謎の動画
こちらは百物語五十九話になります。
山ン本怪談百物語↓
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「すみません…ちょっといいですか…」
携帯電話ショップで働いていた時のお話です。
「はい、なんでしょうか?」
大人しそうな感じのおばあさんが、静かな店内へ申し訳なさそうに入ってきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんですよ。動画を消したいのですが、なかなか消えてくれなくて…」
お年寄りのお客様だと、よくあるタイプの質問であった。
「動画を消せる機能があるんですよ。消去するボタンがあるんですけど、やり方は…」
おばあさんに動画の消し方を教えながら、消したい動画をボタン1つで消去する。
「ありがとうございます!そうやるんですね!」
おばあさんは何度も頭を下げながら、すぐに店を後にした。
数日後…
「あのぉ…すみませぇん…」
あの時のおばあさんが、再び店へ訪れた。
「んんっ?また何かお困りですか?」
おばあさんは携帯電話を取り出すと、申し訳なさそうにこう言った。
「消したい動画があるんですよ。何回消しても消えなくて…どうしたらいいでしょうか…?」
話を聞いてみると、前回消したはずの動画が再び携帯電話に戻ってきたらしい。そんなことは普通ありえないのだが…
「ちょっとその動画を見せてもらえませんか」
色々と考えてみたが、一旦その動画を確認してみることにした。
「なんですか、この動画…」
おばあさんが見せてくれた動画は、なんとも不気味なものであった。
動画はどういうわけかモノクロで、古い「葬式」を撮影した動画だった。
それだけではない。
全員が神妙な表情で葬式に参加する中、お坊さんの隣で踊っている女性がいるのだ。
黒いワンピースを着た中年の女性が、無表情でバレエを踊っている。
ほかの人たちはそれに気がついていないのか、あるいは無視をしているようで何事もなく葬式を続けている。
「一応消しておきましたけど、あの動画って…」
おばあさんは困った顔をすると、小声でこう答えた。
「いつの間にか携帯電話の動画に入ってたんですよ」
信じられない話だったが、おばあさんが嘘を言っているようには思えなかった。
それから数日間、おばあさんは毎日店へ来るようになった。
何度消してもあの動画が再び携帯電話の中で復活してしまうのだ。
「これ壊れてるかもしれませんね。ちょっと修理会社へ依頼してみます」
おばあさんから携帯電話を預かると、すぐに携帯電話の修理会社へ送ることにした。
携帯電話を修理に出してから一週間後、修理された携帯電話が店に戻ってきた。
「あっ!○○様のご自宅でしょうか?携帯電話ショップの〇〇と申します。携帯電話の修理が終わったので、近いうちにまたショップへ…えっ?」
携帯電話が戻ってきたため、おばあさんの家へ電話してみると、信じられない事実を知ることになった。
「あぁ…うちの〇〇ですか…実は数日前に亡くなりましてねぇ…」
電話の相手は、おばあさんの娘さんであった。
「携帯電話のことは母から聞いております。えぇ…はい…まさかこんなことになるなんて…数日前まで元気だったのに、どうしてあんなことをしたんでしょうね…」
娘さんの言葉を聞いていると、おばあさんが病気や事故で亡くなったとは思えなかった。
翌日、娘さんが携帯電話を取りにきたが、あの「動画」については一切話せなかった。
これは予想であるが、あのおばあさんの携帯電話に入っていた動画は「呪いの動画」だったのかもしれない。
何度消しても戻ってくる不気味な動画。
あのおばあさんは、何か得体の知れないものによって、闇の中へ引きずり込まれてしまったのかもしれない。
そしてあの動画を見てしまった人間も…
これは「警告」だ。
もし知らない動画が携帯やスマートフォンの中に保存されていても、絶対にそれを見てはいけない。
この呪いは「伝染」する。
私のスマートフォンにも、あの動画が保存されていたのだ。
だから絶対に見るな。
絶対に、絶対に…
もう戻れなくなる。
どうも 作者の山ン本です。
今年も稲川淳二先生の怪談ナイトへ行ってきました。
本当に怖い話から少し切ない話まで…
やっぱり稲川先生はすごいです!
山ン本も頑張りますので、次回もまたよろしくお願いします!