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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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15.上流家庭のお嬢様

 授業が終わると、いよいよお楽しみの昼食だ。

 食事は自分達の教室で摂る必要は無い。他の教室や外で食べても良いそうなので、私は女の子組で庭園に行ってみる事にした。

 リックも誘ってみたが、彼は友人達と教室で食べるそうだ。

 区長の子と取巻きは、さっさと出て行ってしまった。


 残るは、もう一人の女の子のマルティナだ。彼女は、綺麗に編み上げた銀に近い金髪で、深紅の瞳を持つやや背丈の高い子である。

 立ち振舞いも優美で、少し見ただけで上流家庭の子だと分かる。エイミーも振舞いは優雅な方だが、マルティアは完全に別格だ。


「彼女も誘ってみたいのだけど、二人は良い?」


 折角の学園生活なのに一人ぼっちではあんまりなので、私は食事に誘う事にした。念のためエイミーとベラに確認すると、二人とも頷いてくれた。

 さて何と声を掛けようかなと考えながら、マルティアの側へ近づく。


「マルティア。私達お弁当を持って庭園に行くのだけれど、一緒に行かない?」

「あら、わたくしもお誘い頂けるのですね」


 マルティアは少し驚いた後、手を頬に当てて悩むような表情を浮かべた。


「けれど困りましたわ。わたくし、お母様から家格に相応しいお付き合いをするよう言われていますの」


 とても優しく丁寧な言い方だが、これは拒否の意味なのだろうか。曖昧な返事でよく分からなかったので、私はもう一押ししてみた。


「私は貴女とお友達になりたいの。なんだったら、私のお弁当のおかずもご馳走様するから、一緒に行きましょう? うちのお母さんは料理の天才だから、きっと気に入るはずだよ」


 私の提案にマルティアは目を丸くして驚いていたが、すぐに嬉しそうな笑顔に変わっていった。


「それは素敵ですね。では、わたくしもご一緒させて下さいませ」


 流石お母さんの料理である。マルティアが、あまり家格に拘らない優しい子で良かった。


「私の友人達も一緒だけど、二人とも良い子だから安心してね」


 私がエイミー達を見やると、二人は少し戸惑いながらも頷いた。それに応えるように、マルティアは微笑み返す。これならすぐに仲良くなれそうだ。




 暖かい日差しのおかげで、屋外で食事するには最高の条件だった。だが、考える事は皆同じようで、庭園のベンチは埋まってしまっている。


「思ったより人気の場所だったね。ここを利用するのは無理かも」


 ベラの言う通り、別の場所を探した方が良さそうだ。

 どうしたものかと困っていると、誰かに声を掛けられた。


「セシリィ、ここを使うといいわ」


 声のした方を向くと、見覚えのある水色の髪の女の子がいた。初日に教室まで案内してくれた子だ。

 彼女の他に上級生が三人いるが、おそらく友人だろう。

 上級生を相手に話す為、私達は教わったばかりの敬礼をした。


「ありがとうございます、先輩方」

「私はフィリアよ。これからよろしくね、セシリィ」

「よろしくお願いします、フィリア先輩」


 私が挨拶を返すと、フィリアは微笑んで頷き、友人と共に立ち去って行った。


「フィリア、先輩なんて呼ばれるのは久しぶりじゃない?」

「聖女なんて呼ぶの、辞めて欲しいんだけどね」


 去り際に少しだけ会話が聞こえて来たが、フィリアはどうやら聖女と呼ばれているらしい。なにそれ、格好いい。


「場所を譲って貰えたし、ここで昼食にしましょう」


 私達はベンチに腰掛けると、それぞれお弁当を開けた。どのお弁当も美味しそうだ。

 私はマルティアと約束したので、とりあえず先におかずをあげる事にした。


「はいマルティア、好きなのを食べてね。ちなみに、お勧めは卵焼きよ」


 ドロシーの作ってくれた卵焼きは、葉野菜とチーズの入った豪華版だ。食卓に並ぶ事もあり、とても美味しい。

 私のお勧めを受け入れ、マルティアは卵焼きをフォークで取って口に運んだ。口に入れた瞬間、彼女はパァっと笑顔になる。口に合ったようだ。


「セシリィ、私も貰っていい? 代わりに私のお弁当を分けるから」


 エイミーはおかずを交換してくれるようだ。こういうのを一度やってみたかったので楽しい。


「もちろんいいよ。ベラも何か交換しましょう」

「いいの? 嬉しい、ありがとう」


 私は、エイミーから腸詰を一つ、ベラから野菜ソテーを一口頂いて、代わりに自分のおかずを一品あげた。


「セシリィ、わたくし、頂いただけでお返しをしておりませんでしたわ。わたくしも差し上げますね」


 私達の様子を横で見ていたマルティナも、おかず交換をしたくなったようだ。


「やった。マルティアのお弁当、とても気になっていたの」


 彼女のお弁当は、パッと見では私達と変わらないが、野菜の飾り切りや、薔薇のように盛られた肉など手間がかかっている。

 私はロースト肉のスライスを一枚頂いた。良い食材を使っているのだろう、かなり美味しかった。


 食事を終えると、私達はお喋りを楽しんだ。話題は専らマルティアについてである。

 彼女の家は王都との取引もある豪商で、マルティアは将来の政略結婚の為に、母親から厳しい教育を受けているらしい。良家のお嬢様は、なかなか大変なようだ。


「そろそろ戻りましょうか」


 話に夢中になりすぎて、いつの間にか庭園から生徒がほとんど居なくなっていた。私達は鞄を取りに一度教室へ戻る。

 教室には、リック以外誰も残っていなかった。


「お前ら遅いぞ」

「あら、わざわざ待っていてくれたの?」

「ドロシーおば……先生に、セシリィと帰るように頼まれてるんだよ」


 ドロシーから皆と帰るようは言われていたが、またも根回しされていたようだ。


「そうだったの。待たせてごめんね、帰りましょう」


 私達がやり取りをしているうちに、さっと帰り支度を済ませていたマルティアは、もう教室を出て行くところだった。彼女は去り際に私へ振り返ると、目を細めて微笑んだ。


「セシリィ、今日はお誘い頂けて嬉しかったですわ」

「私もお友達になれて嬉しい。また明日ね、マルティア」


 彼女に手を振って見送ると、私達も揃って学園を後にした。




「セシリィ、お前凄いな。あのお嬢様と友達になったのか」


 帰り道でリックが唐突に私を褒めてきたが、何の事だろうと私は首を傾げた。


「友達作りなら、リックはあっという間に二人も出来てたでしょ? 貴方の方が凄いわよ」

「家格が違うだろ。俺はジークリフと友達付き合いなんて、絶対無理だ」


 ジークリフとは、区長の子の名前だ。マルティアと同じく上流家庭の子で、確かに私達とは家格が違う。


「マルティアは、お母様は厳しいみたいだけど、本人は家格なんてあまり気にしない良い子だよ」


 私が反論すると、今度はエイミーとベラが溜息を吐いた。何かあったのだろうか。


「マルティア、セシリィとしかお話する気が無さそうだったわよ。私達が話しかけても、笑顔を返してくるだけだったもの」


 ベラが落ち込み気味に教えてくれた事に、私は驚いた。皆で楽しくお喋りしていたつもりだったが、どうやら違っていたらしい。


「ベルが言ってた家格の差ってのがよく分かった。ベラ、お前もあんまり気にするな」


 リックがベラを気遣うように慰めると、ベラはニコリと笑った。


「ありがとう、リック。マルティアはセシリィにお任せするわ。お嬢様に失礼な事をしてしまっても大変だもの」

「ごめんね、セシリィ。私もそうさせて貰うね」


 ベラとエイミーは、マルティアと仲良くするのを早々に投げてしまった。

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