旧支配者クトゥルフ
クトゥルフは、クトゥルフ神話の代名詞的な存在である。
初出は、『クトゥルフの呼び声(The Call of Cthulhu)』で1926年に書かれ、1928年に《ウィアード・テイルズ》2月号で発表された。
この小説は一度、編集長ファーンズワースによって不採用になり、ドナルド・ウォンドレイの働きで掲載に漕ぎつけたことで知られる。
ラヴクラフト研究者からは、1917年に書かれた短編『ダゴン(Dagon)』に登場した海の怪物を、一層ふくらませたのがクトゥルフと見做されている。
名前は、ギリシア語の「地下」を意味するクトニック(Chthonic)から着ているといわれる。
クトゥルフ神話という言葉に名を冠しているものの、それほど中心的な役割を果たしている訳ではない。
1937年4月13日付けのクラーク・アシュトン・スミスのダーレス宛ての手紙に「クトゥルフ神話」という言葉が出てくる。
手紙の内容から、それ以前にクトゥルフ神話という言葉がラヴクラフトの友人たちの間で使われていたことが伺える。
1937年4月といえばラヴクラフトの死後(3月15日)である。
ひょっとしたらラヴクラフト自身は、クトゥルフ神話という言葉を聞いたこともなかったかも知れない。
クトゥルフは、ゾス星系から3億5千万年前に地球に飛来した。
この辺りの物語は、『狂気山脈(At the Mountains of Madness)』で描かれている。
ロバート・E・ハワードは、《キング・カル》シリーズや《英雄コナン》シリーズでヴァルーシアの蛇人間を登場させている。
この蛇人間は、クトゥルフを信仰した古代の種族である。
ルルイエが海底に没し、クトゥルフが眠りに着いた後、ハイボリア時代をスティギアの墳墓の下で過ごし、次の時代の人間にクトゥルフの信仰を伝えた。
これは、REハワードの作品の主人公たち、アトランティスのカル大王、キンメリアのコナン、ブラン・マク・モーンの三人の時代を結ぶ試みであった。
ラヴクラフトも『闇に囁く者(The Whisperer in Darkness)』でブラン・マク・モーンなどのREハワードの登場人物の名前を引用し、REハワードの物語をクトゥルフ神話に取り込んでいる。
クトゥルフは、のちに旧支配者(Great Old Ones)に分類されている。
これは、「かつて地上を支配し、今は失権しているクトゥルフ神話の神性」を意味する。
ただし、このカテゴリーを作ったのは、オーガスト・ダーレスであり、ラヴクラフト自身は、旧支配者や旧神、蕃神(外なる神)を特に意味を定めずに使用していた。
従って作家やゲームによって、このカテゴリーは、異なっており統一されていない。
クトゥルフが何の目的でゾス星系から太陽系の地球に飛来したのかは、分かっていない。
地球は、クトゥルフにとって取るに足らないという意見と外なる神にとって重要な場所という二通りの意見がある。
しかしクトゥルフが目覚める時、今日の人類の文明は、滅亡するという。
クトゥルフは、外なる神を崇拝する大司祭だとされている。
その一方、外なる神は、クトゥルフの事など何とも思っていない。
この関係は、クトゥルフを崇拝している”深きもの”や人類のクトゥルフ教団やダゴン秘密教団と類似する。
クトゥルフには、ゾス星系から同行した眷属たちがいる。
彼らは、俗にクトゥルフの一族等と呼ばれ、クトゥルフ同様に信仰の対象となっている。
これらは、ダーレス、リン・カーター、ブライアン・ラムレイらラヴクラフトの崇拝者たちが作った設定である。
そのため、ラヴクラフトの作品では、「ゾス星系から一族と共に飛来した」以上の情報がない。
ガタノゾーアは、ラヴクラフトが『永劫より(Out of the Eons)』で登場させた。
後にリン・カーターの『時代より(Out of the Ages)』にてクトゥルフの息子という設定が付け加えられている。