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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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20.教室の変化

 ドロシーに熱がない事を確認して貰い、今日は学園に行く許可が出た。

 鼻歌混じりで身支度を整えて、ドロシーと学園へ向かう。

 あまり急ぐと注意されてしまうが、足取りは軽やかだ。


「セシリィは学園生活が楽しそうね」


 浮かれ気味な私を見て笑うドロシーに、私も笑顔で返した。


「うん、楽しい! 新しいお友達も出来たし、エルオット先生も優しくて良い先生だしね」

「それは良かったわ」

「まあフローレス先生は、聞いていた通り変な先生だったけれど」


 私がそう言うと、ドロシーは吹き出して笑った。つられて私も笑う。


「悪い人ではないのだけどね。セシリィにお薬も用意してくれたみたいだし、機会があれば貴女からもお礼を言っておくのよ」

「はぁい」


 お昼を食べる時に保健室を利用しようと企んでいるので、その時に部屋に居ればひと言お礼を言えば良いだろう。


 それから他愛のない話をしているうちに、学園の正門に到着した。

 一日空いただけだが、またこの門をくぐれる事が嬉しい。




 ドロシーと別れて教室に入ると、既にエイミーが座っていた。

 エイミーは私に気付くと席を立って駆け寄り、抱きついて来た。


「セシリィ、元気になったのね! 昨日お休みだったから、とても心配していたの」

「心配してくれてありがとう、もう大丈夫よ。昨日の朝にはすっかり元気だったんだけど、大事をとって休むように言われちゃったの」


 私がそう教えると、エイミーは安心したようにふわりと笑った。

 そのまま二人で席に着くと、私は荷物を下ろした。


「セシリィがいない昨日一日で、色々あったの。驚かないでね」

「あはは、エイミーったら大袈裟ね。たった一日でそんなに変わらないでしょ」


 話半分に聞いていると、エイミーはほっぺをぷくっと膨らませて可愛く怒った。


「んもう、本当なんだから。えっとね、級長を男女一人ずつ決める事になったんだけど、その、セシリィが選ばれたの。あ、級長っていうのは、生徒をまとめたり、色々と仕事を頼まれたりするみたい」


 私はいきなりよく分からない役職に任命されて、唖然としてしまった。


「……休みの間に決めるのは、あんまりじゃない?」

「あはは、でもセシリィが居ても同じだったと思うよ。マルティアが真っ先にやる気無いって言って、セシリィとベラと私の中から決めなきゃいけなかったし」


 マルティアのマイペースは、ここでも発揮されたようだ。困ったお嬢様だ。

 しかし、だからといって私が選ばれる理由が分からない。


「それなら問題児扱いの私より、優等生のエイミーが選ばれそうだけどなぁ。なんで私なんだろ?」


 私が首を傾げると、エイミーは手を前に出してぶんぶんと振った。


「わ、私には無理だよ。ベラやリックもセシリィなら任せられるだろうって薦めたのよ」

「そっか、皆が推してくれたのね。じゃあ頑張ろっかな」


 居ないからって勝手に決められたのかと思っていたが、友人達が期待して私を選んでくれたようだ。それなら期待に応えてあげよう。

 私が腕を組んでうんうんと頷いていると、エイミーは少し言い辛そうに躊躇い気味に口を開いた。


「それでね、えっと……男の子はジークリフに決まったわ」

「でしょうね」


 私としては特に驚きは無かったが、エイミーはびっくりした顔でこちらを見た。


「セシリィはジークリフが選ばれたって分かってたの?」

「だってあの子、最初から教室のリーダー面だったもん。当然そうなるでしょう」

「……嫌じゃないの?」

「何で? せっかく対等な地位を得たんだから、いい機会だし失礼な呼び方を改めさせてあげるわ」


 そう宣言して茶目っ気混じりにウインクすると、エイミーはお腹を抱えて笑い出した。


「あはは、セシリィはやっぱり凄いね!」

「私がエイミー達を守ってあげるから、嫌な事あったら相談してね」

「ありがとう、セシリィ大好き」


 エイミーは、嬉しい時に見せる紅潮した顔で微笑んだ。喜んで貰えたなら、級長になった甲斐があっただろう。


「で、それ以外は何があった?」

「あとはそうね、ギードがジークリフの取巻きから追い出されていたわね」


 ギードとは、ジークリフの取巻きの一人だ。教室で私の胸ぐらを掴んできた乱暴者である。


「それはお気の毒に。何があったの?」

「何がって、セシリィに大怪我させたでしょう!? あれで皆怒って、ジークリフも突き放したのよ。もちろん私も絶対に許さないわ」

「あぁ、あの時私を投げ飛ばしたのってギードだったのね」


 怪我をしたり熱を出したりで考える間も無かった為、すっかり忘れていた。まさかそんな事になっているとは。

 既に完治したとはいえ、今後も乱暴が続くのも困るので、被害者の私からひと言注意した方が良いだろう。




 他の子達が教室に来る時間になり、何人かが私のところに声を掛けに来た。

 リックは私の怪我が残っていない事に安堵し、ベラは私の手を取って復帰を喜んでくれた。

 マルティアはそっと私の頬に触れ、微笑んだだけだった。相変わらず掴みどころが無いお嬢様だ。

 ジークリフはちらっと私を見て渋い顔をしたが、特に何を言ってくる事もなかった。


 ギードは一限目が始まるギリギリに来た。怪我でもしたのか顔が腫れており、手当ての跡がある。何があったのだろうか。

 彼はジークリフを避けて、周りに誰もいない席に一人で腰掛けた。


 一限目が始まりエルオットが教室に入って来ると、私を見てニッと笑った。先生も心配してくれていたのだろう。


 そのまま一限目の授業は問題無く終わり、休み時間になるとギードが俯いたままこちらへ向かって来た。

 この狭い教室では当然注目が集中し、変な緊張感が漂う。

 ギードは私の前で足を止めると、勢いよく頭を下げた。その表情を見て、私は驚いた。

 彼は大粒の涙を流して泣いていた。


「……っく……けが……させて……ごべんなざい……」


 文句を言おうと思っていたが、まさかいきなり泣かれるとは思わなかったので言葉が詰まった。周りの友人達から、苛立ちや呆れの空気が漂っている。

 私は溜息を吐いて、ギードの謝罪に応えた。


「ハァ……。まったく、なんで貴方が泣くの。とりあえず私はもう治ったから、二度と乱暴しなければ許してあげるよ」

「……っく……やぐぞぐ……ずる……。……ごべんなざい……」


 ギードはもう一度謝ると、自席に戻っていった。

 隣のエイミーはやや不服そうな顔をしているが、私が謝罪を受け入れた事で、とりあえず教室内の緊張感は和らいだようだ。


「セシリィ、あんなあっさり許してしまって良かったの?」


 私の隣から、エイミーが声を潜ませて尋ねてきた。


「もういいよ。それより、近くで見るとギードの怪我がかなり酷いみたいだけど、昨日喧嘩でもしたの?」

「昨日は何ともなかったよ。だからあの怪我は私も知らないわ」

「なるほど、昨日は怪我してなかったんだね。教えてくれてありがとう」


 私は遠目からギードの頬の怪我を見ると、小さく溜息をついた。


 その後の授業は恙なく進み、お昼の時間になった。

 私達はお弁当を持って、教室を出て行き目的の場所へ向かう。


「セシリィ、何処へ向かっているの? 庭園ではないようだけど」

「ふふん、保健室だよ」


 戸惑いを浮かべるエイミー達に、私は自信満々に答えてみせた。




「まったく。ここは食堂ではないぞ」


 保健室でお弁当を食べていると、片手間に調合をしていたフローレスか小言を漏らした。だが、出て行けとは言われなかったので、今後も使えそうだ。

 昼食を終えると、私はまずフローレスにお礼を述べた。


「フローレス先生、先日はお薬ありがとうございました。味はともかく効果は高かったようで、すぐに熱が治りました」

「気にするな、こちらも良い研究データが取れた」

「感謝の言葉を返して下さい。私は実験動物じゃないですよ」


 私がガックリと肩を落とすと、エイミー達がクスクスと笑った。

 それから大事な用があったのを思い出し、再度顔を上げた。


「先生、明日の朝は保健室にいて欲しいです」

「何故だ? 朝にしか採れない素材があるから外に出たいのだが」


 生徒の相談に心底面倒だという態度を隠す気もないフローレスは、実に教師の鑑である。


「怪我してる子を連れて来るので、ここにいて下さい」


 私がはっきりと伝えると、エイミー達は驚いた顔をしていたが、フローレスは真面目な顔でこちらを見ていた。


「怪我人なら、フィリアも呼んでおく」

「よろしくお願いします」


 それ以上の会話は無く、私達は教室に戻った。


 教室にはジークリフとリックが残っており、二人で何か話していた。

 私に気付くと、ジークリフはこちらに近づいて来た。


「妖精女。さっさと戸締まりして帰るぞ」


 エルオットに任された級長の仕事は、教室の生徒全員の帰宅を確認し、戸締まりして先生に報告する事だ。ジークリフもきちんと仕事をする為に待っていたようだ。

 妖精女というのは私の事だろうか。後で確認してみよう。


「お待たせ。じゃあ、私とジークリフで報告行くから、皆は先に正門前で待ってて」


 私とジークリフは、全員が出て行ったのを確認し、戸締まりをして職員室へ向かった。

 あまり交流もない二人なので、これといって話題も無い為、ジークリフは静かだ。もっと喧しい印象だったが、案外寡黙なのだろうか。


「ジークリフ、さっきの妖精女って何?」

「劣化女が嫌だからそう呼べと言ったのはお前だろう」


 そういえば、怒った時に勢いで言った気がする。正確には妖精ちゃん女と言った気がするが、まあ改善してくれたので良しとしよう。


「ジークリフ、貴方意外にちゃんと話聞いてくれるのね」

「あ、当たり前だろ! 私は学級の長だからな。皆の話を聞いて応えてやる義務がある」


 なるほど、やたらリーダー風を吹かすと思ったら、そういう考えがあるらしい。区長の子としてそういう教育を受けているのかもしれない。

 それならば、一つ頼み事をしてみよう。


「ジークリフは思ったより立派だね。なら私からのお願いだけど、ギードを仲間外れにしないであげて」

「何故だ? 奴はお前に怪我をさせただろう。そんな者と関わるつもりは無いぞ」


 私を引き合いに出しているが、これはジークリフとギードの間の話だ。私が口出しすべきでないのは分かっている。

 だが、現状のままにするつもりは毛頭ない。


「器の小さい男は嫌われるよ?」

「なっ……!」

「今回は私も許したんだし、貴方が怒る理由は無いんじゃない?」


 軽く煽ったせいか思い切り睨まれているが、無視しておく。

 しばらく沈黙が続いた。

 ジークリフの様子を伺うと、難しい顔をして何やら考えている。


「……お前に免じて、今回だけは許してやる」


 どうやら結論が出たようだ。ダメならダメで仕方ないと考えていたが、これで丸く収まりそうだ。ほっと安堵して、笑みが溢れた。


「それは、ギードに言ってあげてね。真剣に考えてくれてありがとう、見直したわ」


 褒められたのが嬉しかったのか、ジークリフは照れ臭そうにそっぽを向いた。


 それ以上の会話は無く、私達はエルオットに報告して帰途についた。

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