会議にて
今回ちょっと短めです。
ロゼがフランチェスカと話していた頃。厳かな雰囲気を纏う聖殿に位置する部屋。重厚な扉によって閉ざされた会議室にて、その会議は行われていた。
「――では、魔物の数自体は減っているという解釈で?」
「ええ、宜しいかと」
手元にある資料から顔を上げそう告げる研究員の言葉に、円卓に座っている面々からざわめきがおこる。
その騒然とした雰囲気の中、先程発言した研究員の正面に座る赤毛の男が、組んでいた腕を解き、挙手をする。
その顔は、彼の性格を表すように穏やかだ。
「第二聖師団長、発言を」
発言を許すその旨に、赤毛の男――ロンダール=エダンズ――は議長である高位神官に小さな礼をし、今日召集された神殿上層部の面々へと身体を向けた。
「報告中に失礼する。現在、ご存じの通り魔物の攪乱によってローザリンド内での討伐件数が増えている状況だ。それなのに魔物の数が減少傾向にあり、なおかつそれが上位の魔物であるとは。自然発生的に起こる現象とは思えないが」
「それについては、現在調査中です」
その答えに、第二聖師団長は僅かに眉を寄せる。普段温厚な彼にしてみれば珍しい仕草だ。
ロンダールが追求しないことを確認した研究員は、会議室全体を見回す。
「他に質疑がないようでしたら報告は以上になります」
「……では、次の項目に移ります。近年多発している危険物製造について――……」
「不服、という顔ですね」
会議が終わり疎らに人が減り始めた会議室でそう話しかけられたロンダールは、声のした方へ振り向く。声の主は、会議の際に使われた部屋中央部にある円卓、その一席に座っていた。
「……ノーヴァ第一聖師団長」
「ふふ、やめてください。貴方からしたら私などまだ若造でしょう」
話しかけた男、レライ=ノーヴァは、自身が会議で座っていた席から立ち上がり、ロンダールの方に近づいてくる。
「確かに、私が第二聖師団長に就任した時には君は未だ新人隊員だったからな。……十五年前、か。時が経つのは早いというが、これ程実感することもあるまい」
「私の場合は例外ですよ。直属の上司だったリデナス第一隊長のおかげです」
「ふ、確かに。君はリデナスの下で叩き上げられたからな。君が異例の昇進をした今では、彼が君の部下になった訳だが……相変わらずの仲のようで、安心しているよ」
「まあ、あの人は要らぬ出世を嫌がりますから。それがあの人らしいところでもあるんですけどねぇ」
くすくすと笑いを零す美貌の男は、如何にも愉快そうだ。この男の信頼するリデナス=オールディントンについての話だからであろう。
「……それで、私の表情についてだったか」
この男が話しかけてきたのは、昔話をするためでも談笑するためでもない。それはロンダールも分かっていた。
「えぇ。温厚な貴方にしては随分と険しい表情をしていたでしょう?何か気にかかった事でもあるのかと思いまして」
―――それを君が言うのか。
先程の会議で、神殿所属の研究員から魔物についての報告を受けた際。ロンダールはまず、疑問を抱いた。
神殿の本部、その南に位置する聖殿に拠点を構える神殿所属の研究棟では、世界でも最高峰の研究がなされている。聖殿の中に図書棟のように独立して存在する研究棟には、一般人ならお目にかかることのないであろう精密機器も、研究に必要な資材も、またそれらを最大限に活用するための知能も、全て整っているのだ。
そんな最高峰の研究機関が、魔物の攪乱が最初に確認されてからはや数か月経った今頃、結果報告として「上位の魔物の減少」のみを示したのだ。報告を受けた際に上位神官達がざわついていたところを見る限り、神官達はその事実に気づいていなかったのだろう。しかし実際に現地に赴き討伐をする御使いの、またその統括を一部務めるロンダールは、確信は持てないにしてもその事実には気づいていた。ロンダールでさえ気づいたことを、ましてやこの男が気づかない筈がない。
それに、ロンダールは見た。
この男が会議中、報告を聞いているときに小さく笑っているところを。
いつもの笑みよりも更に得体の知れない、口角を上げるような笑みを。
だからこの男は知っているはずなのだ。ロンダールが何を疑問に思っているのか、そして恐らくはその真相についても。
「――そんな顔をされたら、流石に私も傷ついてしまいますよ?」
まったくその響きのないレライの言葉に、ロンダールははっとした。
きっと自分は、今の感情をそのまま顔に出してしまっていたのだろう。
「まあどう思われようとも構いませんが。……ただ、これだけは言えます。今の聖師長様がいる限り、神殿が傾くことはありません。その為に私達が手足となって支えるのですから」
「そう、だな。……すまない、君を信用していないわけじゃないんだ」
「本人にそんなことを言うあたり、本当に変わった人ですね。あなたも」
「君には言われたくないな」
「ふふ、言いますねぇ」
―――レライが敵でなくて、本当に良かった。
優しげに微笑む美しい横顔を見て、ロンダールはそう考えるのだった。
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