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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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28.目覚めとアドラのマナ講座

 目が覚めると、私は自室のベッドに寝巻き姿で横たわっていた。

 騒動の後に気を失ってしまったが、あの後ドロシーが連れて帰ってくれたのだろうか。

 時間を確認すると、お昼より少し前くらいのようだ。

 私はベッドから起き上がろうとしたが、身体に上手く力が入らない。やはり無理をして体調を崩してしまったのだろう。今日は大人しく休んでおこう。


 怪我をした子達はどうなっただろう。フィリアが治療してくれただろうか。

 ヴァルクリオはどうなったのだろうか。エルオットに状況は伝えたが、上手いこと対応してくれただろうか。

 心配事はあるが、妖精案件は大人に任せておけばきっと大丈夫のはずだ。


 ぼんやりと考え事をしながら動かない身体をどうにか動かそうとモゾモゾしていると、頭の中に声が聞こえてきた。


『姫様、目覚めたんですね!』

(ジージョ、おはよう。ねぇ、私が気を失った後どうなったか分かる?)

『申し訳ありません。姫様が見た情報でないと、私も様子を知る事は出来ないのです』


 状況を知りたかったが、ジージョも分からないらしい。ドロシーにでも聞いてみるしかなさそうだ。


(とりあえずジージョは凄く頑張ってくれたわ、ありがとね。あなたがいなければ皆もっと危険な目に遭っていたと思う。今日はお菓子をいっぱい上げるね)

『わああ、ありがとうございます! ありがとうございます!!』


 妖精を封じる事が出来たのはジージョのおかげだ。私がその労をねぎらっていると、部屋の外から複数人の声が聞こえてきた。

 誰の声かはすぐに分かったのだが、私は首を傾げた。ドロシー、アドラ、そして何故かオルターも居るようだ。アドラは検査に来てくれたのだろうが、オルターがこんな平日に家に居るとは珍しい。


 程なくして部屋のドアが開けられ、私は三人と目が合った。私が笑顔で迎えると、何故か皆が揃って目を丸くしていた。

 どうしたのだろうかと考えている間に、両親は私を優しく起こし上げてぎゅっと抱きしめてきた。いったい何事だろうか。


「ああ、セシリィ、やっと回復したのね!」

「セシリィ、ちゃんと目覚めてくれたんだね! 本当に良かった!」


 二人の尋常じゃない喜びように何だか嫌な予感がして、私はアドラに視線で問い掛けた。

 アドラは視線の意味に気付いたようで、今の状況を教えてくれた。


「セシリィ、ようやく回復したようで良かった。君が倒れて今日で五日目だ、そろそろ命に関わる可能性もあったんだよ」

「……え?」


 五日と聞こえたが、聞き間違いだろうか。聞き間違いであって欲しい。私は倒れて目覚めただけで、時間が経っている感覚がまるで無いのだ。

 だが、あれから五日となると今日は天の日だ。オルターが帰宅している理由に合致する。

 受け入れ難い事実だが、本当に五日も寝込んでしまったのかもしれない。


「身体は動きそうかい? 流石に五日も寝たきりだと体力や筋力の低下が気掛かりだし、栄養状態も心配だ」


 アドラの言葉にドロシーはハッとして立ち上がった。


「私、何か消化に良い物を準備して来ますね」


 ドロシーはそう言うと、もう一度私を強く抱きしめて部屋を出て行ってしまった。学園の状況を聞きたかったのだが仕方ない。


「身体は思うように動かないですね。でも今は、私の事より友達がどうなったかが心配です」


 私が暗に知ってる事が有れば教えて欲しいと催促すると、アドラは事件の後の事を教えてくれた。


「僕もフローレスから聞いただけになるけど、怪我をした子達は皆回復したよ。ただ、心の方への影響が深刻な子が居てね、僕のところでカウンセリングをしている」

「もしかして、エイミーやベラも?」


 私の問い掛けに、アドラは静かに頷いた。

 やはり子供にあの光景はトラウマだったようだ。その上ベラは直接の被害者だし、エイミーは気絶してしまう程の繊細な子であるのだから尚更である。


「だが、君がくれた本を読んで楽しんでいたよ。おかげで随分と気を紛らわせられているようだ」


 そう言うと、アドラは鋭い牙を覗かせてニッと笑った。私の絵本がこんな形で人を元気付けられるとは考えていなかったので、じんと胸に込み上げてくるものを感じた。


「セシリィは友達の事ばかり心配しているけれど、一番深刻な状態だったのは君なんだよ」


 オルターが私の頭を撫でながら、真面目な表情で言った。

 いくら私が病弱でも、五日間も意識を失う事態は初めてなので随分と心配を掛けてしまったのだろう。


「本当だね、こんなに体力が無いなんて自分でもびっくり」


 私が苦笑して冗談めかしく自嘲してみたが、何故か二人共首を横に振った。


「セシリィ、今回君が倒れたのは疲れや病気が原因じゃないんだ」

「……どういう事?」

「君はマナ枯渇に陥っていた」


 聞いた事もない症状に首を傾げると、アドラはマナというものについて教えてくれた。


「僕は教師じゃないから簡単にしか教えないけれど、マナとは妖精を扱う際に消費されるエネルギーのようなものだよ。ただ、本来は意思を巡らせる為に必要なものなんだ。マナはどこにでもある。動物にも石ころにも空気にも、もちろんセシリィの中にもね」


 私は自分の身体を見下ろした。そんなものを有していたとは知らなかった。


「このマナが足りなくなると思考が回らなくなり、頭痛や目眩を引き起こす。更に深刻な枯渇状態になると、思考がほとんど停止して、呼吸などの無意識にとる行為しか出来なくなって、君が陥ったように気を失ってしまうわけだ」

「それって凄い大事なものじゃないですか! なんでそんな大事なことを誰も教えてくれないの!?」


 ようやく事態の深刻さを理解して、私は青ざめた。早く教えて欲しかった。学園の教育課程はどうなっているのか。

 私の抗議にアドラは軽く溜め息を吐いて、頭を左右に振った。


「マナが大量に消費されるような妖精は、セシリィくらいの歳では使えない。君が扱える妖精は、呼吸時に空気中から取り込めるくらいの量で充分足りるから、わざわざ教えないんだよ」


 なるほど、合点がいった。それなら必要になってから教えるだけで充分だろう。


「セシリィ、本来は枯渇するはずのないマナをどうして消費してしまったかは、僕達も先生達から話を聞いてある程度察しているよ。聞かなければならない事も沢山ある。けれど、目覚めたばかりのセシリィにそれを尋ねるつもりはないから今はゆっくり休んでいいからね」


 アドラのマナ講座が終わると、オルターは優しく私を気遣ってくれた。その気遣いが嬉しい。

 マナが枯渇した理由など一つしかないけれど、正直なところまだ頭が上手く回っていないので、説明出来る自信が無い。万全になるまで待ってくれるだけでも非常に助かる。


「ありがとう、お父さん。大好き」


 目一杯の感謝を伝えると、オルターは今日一番の笑顔を浮かべた。


 ところで、マナについてはもう一人話を聞いておかなければならない子がいる。


(ねえジージョ? あなたは今までマナを使って色々としてくれていたの?)


 私の問い掛けに、ジージョは一瞬うっと言葉を詰まらせた。


『えっと、その、そうみたいです。実のところあまり考えて使っていなかったので、あるだけ使ってしまった事を女王様に叱られてしまいました。姫様、申し訳ありませんでした』


 どうやらジージョもよく分かっていなかったらしい。なんだか落ち込んだ声になっている。

 ちょっぴり食いしん坊の優秀な子だと思っていたけれど、割と抜けたところもあるようだ。


(知らなかったなら仕方ないよ、落ち込まないで。ジージョは私のお願いした通りにお仕事してくれただけなんだし。でも、今度からはマナを使い過ぎていたら教えてね。また倒れて皆に心配掛けたくないの)

『うぅ、こんな失態をお許し頂けるなんて……。 私、お優しい姫様にお仕え出来て本当に良かったです。今後は二度と姫様が倒れないように気をつけます!』


 ジージョにもマナの管理をお願いしたので、もう二度と枯渇する事は無いだろう。これで一安心だ。




 その後、ドロシーが料理してくれたほとんど味のしない薄いミルク粥を食べた。久しぶりに病院食を思い出す味だった。

 寝ている間は水を経口摂取させるくらいしか出来なかったようで、消化機能がかなり低下しているらしく、今はこれくらいでないと駄目らしい。


 食事が終わると、アドラがくれたマナの巡りを回復させる錠剤を飲んだ。

 これも意識が戻らなければ摂取が難しく、マナがある程度自然回復して目覚められる程度になるのを待つしかなかったそうだ。

 どうやら思った以上に危険な状態だったらしい。命に関わるレベルだったというのも、誇張でも何でもなかったようだ。そう自覚すると、流石にちょっと怖くなった。


 食事が済む頃には、アドラは荷物を纏めて帰って行った。

 私は両親に見守られながら再び横になったが、やはり学園の事だけは気になったのでドロシーに尋ねてみた。


 ドロシーが教えてくれた学園の情報は少なかった。しかしそれは、別に情報を伏せているわけではない。曰く、あれだけの事件が起きたので、情報収集の為に学園は一週間閉鎖する事になったとのことだ。

 私としては自分だけ授業が遅れる事態にならなくて安心したが、やはり随分と大事になっているようだ。

 ちなみにヴァルクリオについては、私が回復してから諸々話してくれる予定らしく、今は詳しく聞く事は出来なかった。一応、命に別状はないらしい。


 その後更に三日間学園を休み、マナの治療薬の服用を続けてようやく身体が動くようになった。食事も普通に取れるようになり、ドロシーからの許可も下りたので、明日からまた学園生活が始まる。

 私はこれから巻き込まれる面倒事など知る由もなく、久しぶりの学園を楽しみに眠りについた。

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