プロローグ
プロローグは超短めです!
ロゼは呆然としていた。
ここは神殿、中庭に続く吹き抜けの廊下。季節は春も未だという頃で、天井高く響く風の音はどこか寒々しい。その廊下には、ふたつの影がおちていた。
ひとつはすこし小さめの、少女とも見て取れる程の影。
そしてもうひとつは……
――実家の玄関に置いたら防犯になりそうです。いえ、その前にかあさまととうさまが泣き叫んで家に入れないですね。まあ置物ではなく人ですけど。
ロゼは只今現実逃避中だった。現実とは、そう、目の前の男。
傾きかけた太陽を背負うその男の顔は、今は見えない。その体は大きいという表現では足りないくらいに大きく、分厚い。腕は片腕でロゼを挟めるくらいにはがっしりとしており、腕には筋が浮いている。腰はロゼの胸元まであり、足は着ているズボンがぱっつぱつになるほどに筋肉がついていた。…はち切れそうなズボンが可哀そうだ。
想像してみて欲しい。自分の二倍はあるのではないかというような男が、太陽を背に無言で立っている。顔が見えないが、おそらく自分を見つめて。
男が一歩踏み出す。その時、夕日に雲がかかり廊下に薄暗い影を落とした。
「っ!」
その時悲鳴をあげなかった自分をロゼは褒めたい気持ちになった。大変失礼な話ではあるが、それも致し方ないのかもしれない。なにせ、暗い廊下で自分を見下ろす男の顔は。
失神してもいいくらいには恐ろしかったから。