リンカーン
ずずず...
並々と注がれたコーヒーを飲み、オススメのトレンドを漁る。
「政権放送, 表現の自由..緊急署名...」
政治に社会問題。知りたいわけでもないのに優秀なサジェスト機能が朝からせっせと情報を運んでくる。
「はぁっ」とため息をつき、コーヒーを飲み干すと足の踏み場を選びながら家を出た。
「...eじゃあ後はここを修正したらOKかな。試験の日程確認できたら、実験開始できる週がいつぐらいになるかメールしてね。」
「はい!ありがとうございました,失礼します.」
扉を閉め、そそくさと後にする。
「最初は好きだったはずなんだけどなぁ」
そう呟いて階段を降りる。
棟を出て、売店でパンとペットボトルのコーヒーラテを買った。
適当なベンチを見つけたので、その場で勢いよくパンをラテで流し込んだ。
「あ, ,豊かな自然を活かした,さ,産業や伝統を残し,つたえ,伝えていくこ,伝える事業に携わりたいです.」
「...山さんは、もう少しはっきりと言い切った方がここで働きたいって気持ちが伝わると思うな。」
優しげな言葉とは裏腹な目が見えた。見えているだけかもしれない。
「明日の朝に予約の電話したら、相談の枠が空いてるかもしれない。」
「あ,はい,10時からですよね.わかりました.今日はありがとうございました!失礼します.」
笑顔を崩さず部屋を後にした。
「すべての世界が筆記試験だけで決まれば良いのに」と思った.
ドアを開け、「おなかすいたぁ」と呟く。
けれど料理する気にはなれなかった。
料理しようにも菜箸もフライパンも汚れたままで、冷蔵庫はペットボトルを冷やすためだけにひたすら動いていた。
とりあえず湯を沸かした。インスタント麺が無かったのはその後気づいた。
「はぁっ」とため息をつき、代わりにインスタントコーヒーの準備をした。
カチッと鳴ったケトルを取り、湯を注ぐ。
朝起きてそのままだった敷き布団の上に胡座し、コーヒーをすする。
ずずず...
散乱した衣服。
ずずず...
空のペットボトル。
ずずず...
読み切れずにいた本の山。
「あ。」
昔習ったキャッチャーなフレーズを思い出す。
リンカーンはコーヒー3杯で