自己紹介は大切です
「レイ=ノーヴァです。新人隊では第一隊に所属しておりました。属性は風、得物は主に剣を二本使い、得意とするのは近接戦です。若輩者ですがご教授のほど宜しくお願い致します」
ロゼの次に自己紹介を始めたのは左隣に立っている男、レイ=ノーヴァだった。
今年の入隊者代表の彼は第一聖師団長である彼の兄と顔立ちが似ており、髪と瞳の色合いも同じのようだ。ただ、兄が柔らかい物腰の美丈夫なのに対して、レイ=ノーヴァは真面目という言葉の相応しい男であることが立ち方や態度、そして話し方からも感じられる。
雰囲気がまるで異なる為、見間違えることもないだろうなとロゼは考えていた。
レイがレライの弟であることは有名な話なのであろう。ロゼの姓を聞いた時に驚いていた先輩隊員達は誰一人として驚く様子もなく、ぱちぱちと疎らな拍手をレイ=ノーヴァに送っていた。
そして次の者へ、と皆が目線を左へと移す。
ロゼも同じように目線を移し、そして目を見開いた。
「アリア=ヒルデン、音使いです。第一隊の所属でしたわ。これからはこの隊の新人として、頑張らせて頂きます」
そう言ってお辞儀をし、顔を上げた少女。
まずロゼの目が吸い寄せられたのは、強い意志を感じさせるような深紅の瞳だった。その瞳を縁取る目は吊り上がり気味で、気高い猫のような印象を受ける。
小さい鼻はつんと上を向き、口は形の良い薄桃色。
そして美しく光を反射する銀の髪はこぼれることなく編み込まれ後頭部で纏められているため、スタイルの良さが更に強調されている。
―――すごい、生きているお人形さんみたいです。確か実家にこんな感じのお人形がありましたね。
ぽけーっと見とれていたロゼは、ふと自分を見下ろした。
顔の周りに垂れる亜麻色の髪。
女性の中でも特に小さな体。
そして有り触れた焦げ茶色の瞳。
ロゼはよく周りに「可愛い」と言われる。しかしその言葉の前には、必ず「小さくて」「小動物みたいで」「ちまちましてて」……等、とにかく”小さい"に関連する形容詞が着いてまわるのだ。
確かに愛嬌のある可愛らしい小さな顔だし、髪が亜麻色という点はロゼも気に入っている。
だが特出して素晴らしいという訳ではなく、容姿に言及するとなるとどうしても「小さい」ことに目がいってしまうのだった。
―――ロードさんも、彼女のような綺麗な人の方が好ましいのでしょうか。
ロゼはアリアを見ながら、人知れず小さな溜息を着いた。
「新人隊の第一隊ってことは、レイ君と同じだったんだね。知り合いがいると、少しは気が楽になるんじゃないかい?」
「………………えぇ、まあ」
シュデルに話しかけられたアリアは返事を返すも、愛想笑いを浮かべようとして失敗したような顔をする。そしてちらりと横に立つレイ=ノーヴァを見て、…………一瞬睨んだ、ようにロゼには見えた。
―――……早くも不安の種が…………今日はもう頭ぱんぱんだし、ベッドに行くことだけを考えたいのに…………。
疲れすぎて親睦会の存在を忘れているロゼ。後半など終電間際まで働く社畜の考えである。
仮にも戦闘職種が、片想い(ではないが)相手の事を考えてキャパオーバーなどまったく情けないものだ。
微妙な間を残しながらも、四人目の自己紹介へと進む。
「ハンス=イグニス、風使いです。新人隊では第二隊所属でした。至らぬ所もあると思いますが、宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げるハンス。
ハンスの配属先が自分と同じだとロゼが知ったのは、入隊式直前だった。整列する前、偶然近くにいたロゼに本人が教えてくれたのだ。
「ロゼの希望先が自分と同じだったのは知っていたんだけどね。もし受からなかったら情けないし、言わなかったんだ」
という事らしい。
「これで今年の入隊者は全員だな。例年に比べて少ないが、これから仲間となる者同士だ。切磋琢磨して励め」
隊員の後ろに控えていたリデナスがそう区切り、自身の退出と親睦会の開始を告げてホールから出ていく。
「隊長はあんまりこういうの参加しないからなぁ」
「まぁ今日は事務仕事が残ってるって言ってたし、しょうがないさ。さ、それより親睦会だ!
じゃんじゃん食ってじゃんじゃん飲もうぜ。新期生の四人はギリギリ未成年だから飲めないけど、美味しいものはいっぱいあるからな!」
厳つい、いかにも戦闘職種の男の隊員が、シュデルの肩に腕を回しながらロゼ達にニカッと笑いかけてくる。
その言葉を皮切りに、隊員達がいそいそとテーブルや食べ物の準備を始める。
第一隊の隊員総勢三十名程が集まっているロビーは、あっという間にごった返しの状態になってしまった。周りを見回すと、女性隊員も全体の四割程はおり、関係性も良好なようだ。
―――全体が活気に溢れてて、はきはきしています。…………いい職場に恵まれたようです。
新人隊を離れ、同じ神殿内とはいえ新しい配属先と新しい自分の部屋になり。場所も人も環境も、まるっきり異なる所で任務にあたる。
それらに対して不安が無いわけがなかった。
―――でもきっと、自分はここで上手くやれる。
まったく現金なもので、安心した途端にごぎゅるると可愛らしくない音が腹から響く。ロゼは苦笑しつつも素直な自分のお腹を摩り、そして先輩達が準備しているテーブルへと脚を一歩、踏み出した。
地上から遠く離れた夜空で輝く星々をバルコニーに面する窓から眺めていたロゼは、ふと自分の座っているソファが大きく沈み込んだのに気付き、左へと顔を向けた。
目の前にあるのは、少し着崩した生成り色のシャツと、太さで言うならばロゼの胴程もありそうな腕。
この男は思いもしないだろう。自分がこの男の事を考え、悩み、そして顔を見れないほどに好いているという事を。
「……おつかれさまです」
恥ずかしさも収まり、今はもう目を見て話すことはできる。だがロゼの頭には今、入隊式の時に2人組が話していたことが蘇っていた。
「――また、そうやって顔を見せないのか」
少し苛立ったように喋る声が、上から聞こえてくる。
見せられない訳じゃない。
ただ、隣に座って自分を見下ろすこの男を遠く感じてしまうだけで。
コク、と喉を鳴らし、そっと上を見上げる。
座っている分いつもより顔は近く、首も痛まない。だがやはり、見上げないといけない程にこの男――ゼルドは大きいのだった。
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