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強面さまの溺愛  作者: こんこん
一章
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怒られる気しかしません

ロゼがうなずいたのを見たゼルドは撫でていた手を離し、立ち上がって歩き出す。ロゼもそれに続くかたちでぴょこんとベンチから地面に降り立ち、普段は下ろしているストレートボブを後ろで結んだしっぽのような髪を揺らしながら歩いてゆく。

二人の歩幅にはかなり差があり、ゼルドが普通に歩くとロゼは小走りでついていかなければならなくなる。なのでゼルドと出会った当初のロゼは金魚の糞のように後ろをちょこちょこ走ってついていっていたのだが、最近ではゼルドがロゼに合わせてゆっくり歩いてくれるようになったため、ロゼは小走りでなくともゼルドの横に並んで歩けるようになっていた。横に並んだ時、身長差のため話すときはかなり上を見て話さなければならず、度々首が痛くなるのが最近のロゼの悩みだ。しかしそれをゼルドに気づかれるとまた前のように子猫吊り下げ状態になってしまう予感がしたので、ロゼは極力悟られないように努めていた。


「……これは……傀儡、ですか?」


ゼルドが歩きながらポケットから出したのは、訓練中によく使われる”傀儡”の小さいものだった。

傀儡とは、土使いによって作られる魔物の形をした土人形のことである。魔物討伐を想定した訓練では、土使いがその場で傀儡を操作して相手をする。形は魔物とはいえ土の人形であるから、魔物のように属性を持った攻撃は打てず基本一回しか操作することができない。しかし訓練においては重宝されており、実践において土使いが複数の傀儡を使うこともある。

だがしかし、それらは土使いがその場でつくり出し、その場で操作するものである。崩れずにゼルドの手の中に納まっている縮小サイズの傀儡を見て、ロゼは首を傾げた。


不思議そうな顔をしたロゼに、ゼルドが答える。


「これは同じ隊の土使いが作ったものだ。物好きたちの集まりで、土使いがその場で操作しなくても済むような、持ち運びできる傀儡を開発しているらしい。これはそのサンプルだ」

「す、すごいですね!その開発がもし成功したら、かなりの功績です」

「ああ。本部も開発にかなりの額を支給しているそうだ」


ロゼはゼルドの手の中にある小さな傀儡に興味津々だ。ほえぇ、と口を開けながらしげしげと眺めている。

そんなロゼをほほえましげに見下ろしながら、ゼルドは傀儡をひっくり返し、そこに描かれている、中心部が目のようになっている螺旋状の文様をつつと人差し指でなぞった。


動け(イード)


その響くような低い声に反応した傀儡が、内からぴく、と震え、次の瞬間にはぽぉんとゼルドの手から飛び出していった。

そしてそれは次第にぼこぼこと音を立てて大きくなり、遂にはゼルドの背を超えてゆくまでに伸びてゆく。そしてそれは、豪商の邸宅ほどの大きさになってやっと勢いを止めた。


「ぉ、おおおおきすぎませんか!?魔獣でもこんなに大きいもの早々いませんって!」

「渡した土使いは俺しか使うと思っていないだろうからな。問題ないと思ったのだろう」

「私には大ありです!し、しかもこれっ、ドラゴンじゃないですか!」


傀儡が小さかった時は、「鳥か何かかな?」と思っていたロゼは、目をこれでもかと見開いて大声をあげる。


「属性を使うことはないのだから問題ないだろう」

「いや、まあ、そうなんですけど」


属性を使わないとはいえ、ドラゴンは本来複数人で討伐するものだ。前に遭遇した中程度の大きさのファイアードラゴンだって、ロゼの部屋ぐらいの大きさしかなかった。


――――まあ、やるしかないんですけどね。折角ゼルドさんと一緒にできるんですから。


実践で突然こんな大きな魔獣に遭遇したら、ロゼはこんなに冷静ではいられなかっただろう。しかし訓練とはいえ、この傀儡は攻撃性を持つし、訓練中に重症を負う場合だってある。

それでもロゼがそんなに取り乱さずにいられるのは――――ゼルドが一緒にいるから。

彼が強いから、というのもあるが…………。


――――これは高揚、でしょうか。怖さが無いわけじゃないのに。


ロゼは唯、思ったのだ。もしこんなに大きいものを、自分が今までなら倒せそうになかったものを……ゼルドと共に倒せたら、どんな気分になるのだろうかと。


「――いけそうだな」


震えながらも僅かに目を輝かせているロゼに、ゼルドが口端を片方つりあげる。


傀儡のドラゴンが大きな咆哮をあげ、こちらに突進してくる。


「まずは一回、正面からだ。槍の方向を見るな。俺の神力の向かう先を感じて、渦を纏わせろ」


そう言いながら、ゼルドは空中に炎槍(ファイアランス)を出現させる。それはロゼの知るものとはまるで別物であった。神殿の柱ほどの長さの槍は、まわりの景色を歪めてしまうほどに熱く、力強い。

目で見るな、ということだろう。ロゼの後ろに立つゼルドはロゼの両目を片手で塞いだ。


ロゼはすっと目を閉じる。

身体が触れているのもあるのだろう、ゼルドの神力をいつも以上に近くに、詳細に感じる。

そしてそれらが向けられた先へと、風の渦を纏わせる。


――――槍自体に纏わせるんじゃない。もっと強く………邪魔なものを全て、払うように!


ィィィンという音と共に、渦が凝縮し、定められてゆく。

槍の軌道を覆うように展開された渦が張り詰めたその瞬間、槍が渦に自身から飲み込まれるようにして発射される。


その熱の渦は傀儡の心臓部の土を抉り、その周囲を焦土へと変えるに留まらず、轟音と共に森の先まで貫通していった。


「――――上出来だ」


目を覆っていた大きな手が離れ、ロゼは目を開く。


そこには、崩れ落ちて朽ちた土と…………奥深くまで抉られ、一部が黒く変色した森があった。


――――…………………………怒られ、るよね。絶対。


終わってロゼが感じたのは高揚や感動ではなく、背中に伝い落ちる冷や汗だった。


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