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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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21.日常に潜む不穏

 翌日、いつも通り早くから教室に着いた私は、エイミーとお喋りをしながらギードが来るのを待った。昨日の怪我はどう見ても軽いものではなかったので、来たらすぐに保健室に連れて行くつもりだからである。


 本当は昨日のうちに治療して欲しかったが、フローレスは事前に言っておかないと確実に不在なので仕方ない。エルオットに至っては、「ギードは腕白だからな! あの程度の怪我ならすぐに治るだろう!」とあまり気にしていない様子だった。もう少し生徒を心配してと言いたくなる。


 頭の片隅でそんなやり取りを思い出していると、ギードが教室に入って来た。

 その姿を見た瞬間、教室の皆が息を飲んだ。明らかに身体に怪我が増えており、手当て跡だらけである。

 憔悴しきった表情で項垂れているその様子は、ほんの数日前まで見せていた乱暴者とは完全に別人だった。


 何があったのか、声を掛けた方が良いものかと皆が戸惑うのも当然だろう。私の為に憤ってくれていたエイミー達でさえも、あまりにも痛ましいその姿に複雑な表情を浮かべている。


 彼の身に何があったかはひとまず置いておいて、とにかくすぐに治療した方が良いだろう。

 そう考えた私は、ギードが席に着くのと同時に彼の元に向かった。


「ギード、酷い怪我じゃない。先生には説明しておくから、保健室に行きましょう?」


 フローレスは約束通り準備してくれているはずだ。……多分。

 保健室に行けばすぐにフィリアが治療してくれるだろう。


 私はフローレスに対する不安を顔に出さないようにしつつ、ギードに手を差し伸べた。

 ギードは驚いた様子でこちらを見たが、戸惑いながらも私の手を取った。


「いや、ギードは私が保健室に連れて行こう」


 早急に保健室に移動しようとしたところで、そう声を掛けてきたのはジークリフだった。

 彼はつかつかと私達の方へやって来ると、こちらを一瞥してギードの手を掴んだ。

 ギードは困ったように私とジークリフを見比べていたが、「ありがとうございます……」とジークリフに連れられる方を選んだようだ。


 そのまま二人は教室を出て行き、ジークリフのもう一人の取巻きであるフリッツも慌てて彼らを追いかけて行った。

 その場に取り残されてしまった私は、少しの間彼らが出て行ったドアを眺めていたが、このまま立っていても仕方ないので自席に戻ることにした。


「……セシリィ」


 ジークリフの行動に驚いていたのは私だけではなかったようで、席に戻るとエイミーが戸惑いながら私に声を掛けてきた。


「ジークリフ、もうギードと関わる気が無いんだと思っていたから驚いたわ」


 エイミーの呟きに同意するように、ベラもコクコクと頷いている。

 私もギードと仲直りするよう頼みはしたが、まさか率先して保健室に連れて行ってくれるとは考えていなかったので、少し面食らった。


「あら、悪い事をした者を罰したり、弱っている者に手を差し伸べて懐柔したりするのは珍しい事ではないでしょう? わたくしは、お母様にそのように教育を受けていますもの」


 マルティアだけは驚いた様子もなく、当然の事だと言い切った。

 上流家庭の姿勢や立ち振る舞いの教育は、ここまで意識が違うのかと感心させられる。お姫様を目指すなら、こういう教育を受ける事も必要に違いない。


「マルティアのお母さんは凄いのね。そういう考え方を教えてくれる人が身近に居るのって、羨ましいなぁ」


 思わず羨望の眼を向けてると、マルティアは何故かポカンとしてしまった。

 彼女は言葉を探すように視線を彷徨わせていたが、そこは流石お嬢様である。すぐにいつも通りの微笑みを取り戻し、私に応えてくれた。


「……本当に厳しい教育なので、そのように興味を抱けるセシリィは奇特な方ですわね」


 かなり言葉を選んでいるように見えるが、褒めてくれていると前向きに捉えることにして、私はお礼を返しておいた。


 そんなやり取りをしているうちに授業開始の時間になり、エルオットが教室にやって来た。

 私はギード達が保健室に行った旨を伝えると、慌ただしくて準備出来ていなかった学習道具を急いで取り出す。

 エルオットは軽く頷くと、普段通り授業を開始した。


 しばらく授業を聞いていると、ジークリフとフリッツが戻ってきた。

 エルオットは一旦授業を中断し、二人から報告を受ける。狭い教室なので、報告内容は私達にも聞こえた。

 「治療は終わった」とか「一限目は保健室で休む」というような報告を聞く限り、どうやらフローレスはきちんと仕事をしてくれたようだ。


 ジークリフ達の報告が終わると授業が再開し、そのまま一限目が終わった。

 次の授業の準備の為にエルオットが教室から出て行った後、程なくしてギードが戻ってきた。見たところ、怪我は綺麗に治っているようだ。


 ギードは自分の身体をしきりに気にしながら、そわそわしている。いきなり怪我が消えて違和感があるのかもしれない。

 保健室に行っている間に仲直りしたようで、ギードは以前のようにジークリフ達と一緒の席に戻った。何はともあれ一安心である。




 授業が全て終わり昼食の時間になると、私達はお弁当を持って保健室に向かった。

 エイミー達は、まだ保健室を食堂代わりに利用することに抵抗があるようで、「また注意されないかしら?」と心配している。


「君ら、また来たのか。ここは食事をする場所ではないと言っただろう」


 フローレスは何かの液体を調合しながら、抑揚のない声でそう言った。立場上、一応注意はするがさほど関心はないといった様子だ。軽く流して問題ないだろう。


「先生のご趣味の邪魔はしませんので、私達の事は気にしないで下さいませ」


 私はテーブルに腰掛けると、エイミー達にも座るよう促した。

 彼女達はチラッとフローレスに視線を向けたが、あちらは試験管しか見ていない。気にする必要は無いと悟ったらしく、私の後に続くように席に着いてお弁当を広げた。


 それから、おかずを交換したり、今朝の件についてお喋りし昼食を楽しんでいると、突然背後から手が伸びてきて私のサンドイッチを一切れ奪い去った。

 驚いて振り返ると、サンドイッチは既にフローレスの口に運ばれており、そのままぺろりと平らげられてしまった。


「先生、勝手に取らないで下さい!」

「ここで食事をするなら、私に取られても仕方ないでしょう?」


 私の苦言は、フローレスのよく分からない理屈で一蹴された。


「それに、君の要望通り怪我人を治してやったんだ。その礼と思えば安いものだろう」

「それは、保健室の先生なら当たり前にやるべき仕事じゃないですか! それに治療したのもフィリア先輩ですよね!?」


 思わずツッコミを入れると、エイミー達が耐え切れずフフッと笑った。


「私の仕事に関しては認識の違いがあるが、まあいいでしょう。それよりも……」


 こちらはちっとも良くないのだが、話を切り替えたフローレスがスッと真面目な表情になったため、私も反射的に姿勢を正した。


「君らはギードの怪我の理由について、何か聞いたかい?」


 その問いに、私達は顔を見合わせ、フローレスに視線を戻すと首を横に振った。


「……いいえ。今日の状態を見た時は、流石に聞いた方がいいか迷いましたが、とにかく治療を優先して欲しかったので」

「よろしい。私は彼から事情を聞き、この件については先生達が対応する事にした。君らは気にせず学業に専念しなさい」


 私は、ギードの件は解決したと思っていた。彼の怪我は、正直なところクラスメイトを怪我させたせいで親に連絡が行き怒られた、という程度に考えていたからだ。

 だが、フローレスの言い方ではまるで、ギードの怪我に関して先生達が動かなければならない問題が裏にあるように思える。何となく嫌な想像が頭の中によぎった。


「……私も教室の仲間なので、出来る事があるなら協力しますよ?」


 そう伝えると、フローレスは首を横に振って両手の人差し指でばってんを作った。


 私達は、思わず息を呑んだ。

 指のばってんは、入学前から何度か見てきたのでよく知っている。……それが何を意味するかも。


「理解してくれたようで結構。さあさあ、昼食が済んだならもう帰りなさい」


 これ以上は本当に関わらせるつもりがないようで、私達は追い出されてしまった。こうなっては、教室に戻るしかないだろう。

 いつもはお喋り好きな私達も、今回ばかりはなんとも話が切り出しづらい。

 重苦しい沈黙を破ったのは、ベラだった。


「あれって、よ、妖精が関わってことだよね……? 私、怖くなっちゃった」


 ベラは青ざめた顔で、泣きそうになっている。

 そういえば、ベラは妖精対策の白い石の御守りも持っていないのだった。ベルからも頼まれているし、私がしっかりしなければ。

 私はベラの手を両手で覆うように握りしめて、安心させるように笑顔を向けた。


「大丈夫よ、ベラ。何かあったら、私が守ってあげるからね!」


 私の言葉に安心したのか、ベラはほわっと笑って「ありがとう、セシリィ」と返してくれた。

 その様子を見ていたエイミーも不安そうだったので、ベラと同じように手を握って安心させてあげた。


「もちろんエイミーも守ってあげるからね!」

「ありがとう! 嬉しいわ、セシリィ!」


 こういったやり取りは私達には慣れたものだが、マルティアだけは混ざれないせいか、僅かに寂しそうな笑顔で様子を伺っているように見えた。

 エイミーやベラはマルティアに苦手意識があるため距離を置いているが、私としては彼女も大切な友達なので、やる事は同じだ。


「マルティアもだよ! 私が守るからね!」


 私がマルティアの手も握ってそう伝えると、彼女はいつもより柔らかな笑顔で喜んでくれた。


 皆を安心させられて満足だが、ふと誰か忘れているような気がした。

 うーん、と考えていると、頭の中に声が聞こえた。


『姫様は、まずご自身を大事にしてくださいね?』


 ジージョの言葉に、私は自分が抜けていたのに気付き、ポンと手を打った。

 ただでさえ病弱なのだ、気をつけよう。……気をつけても寝込む事が今まで何度もあったのだけれど。


 ジークリフと帰宅前の戸締りをし、エルオットに報告に向かいながら妖精対策をあれこれ考えていたら、「危なっかしいからボンヤリしながら歩くな、妖精女」と注意されてしまった。返す言葉もない。

 対策は家で考える事にし、報告を終えて帰途に着いた。

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