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妖精のイデア 〜病弱少女のお姫様計画〜  作者: 木津内卯月
1章 願いを叶える妖精
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14.初授業と妖精の使い方

 前日とは違い、ドロシーに起こされる前に起床出来た。窓の外は明るいが、まだ日は昇りきっていないようだ。

 私はベッドから抜け出し、今日から始まる授業の準備を始めた。


 授業とはいっても、持ち物は非常に少ない。

 教科書は学園側から貸し出される為、生徒達が準備する必要は無いらしい。

 筆記用具も学園からペンとインクが貸し出される。これは、使い慣れた物がある場合、各自で持参しても良いそうだ。

 紙も授業時に一枚ずつ支給される。ただし、授業の範囲に問題無ければ、先の課程まで自習しても良い事になっているらしい。その場合は、各自で紙を持参する必要がある。

 私は鞄の中に、使い慣れたペンと替えのペン先、紙を十枚だけ入れておいた。インクは管理を誤ると鞄が汚れてしまいそうなので、学園で貸りる事にした。


 準備を終えたところでドロシーが部屋にやって来た。


「あら、今日は早起きね、偉いわ。朝食の準備は出来ているわよ」

「おはよう、すぐに行くね」


 私も今日は早起きしたつもりだったが、ドロシーは既に食事の準備まで終わっているようだ。私もこれくらい完璧な大人を目指したいものである。




 手早く朝食を食べ終えて自室に戻ると、制服に着替えて髪留めと指輪を装着した。ついでに今日は、髪をリボンで結んでみた。鏡を見ながらバランスを整えたら完成だ。

 私は鞄を背負って部屋を出ると、ドロシーに声を掛けに行く。


「セシリィ、お弁当を用意してあるから忘れないでね」

「ありがとう!」


 学園の授業は昼前には終わり、それ以降の時間は帰宅して問題無い。もちろんそれは学園側の表向きの規則であり、そのまま帰る生徒はいない。

 基本的には昼食を共にしたり、学業や趣味などを通して級友と交流する時間に使われるようだ。

 私は授業よりそちらが楽しみである。お友達と過ごす学園生活は、きっと素晴らしいものになるだろう。

 私はお弁当を鞄に入れると、ドロシーと一緒に家を出て学園へ向かった。




 学園へ到着すると、私はドロシーと別れて教室へ向かった。

 教室にはまだ誰も居なかった。私達はかなり早めに家を出るため、これからも私が一番乗りだろう。

 誰かが来るまで手持ち無沙汰なので、少し教室の中を探索してみたが面白い物は無かった。

 教室の窓の外には運動場があり、数名の生徒が走っている。部活動のようなものがあるのだろうか。お絵描きが出来るような活動があるなら入ってみたい。


 暇なのでジージョに悪戯でもしようかと考えていたら、見慣れた顔が入って来た。


「セシリィ、もう来ていたの!?」

「おはよう。エイミーも随分早いね」


 私が笑顔で迎えると、エイミーも微笑んで隣に座った。


「少しでも多くセシリィ達とお話したくて、今日は早めに家を出たの。まさか、もう来ているなんて思わなかったけれど」

「私はお母……ドロシー先生と一緒に来るから早いのよ」


 学園内では教師と生徒として接する必要がある。

 うっかり親子のままの感覚で話してしまいそうになるので、早く慣れる必要がありそうだ。


 私が朝早くに来る事を伝えると、エイミーは顎に左手を添えて何やら考え込んでしまった。よく見ると、その手の中指には見覚えのある白い石が付いた指輪を装着している。


「あれ、エイミー。その指輪の石、私の髪飾りと同じね。それも御守り?」


 私が気付いたのが嬉しかったのか、エイミーはパァっと笑って頷いた。


「うん、両親が入学祝いってプレゼントしてくれたの。お揃いね!」

「この白い石、入学祝いの定番みたいだね。今まで妖精は危ないみたいに言われてきたけれど、本当に危険なのかなぁ」

「ちょっと怖いね。妖精学の授業で、注意があるかもしれないわ」


 エイミーは不安そうに、少し俯いてしまった。これは親友として、私が安心させてあげなければ。


「大丈夫よ。妖精が襲って来たら私が守ってあげるわ」

「まあ! ありがとう、セシリィ!」


 エイミーはパッと顔を上げて喜んでくれた。元気になったようで何よりである。


 それからしばらくお喋りしていると、ベラやリックも教室に入ってきた。

 挨拶を交わす時にそっと探してみると、リックも白い石の指輪を付けていた。しかし、ベラは白い石は持っていないようだ。

 私の両親が二人で用意したと言っていたし、下流家庭では手を出すのが難しいくらい高価な物なのかもしれない。

 妖精が危険なら、無防備なのは心配だ。


「ベラも私が守ってあげるから、安心してね」

「え? ありがとう?」


 ベラはポカンとして、首を傾げた。少し唐突過ぎたようだ。




 生徒達が揃い、しばらくするとエルオットも教室に入って来た。いよいよ授業が始まるのだと期待したが、違ったようだ。

 まずは最も基本的な礼儀作法を学び、簡単な自己紹介をして、その後に学園内の施設案内を行うらしい。


「今から見せる敬礼は、目上の相手に向けて行うべき基本作法だ。授業の開始や廊下で先生とすれ違う時、上級生と話す時にも必要になるので、必ず覚えるように」


 そう説明すると、エルオットは敬礼の一連の流れを何度か見せてくれた。


「分かったかな? では皆もやってみよう!」


 私はエルオットの動きを思い出しながら、敬礼をしてみた。


 まず左手を指をまっすぐに伸ばして開き、指先を額に当てる。

 次に、そのまま左手を握り締め、まっすぐ相手に向けて差し出し、再度開く。

 最後に、左手を胸に当てながら浅くお辞儀をする。


 これは、自分の考えを包み隠さず差し出す、つまり「隠し事をしない事を誓う」という意味があるらしい。

 ちなみに、「子供にはまだ関係ないが、男女が別の場面で使うようにもなる」らしい。


「うむ、皆良く出来ている! この敬礼を忘れないように」


 エルオットの合格が出たので、続けて簡潔に私達は自己紹介を済ませた。




 その後、学園内の施設を回る為に教室を出て学舎内をぞろぞろと移動した。


 この学園は大きく北棟と南棟に分かれている。

 北棟には、実験室、調理室、音楽室などの実技教室や保健室がある。

 南棟にあるのは、教室や職員室などだ。

 南北を繋ぐ渡り廊下の途中に、広間への入り口がある。全体集会などに使われる場所だ。

 あとはトイレや水場などに案内され、学舎内の案内は終わった。


 続いて、学舎外の案内をして貰う。

 正面口から外に出ると、学園の正門が見えた。正門までの道の周囲はちょっとした庭園があり、晴れの日の昼食時には人気の場所だそうだ。

 南棟の先へ移動すると、教室からも見える広い運動場がある。エルオットは、遊具もとい運動器具の使い方を、やたら詳しく語っていた。

 北棟の方には、小さな農園があった。季節によっては野菜などを育てるらしいが、今はほとんどを保健室のフローレス先生が使っているらしい。


「フローレス先生が育てている植物には、猛毒を持った毒草もあるらしいので、なるべく近付かないように!」


 エルオットの警告に、生徒達はギョッとした顔になった。フローレス先生は、何てものを育てているんだ。

 事前に問題教師らしいという情報は聞いていたが、大袈裟でも何でもないのがよく分かった。


 一通りの施設を回り終わったので、私達は教室に戻って来た。


「案内は以上だ。次は妖精学の授業なので、教室で待機しているように」


 そう言ってエルオットが教室を出て行くと、教室内は気になった場所について話す声でガヤガヤと騒がしくなった。

 エイミーとベラは何故か、保健室の場所について忘れないように真剣に話していた。




 しばらくすると、教室にエルオットが戻って来た。その手には、妖精学の教科書を人数分抱えている。


「教科書を回していってくれ。授業用の紙は中に挟まっているので、それを使うように。筆記用具は教室の後ろの棚に置かれているので、必要な者は持って来なさい」


 私は教科書を受け取ると、筆記用具置き場からインクを取って席に戻った。

 生徒達が全員席に戻ると、エルオットによる妖精学の授業が始まった。


 まず初めに、妖精の説明が行われた。

 妖精とは、特定の決まった役割を持っている存在で、学園でその使い方を学んで行くらしい。

 使い方は簡単で、頭の中で決まった命令語を発すると、結果が得られる仕組みのようだ。

 低学年では危険性の無い妖精の扱いを学び、十歳になる学年、つまり四年生に上がる時に、やや危険性のある妖精の使用制限が解除されるようだ。


「今日は生活に欠かせない妖精と、勉強に必須の妖精を学ぶぞ」


 最初に教わるのは、時間を確認する妖精の命令語だ。


「頭の中で『コーマ クルッカ』と命令してみなさい。うまくいかない場合、最初は声に出してもいい」


 なんだか魔法の呪文みたいでかっこいい。私は早速試してみた。


(コーマ クルッカ)

『頂前七、間四十』


 時間の意味はよく分からないが、ちゃんと返って来た。この感覚は、ジージョと話す時に似ている気がする。

 本人に聞いてみようと思ったら、教室がザワザワし始めた。


「何だこれ!?」

「変な声がした!」


 私の横で、エイミーやベラも目を丸くして驚いていた。

 そうか、この感覚は皆初めてだし驚くのも無理はない。私も初めての時は驚いた。


「妖精を使う感覚は覚えたな。では時間の見方を教えよう」


 妖精が教えてくれる時間は、太陽が一番高くなる時間を『頂』と呼び、午前を『頂前』、午後を『頂後』と言うらしい。頂前、頂後にそれぞれ十まで刻まれる。

 頂の間の細かい時間は百まで刻まれ、『間』と言うらしい。

 莉絵の世界の時間表記で考えると、一日が二十時間、一時間が百分くらいの感覚だろうか。


「大人達は、こうやって時間を確かめていたのね」


 いつも食事や待ち合わせの時間をどうやって知っているのか不思議だったが、ようやくスッキリした。

 同時に、妖精が身近な理由もよく分かった。


 次は、授業には必須という文字を消す妖精らしい。

 随分と細かい能力だが、普通に便利そうだ。


「命令語は『コーマ エイザ』だ。命令後に指でなぞった文字を消す事が出来る。消し終わったら『ファルズ エイザ』と命令して妖精を帰らせないと、いつまでも消し続けるので気を付けるように」


 どうやら『コーマ』が呼び出し、『ファルズ』が帰って貰う命令のようだ。後ろの命令語が妖精の名前だろうか。

 とりあえずこちらも試してみる。


(コーマ エイザ)


 こちらは特に声は返って来なかったが、紙に書いた文字をなぞったら本当に消えた。消しゴムのように擦った部分が消えるのではなく、綺麗に一文ずつ消える。

 小さく猫の絵を描いて消去を試してみたが、残念ながら消せず、落書きが残ってしまった。あくまで文字限定らしい。


 私は平仮名の『あ』を書いて消してみた。今度は消えた。

 私が文字だと認識していれば消えるようだ。


(ファルズ エイザ)


 一通り遊んだので、妖精に帰って貰った。試しに指で擦ってみたが、ちゃんと消えなくなっていた。


 隣を見ると、エイミーとベラも書いては消してを繰り返している。

 私は暇になったので、悪戯してエイミーの紙の端に小さく『消して』と文字を書いた。

 エイミーはフフっと笑うとそれを消そうと試みたが、消えなかった。自分の書いた文字しか消せないらしい。

 まあ、無制限に消せたら悪用し放題なので、当たり前の制約なのだろう。


 皆がわいわいと妖精を試していると、授業時間が終わった。

 授業の合間に休み時間を挟み、語学、数学の授業が続いたがこれは特に問題無く終わった。


 学園で学ぶのは、通信教育で学ぶよりずっと楽しかった。

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