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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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23.校外授業と影魔

 妖精への対策を用意してから既にひと月が過ぎた。

 心配していた妖精関連の案件は、あれから起きた様子はない。区長からの仕事も片付いたようで、オルターも翌週の天の日からは、普段通り帰宅していた。

 平穏なのは嬉しいが、息巻いて色々と準備したのに拍子抜けである。


 学園の生活についても、その後は大きなトラブルも起きていない。ジークリフ達も態度が少しだけ軟化し、リックや私達ともたまに会話する程度の仲になった。

 ギードについては、治療を受けた日以降はもう怪我を負った姿で来る事も無かった。ただ、性格は随分消極的になり、たまに不安そうな表情を浮かべるのを目にするようになった。

 結局、彼の背後で何があったかは分からないままだ。出来ることなら話を聞いてみたいが、妖精案件と釘を刺されている以上、首を突っ込む訳にもいかない。理解はしているが、スッキリしない状況だ。


 学業の方は順風満帆、極めて順調である。基礎学習は特に問題ないし、実技の授業では絵を描く課題で褒められたり、音楽の授業でエイミーの歌を聴けたり楽しい事がいっぱいだ。

 運動だけはどうしても不得意だが、無理をしない程度であれば身体を動かすのは嫌いではない。


 そして今日、とても楽しみな授業の日がやってきた。初めての校外授業である。

 授業と言っても何か課題をこなす訳ではない。皆で学園の東にある森へ行き、お弁当を食べて帰るだけである。要するに遠足だ。

 私にとっては、莉絵だった頃も含めても生まれて初めての遠足である。あまりに楽しみで、危うくまた寝不足になるところだった。流石に今回は明け方まで眠れないという事は無かったので、入学式の二の舞にはならないはずだ。


 校外授業を楽しみにしているのは当然私だけではない。教室中がエルオットが来るのを今か今かと心待ちにしている。

 普段は家格に相応しい落ち着きを見せているジークリフやマルティアでさえ、表情が期待に満ちていた。


 一限目が始まる時間から少し遅れて、エルオットがやって来た。彼は何故か、シャツの上に革鎧のようなものを身に纏っている。

 エルオットは教壇に立つと、ニッと笑って皆を見渡した。


「皆揃っているな! 伝えていた通り、今日は校外授業で森へ向かう。ピクニックのようなものだが、授業の一環なので羽目を外しすぎないように!」


 エルオットの注意に皆が元気よく返事をすると、彼は満足気に頷いた。


「よろしい! では皆、鞄を持って出るように。級長の二人は、後ろから皆の様子を見ていてくれ。体調が悪そうな子が居たら私に教えて欲しい」


 級長の私は、重要な役割を任された。これは頑張らなければと張り切っていると、皆が不安そうに私を見ていた。

 言いたい事は分かる。私が一番体調に気を付けねばならないだろう。だが、流石の私も歩いているだけで倒れたりはしないので、そこまであからさまに心配しないで欲しいものである。


 エルオットの先導で、普段は通る機会の無い東口を出て学園の裏手側へ抜けると、一本道が森の中まで伸びていた。

 森までは思っていたよりも近く、少し歩くだけですぐに森の前まで到着した。


 森の中は木漏れ日が煌めいていて、少し幻想的な雰囲気を感じた。童話ならば、このような場所にこそ妖精が住んでいそうである。こういう風景を見ると、空気まで特別に感じるから不思議なものだ。


 皆は森の中で気になる物を見つけて指差したり、森の様子に感嘆したりしながら、お喋りを楽しみつつ歩みを進めて行く。

 私とジークリフは殿を務め、皆の様子を観察しているので仲良くお喋りという雰囲気ではない。

 そんな調子で黙々と歩いてると、エイミーとベラがこちらの様子をうかがっているのが目に留まった。多分、話し掛けて良いのか迷っているのだろう。

 私だって折角の校外授業なので、お喋りしたりして楽しみたい。なので、二人に手招きして呼んでみた。けれど、二人はまだ躊躇しているようだった。

 その様子に気付いたマルティアは、エイミー達と私を見比べると軽く肩をすくめ、二人に何か声を掛けて一緒にやって来た。ありがとう、マルティア!


「ジークリフ様、少しの間セシリィとお話ししてもよろしいかしら?」

「私に確認せずとも好きに話せば良いだろう? 級長の役割など元より私一人で充分だ」


 最後の一言は少し余計だが、ジークリフの言う通りだ。マルティアは、何で私ではなくジークリフに確認したのだろう。これも上流階級の立ち振る舞いなのだろうか。難しい世界だ。

 ジークリフの返答に微笑みのみで応えるマルティアを眺めながらそんな事を考えていると、エイミーが声を掛けてきた。


「セシリィ、結構歩いたけれど疲れてない?」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫、まだまだ余裕よ」


 私が胸を張って答えるとエイミーはふふっと笑い、それから私の手を取るとぎゅっと握ってきた。


「折角だから、こうして歩きましょう?」


 私達は手を繋いで歩く格好になった。何だかエイミーが楽しそうにしているので、私もつられて楽しくなってくる。

 私はベラとも手を繋ぎ、三人並んで仲良く歩く事にした。

 その様子を、マルティアは感心したように眺めていた。


「三人は本当に仲がよろしいですわね」

「幼馴染だからね。でも、マルティアとももう仲良しだよ!」

「ふふ、嬉しいですわ」


 それから女子達でキャッキャウフフと談笑していると、側にいたジークリフは居心地が悪かったのか、いつの間にか後方に少し離れて歩いていた。




「皆、止まれ!」


 突然静止を促したエルオットの声に、私の身体がビクッと跳ねた。急に立ち止まった為につんのめりそうになるのを何とか耐えた自分を褒めてあげたい。

 何があったのかと前方を見てみると、道の真ん中に奇妙な物が置かれていた。それは、顔ほどの大きさの真っ黒い球体で、よく見ると僅かにブヨンブヨンと伸縮を繰り返しながら移動している。


「先生、あれは何ですか!?」


 エルオットの後ろを歩いていたリックが、興奮気味に尋ねているのが聞こえてきた。

 その質問に、エルオットは球体から目を離さないまま答える。


「あれは影魔だ。獣や人型の姿にもなれぬ弱い影魔は、あのようにブヨブヨした状態になる。……念の為、防具を用意して正解だったな」


 影魔とは、この世界における魔物の総称だ。話で聞いた事はあるが、見たのは初めてである。


「影魔! すげぇ、初めて見た!」


 リックは興奮気味に観察していた。私も憧れの冒険をしているようで、ワクワクしてきた。

 だが、影魔の出現に興奮しているのは私やリックや一部の男子だけだった。ジークリフやマルティアは警戒しながら後方に下がり、エイミーやベラは不安そうに私の袖を掴んでいた。


 ……これは、ついに私が皆を守ってあげる時が来たのでは?


 私はジージョに出して貰うため、戦闘に使えそうな物を絵本の中から考えてみた。


 だが、そんな事を悩んでいる間に、影魔はエルオットにあっさり処理されてしまった。

 いつの間にか右手に剣を握っていたエルオットは、まるで弾丸のように一瞬で影魔と距離を詰め、ひと突きで仕留めたのである。串刺しにされた影魔は、すぐに黒い煙となって消滅した。

 元々騎士を目指していたとは聞いていたが、実際に騎士の戦闘を目の当たりにすると、思わず溜息が漏れる程に鮮やかで格好良くて感動する。


「……凄いっ! エルオット先生、凄いね!」


 私は影魔を見た時より更に興奮して、隣のエイミーに感動を伝えた。だが、エイミーはホッとした様子で胸を撫で下ろしていただけで、特に感動や興奮を覚えた様子は無い。


「セシリィは凄いね。私、怖くて足が竦んじゃったわ」


 先程の影魔は見た目はただの黒いボールだったし、エルオットも弱い影魔と言っていたので、私は怖いとは思わなかった。だが、エイミーにはとても怖い出来事だったらしい。

 私がエイミーを安心させるように声を掛けていると、エルオットが戻って来た。彼の手元からは、いつの間にか剣は消えていた。あれも妖精による武器なのかもしれない。


「もう大丈夫だ。皆、怪我は無いな?」


 エルオットは、生徒達を見回して問題ない事を確認すると頷き、それから視線を私の後方へ向けた。


「ジークリフやマルティアは、危険なものから距離を取る事をよく教育されているな。他の皆も、影魔に遭遇した時はすぐに距離を取るように。奴らは目鼻は効かないが、近くの生き物の体温を感知して襲い掛かってくる。訓練も受けていない者が、間違っても攻撃しようなど考えないようにな!」


 密かに影魔をやっつけてやろうと考えていた私は、流石に無鉄砲過ぎたらしい。エルオットが最後に言った注意事項に、少しだけ目を逸らした。今度からは気を付けよう。


 ちょっとしたアクシデントはあったものの、その後は影魔に遭遇する事もなく、私達は目的地に到着したのだった。

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