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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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16.侍女のお仕事、妖精のお仕事

 家に着いて皆と別れた後、私は貸し出して貰った妖精学の教科書を開いた。折角なので、色々と試してみたい。

 私達の学年で使う妖精はあまり多くはないが、幾つか面白そうなのがあった。


 一つ目が、演奏の妖精。呼び出すと半透明な板状の鍵盤が現れ、叩くと音が出る。音楽の授業で使うのだろう。

 私は、誰でも知っている簡単な童謡を弾いて満足した。


 二つ目が、光の妖精。ランプの火より遥かに明るく、これから照明が必要な時は、妖精を利用した方が良さそうだ。


 三つ目が、清めの妖精。小さな雲が現れて、それに触れると手を洗ったり、ちょっとした汚れを取り除いたり出来るらしい。家にも服などを洗浄する箱があるが、あれはこの妖精を使っているのかもしれない。


 他にも、紙を切る妖精、木を削る妖精、草を刈る妖精など使ってみたが、あまり面白みはなかった。汎用性が低い妖精が多いのは、授業で使う事を優先して学ぶ為だろう。


(ファルズ アリル)


 私は、呼び出した妖精をまとめて帰らせる命令を出して終了した。

 とりあえず、私の学年で習う範囲だけでも、妖精の便利さはよく分かった。まるで魔法使いになった気分だ。これは、私の侍女にも自慢しておきたい。


(ジージョ、見てた? 妖精って凄いね、魔法みたい!)

『姫様、全て私にお申し付け頂ければ済む事ですよ。私を頼って下さいませ』


 何かちょっと拗ねているようだが、どういう事だろう。


(それは、ジージョに頼めばどの妖精も使えるって事?)

『姫様が妖精と呼んでいる、あの決められた命令しかこなせない木偶の坊など使う必要ありません。イデアの制限が解除されていますので、私一人で全てこなせます』


 どうやら、先程まで感動していた妖精の力は、ジージョに頼めば全部出来るらしい。何それ優秀過ぎる。


(それじゃあ、時間を教えて貰える?)

『頂後ニ、間八十です』

(光を出せる?)

『どうぞ』


 凄い。呪文みたいな命令語なんて無くても通じるし、ちゃんと効果が現れる。

 後は文字消しも試してみようと、私は紙に文字をサラサラと書いた。


(ここと、ここと、この範囲の文字を消して)

『消しました。あ、光も邪魔なようなので消しますね』


 ちょっと眩しいなと思っていた光まで、指示を出さずとも消してくれた。なんという以心伝心だろう。


(あなたって凄かったのね。ただのお菓子大好きな可愛い子としか思ってなかった)

『私が姫様に仕えるのは、こうしてイデアを利用して頂く為です。どんどんご命令下さい』


 この場合のイデアは、妖精の力を指すのだろうか。未だによく分からない。


(ちなみに私が今使えるのは、この教科書に載っているので全部?)

『姫様自身のイデアは、全てお使いになれます。他に繋がりが出来たイデアの中にも、姫様が得た知識に含まれていないものがあります。リストをお出ししますね』


 ジージョがそう言うと、頭の中に出来る事リストが流れ込んできた。リストには、知らない効果が沢山あった。便利そうなのも幾つかある。


(ペンを出せるんだね。ちょっと出してみて)

『はい、どうぞ』


 お願いした通り、私の手にはペンが現れた。試し書きしてみると、なんとインクが無くても書き続けられる非常に便利なペンだ。何故、これを授業で教えてくれないのだろうか。

 欲を言えば私はペンより色鉛筆が欲しいのだけど、流石にそんな物はリストに無いので仕方ない。


 ……あーあ、色鉛筆欲しいなぁ。


 風邪でアドラの診療所に訪れたあの日から、子供達の為に絵本を贈りたいとずっと考えていた。一刻も早く道具を揃えたいものである。

 そんな事を考えていると、突然目の前にコトッと何かが現れた。

 私はそれを見て、一瞬思考が停止してしまった。


 そこに現れたのは、私が絵本の執筆に長年愛用した色鉛筆だった。

 色鉛筆っぽい何かではなく、本物だ。

 ブリキのケースも、色鉛筆の手触りや匂いも、慣れ親しんだそれだ。


(どうなってるの? ジージョ、これ貴女が出したの?)


『はい、姫様のイデアの中にありましたので。他にも必要な物があれば、お任せ下さい』


 意味が分からない。

 私の中、つまり記憶にある物は取り出せるという意味にしか聞こえない。

 そんな夢のような力、本当にありえるのだろうか。

 とりあえず、ジージョの力をもっと確かめてみる必要がありそうだ。


 色鉛筆があるので、次はホワイトブックが欲しい。

 そこまで考えて止めた。私の記憶の中から取り出せるなら、絵本をそのまま出して貰った方が早いという事に気付いたからだ。

 ならば、最初にお願いする絵本は決まっている。


(ジージョ、『おひめさまと ほうせきのようせい』の絵本を出せる?)

『お任せ下さい』


 目の前に、ストンと見慣れた絵本が現れた。久しぶりに触るツルツルの表紙が懐かしい。

 手が自然にページを捲り、読み進めていく。

 気が付けば最後まで没頭して読んでしまった。


 最近はジージョに読み聞かせて貰うだけだったが、絵本を読むのはやはり楽しい。

 これを診療所に置いてしまって、私が読めなくなるのはちょっと惜しいかもしれない。


(もう一冊あればなぁ)

『お任せ下さい』


 私はそこまで本気ではなかったのだが、ジージョには要求として伝わってしまったようだ。

 目の前に全く同じ二冊目の絵本が現れてしまった。


 背中に冷や汗が伝う。これは不味い。

 この世界に著作権があるかは分からないけれど、これでは完全に違法コピーだ。

 一冊だけならこの世界では原本みたいなものだけど、コピーが幾らでも作れるのは非常に不味い。

 作家の端くれとして、これは絶対にやっちゃ駄目だ。


(ジ、ジージョ! 二冊はいらないから消して!)

『かしこまりました』


 私が慌ててお願いすると、ジージョはこともなげに絵本を消し去った。良かった。


 気を取り直して、もう一度絵本を捲る。

 このままだと日本語の絵本なので、診療所に置いても誰も読めないだろう。

 文字だけこの世界の言葉に書き換えられないだろうか。


(ジージョ、絵本の文字をこちらの言葉に書き換えられない?)

『姫様のイデアから写し出した物ですので、文字の消去は可能です。けれど、書き換える事は出来ませんね』


 なるほど、無理なようだ。

 まあ文字を消せるなら、書き換えは私が手書きで頑張ろう。

 でも、何冊も書き換えするとなると大変そうだなぁ。

 私の代わり誰か書いてくれないだろうか。

 例えば、ジージョに仕事を取られちゃった妖精に、代わりのお仕事して貰うのはどうだろう。

 こう、文字消しの妖精ちゃんが字を消して、ペンの妖精ちゃんが現れてスラスラっと書いてくれるといいんだけどなぁ。


 そんな事を考えていたら、机の上にイメージ通りの妖精ちゃん二人がポンッと現れた。


『姫様、出来ました』

(……嘘でしょ? 何でもありじゃないの)


 親指大くらいの小人のような妖精達は、早速協力しあいながら、絵本の文字を消しては書き換えてを実行し始めた。全自動だ、凄い。

 まさか本当に出来るとは思わなかったが、これは可愛いし便利過ぎる。


(ジージョは凄すぎるわ。あなたの仕えるお姫様が私で本当に良いのかしら)

『姫様が新しいイデアを創造出来るのが凄いのです。私はイデアを写し出す事以外、何もしていませんよ』


 それが凄いのだが、考え方が根本的に違うのかもしれない。

 イメージするだけなんて、私じゃなくても誰だって出来る事なのだけれど。


(せめて、お菓子だけでもいっぱいあげるね。寄贈用の絵本の目処が立ったのはジージョのおかげよ)

『光栄です!』


 とりあえず、アップルパイやパフェなど、知っているお菓子を五種類どんと盛り込んで贈ってあげた。

 直後、ジージョの喜びの悲鳴が聞こえた。


 それからしばらくして、妖精達による絵本の書き換えが終わった。私が手書きするより字も整っている。

 こんなにお手軽なら、他の絵本の書き換えもお願いしようと思い、ジージョに別の本を出して貰って妖精達に渡した。


 その後、他の妖精達も同じように小人仲間に加えてみた。

 折角なので、この子達も協力させて何か出来ないか考えてみる。

 時計の妖精と鍵盤の妖精に協力して貰って、目覚まし時計みたいに決まった時間に音を鳴らして貰うのはどうだろう。

 とりあえず間五つ分経ったら、時計ちゃんが鍵盤ちゃんに声を掛けて音を出させるイメージを思い描いてみた。


 しばらく眺めて待っていると、時計ちゃんがトテトテ歩き出して鍵盤ちゃんの肩を叩き、鍵盤ちゃんが音を鳴らした。

 上手いこと可愛い目覚まし時計が完成したようだ。これで、朝早く起床しなければならないこれからの生活も安心である。




 夕食時、ドロシーに授業で妖精の使い方を教わった事を話すと、「くれぐれも気をつけて関わって行きなさい」と真剣な表情で注意されてしまった。

 妖精の事を学び、あまり危険な存在に感じなくなっていたので危機感を感じなくなっていたが、まだまだ御守りは必要らしい。


 妖精には、まだ何か秘密があるのだろうか。

 少しだけ不安になって、髪飾りをそっと撫でた。

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