものの仲間であろう。

その右目には、成人男性以上の大きさのあるハルバードの槍部分が深く、深く突き刺さっている。切断された目の神経が紫と赤黒い色を目の表面に走らせ、その中心からは魔物特有の紫の鮮血が迸っていた。


その巨大な頭に足を掛け、目に刺さっている得物(ハルバード)を引き抜く大男。紫の液体がこびり付いた横顔は冷酷そのもので、見る者の心に恐怖と(おそ)れを植え付ける。


「っ危ない!」


ゼルドの後ろから、彼の足元に居るものよりも一回り小さな大怪鳥(ルフ)が跳躍し、襲いかかろうとする。それを視界に入れたロゼは、その場で剣を横に薙ぎ払い、横一文字の風刃(ウィンドカッター)を巨大な頭へと炸裂させた。

その攻撃に悲鳴をあげる大怪鳥の損傷部、羽毛が紫に染る前頭部を、後ろを振り返ったゼルドがハルバードを持つ手とは反対の手で鷲掴み、そしてその掌から灼熱の炎を噴出させ火だるまへと変えるのだった。振り向きざまのその攻撃の速さに、ロゼが加勢する必要などなかったのではと思える程だ。


そこからは早かった。ロゼが風壁(ウィンドウォール)を応用して相手の四肢を拘束し、ゼルドが二匹にとどめを刺す。

しかも恐ろしいことに、ゼルドは神力を使う様子もなく、血を浴びて禍々しいほどに黒光りする凶器を振り回し、鋭い鎌の部分で魔物の肉を切り裂いている。

その怖さをひしひしと感じながらも、ロゼは剣で応戦していた。


「っぐぁ、ぁあ!」


少し遠くからの叫びに、ばっとロゼは振り返る。目線の先では、騒ぎに乗じて人間(エサ)を食べようとやって来たらしい大型の魔物が、男性隊員に食らいついていた。大きな口によって噛みちぎらんばかりに歯を食い込ませられている片腕からは深紅が滲み、その部分からはミシミシという危険な音も鳴っている。


ロゼは考える間もなく背中に背負った弓の胴に手をかけ、矢を番えようとする。だが一瞬の逡巡の後それを元に収め、胸の前で手首ごと右手を素早く回転させた。

すぐさま目の前に顔ほどの大きさの竜巻が巻き起こる。その渦の狙いを隊員に噛み付く魔物の腹部に集中させた。


この間は、僅か二、三秒もない。だが、ギュルギュルと音を立てて収縮する渦が放たれようとした時―――背中に、肩に、暖かい熱を感じた。


「――っ!」


それが(ゼルド)の体温だとわかった直後に、ふわりと暖かなものが身体を循環し、増幅する。


その瞬間、爆発的な熱風が巻き起こった。


ロゼの目の前で、ロゼの力によって発射されたはずの熱の渦は、魔物の腹を貫通し、その後ろにいた大柄な大怪鳥(ルフ)の胴にも風穴を空ける。


「こ、これがシュワルツェの"同調”……!助かったよ、ありがとう!」


先程腕を食われていた隊員が、腹に空洞のできた魔物を腕にぶら下げながら、こちらに顔を向けて感謝の言葉を告げてくる。

その言葉に、やっとロゼは自分が同調の力を使ったのだと理解した。

ゼルドがロゼの同調性に神力を流すことによって干渉したのか、又は訓練でゼルドとの同調に慣れたロゼがその瞬間に癖でやってしまったのか。定かでは無いが、恐らくゼルドはこの同調を起こす為にロゼの肩に手を置いたのだろう。ロゼでもそれくらいのことは分かった。




「……なぜ、弓を使わない」


腹部に穴の空いた大怪鳥が崩れ落ちた時だった。先程弓を使おうとしなかった自分に対してのその問いに、ロゼは暫し黙った後、理由はない、とだけ答えた。



本当は、彼に認めて貰ってから、実践で使おうとしていたのだ。


だが、彼がロゼに放った言葉が今も頭の中から消えない。この討伐の間も、ふとした瞬間に再現されるその言葉。



「……お前の弓は、実践レベルに十分達している」


『 お前は、弱い』



「実践で用いても、支障はないだろう。……?どうした」


『 知るには不十分だと、判断した』




「――()()()()いただき、ありがとうございます」

「……気遣ってなど」

「これからは。……討伐でも弓も使うようにしますね。担当の方にも認められたことですし」


担当の方、という距離感のある言葉を使ったからだろう。ゼルドは眉をぴくりと寄せ、あからさまに不機嫌になった。


「好きにしろ。(ただ)し、傍は離れるな」


恐ろしい顔つきを更に歪ませたまま、ゼルドはロゼに背を向け、他の隊員達が戦っている方へと歩き出す。



―――何であんなに皮肉げに返してしまったんでしょう……ロードさんはお世辞も言わないし、気遣いの嘘なんてつかないのに。


先程の言葉が、彼の本心だったことは間違いないのだろう。だが弓の腕を多少認められても、いや認められたからこそ、先日の言葉が胸に突き刺さる。


まるで、どれだけ力をつけても彼の存在する場所には辿り着けないと……対等に隣に立つことなどできずに、ただ守られなければならないのだと思い知らされるようで。



―――あんなに、弓の腕を認めてもらうのを楽しみにしていたのに。…………喜べないなんて……



周囲で巻き起こる爆炎によって照らし出されるその広い背中から落とされる影に、すっぽりと入ってしまう小さな身体。その身体から伸びる小さな手に弓を握り締め、ロゼは歩みを進めるのだった。





事態が収束を見せ始めたのは、最初の大怪鳥(ルフ)による突撃から一時間程経った頃だった。最初の一頭に加えて後から来た六頭、更に騒ぎに集まってきた他の魔物も全て相手にしてこの時間で収めることが出来たのは、さすが第一聖師団第一隊というところだろう。


「いやあ、凄いねロゼちゃんは。ゼルドの力を借りたとはいえ、あんなに威力のある攻撃ができるなんて」

「ほ、本当だよ。僕なんて先輩なのに、魔物一匹しか仕留められなかった」


目的の討伐が終了したため帰路につき、現在は森の中では比較的安全な場所で各々休憩を取っている。水使いの隊員によって作り出された貴重な水分を持参した木のボトルに入れてもらいながら、シュデルとディノが近くにいたロゼに話し掛ける。


「いや、でもディノも凄かったじゃないか。さっき倒したのだって大型のやつだろう?普段は控えめなのに、戦闘になると人が変わったように雰囲気が研ぎ澄まされるからね。ほら、さっきの戦闘だってさ、お前の得物を大鎌に変えて笑いながらぐっさりと……」

「ぁぁぁああああぼぼ僕の話は!いいんだよ!それならシュ、シュデルだって。さっきいくつもの傀儡を操って魔物を倒していたじゃないか!あの絵面じゃあ、どちらが悪者か分かったものじゃんんんんん」

「ディノー?ちょっとあっちで話そうか。ごめんねロゼちゃん」

「……あっ、はい」


……どうやら、第一隊にはくせ者が多いようだ。


二人の漫才のような掛け合いに、くすりと笑いがこぼれる。本当はシュデルもディノも、ロゼと今もロゼの傍から離れないゼルドの雰囲気が悪くなっていることが気掛かりで、声を掛けてくれたのだろう。その証拠に、シュデルは去り際にゼルドの事を確認するようにちらりと見ていた。彼が友達(ゼルド)思いなことは、普段のたわいないやり取りからも分かる事だ。そしてきっと、ロゼの心配もしてくれているのだろう。


ロゼはそっと傍らに座るゼルドを見遣った。




本当は、先日、彼と言い合いのようなことをした日に起きた感情の爆発は、収まっていた。怒りが無いと言えば嘘になるが、それよりも今は虚しさややるせなさの方が大きいように感じる。それが時々、先程のように、ふとした瞬間に出てきてしまうのだ。



尊敬するゼルドの声が、発せられる言葉が大好きなのに、あのたった一言だけが呪いのように何度も頭の中で再生され、ロゼを苛む。


―――考えすぎだとは、分かっています。ロードさんはただ、私を心配しただけのこと。…………でも、彼は、嘘をつかない。



だから分かってしまうのだ。彼が言ったことは全て、彼の本心なのだと。













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