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歯車1



この世界のどこかに

神様に愛された最後の天界人てんかいびとがいるらしい。

その天界人は救世主の種をお腹に宿しながら下界に降ろされた。

もしもその天界人との間に真実の愛を見つけられたなら

この世の救世主が生まれ世界は永遠の安泰を約束されるといわれている。



その天界人は「愛されし者」として世界の伝説の一つとなっている。




とある国のとある町にある、少し賑わう酒場があった。

「戦争は落ち着いてきたが、近々内乱が起こるのも時間の問題だろうってもっぱらの噂だぞ」

ビールジョッキを机に叩きつけながら、声を大にして酔っ払いがとある一角に居た。

「声を抑えろ。お前も警備隊に捕まるぞ」

その男を宥めようと違う男が隣で肩をたたく。

「王は国に貢献してくれた。だが、その王子はどうだ。愛されし者の生まれ変わりだかなんかで踊らされている。まったく腑抜けにも程がある」

それでも怒る男の留飲は下りないのか話は続く。

「まったく会話まで制限されるなんてこの国はどうなっちまうんだ! そう思うだろう?坊主!」

横を通り過ぎようとしたウエイターを声で捕まえた。

「え? あ、ぼ、ぼくですか? ちょっと、頭はよくないので、難しい話はわからないです……」

右片目を前髪で隠したウエイターは戸惑ったように返答した。

「ったく! 将来有望な人間はいねぇのかよ!」

ウエイターの返答が気に入らなかったのか男は更に音量を上げ悪態をついた。

「よせよせ。こんな酒場にそんな人間いやしねぇよ」

隣の男もウエイターのひ弱そうな外見を鼻で笑う。

「悪かったね! 有望そうな人間がいなくて! 嫌気がさすならさっさと出ていってくれ!」

追加のビールをテーブルに叩きつけ、酒場の女将は耳に痛い音量で男たちの勢いを抑え込んだ。

「わ、わるかったよ。そーゆー意味で言ったんじゃない」

二人の男たちは委縮しながらお替わりのビールをちょびちょびと飲み始めた。

酒場の女将はそれを見てため息をつき、ウエイターの尻を叩く。

「シバ!あんたも!毎回おどおどするなって言ってるでしょ?!」

「っいた! す、すみません」

「まったく!猫背で下向いて歩くなんて男のやることじゃないよ! ただでさえ背も筋肉もないのに」

「はい……。ビール取ってきます」

シバと呼ばれたウエイターの少年は、女将に叩かれた尻を摩りながら、裏手に回った。



「どうもご無沙汰しております。シバ」

積んである酒樽を店に運ぼうしたところに、名を呼ばれて振り返ると警備隊に取り囲まれていた。

いつの間に敷地内に入ったのか。

警備隊を引き連れた全身を白で統一された美しい騎士の男がにこやかに立っていた。

「あ、あなたは、たしか、王の右腕の……」

その姿を見た瞬間、腰を抜かしそうになったシバ。

「ハクです。嬉しいですね。数年ぶりでしたが覚えておいででしたか」

物腰柔らかくシバに微笑みかけた白い騎士にシバは激しく動揺する。

「妹に、何か、あ、あったのですか?」

精いっぱいの勇気を振り絞ってハクに聞いた。

シバはハクが苦手だった。

数年前、城に滞在していたころ数回しか会ったこともなかったし、

会っても暴言を吐いたこともない。

常に紳士な対応をしていたハクだが、そこには優しさではない冷たく刺すようななにかがあった。

「いいえ。今回の件は妹君とは関係ない話なのですよ」

ハクの回答に思わず顔を上げる。

「……え?」

だったら、なぜ?そう問いかけようとした時に、思いもよらない言葉がハクから発せられる。

「シバを確認。連行しろ」

ハクの言葉で警備隊の2人がシバを拘束し始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。はな、せっ。ぼくが、な、何をしたっていうんですか?」

暴れようとするが、更に押さえつけられる。

「反乱軍の一味との情報をいただきまして。あなたを逮捕いたします」

きれいな笑顔で残酷なことをさらりと述べたハク。シバは碌に抵抗できないまま連行されてしまった。

乱暴に連行された後、冷たい施錠音が地下に響いた。

「まって!どうして!な、なぜ、ぼくが、反乱軍なんですか!! む、無実です! ぼくは、無実です」

牢屋の格子を掴みシバなりに叫んではみるが返事を返してくれるものは一人もいなかった。

静まり返った牢屋は不気味なくらいに音がしない。


……ぼく以外に、誰もいない?


シバにそんな疑問が浮かんだが、調べるすべはない。

「だ、だれかー!だれか、ここを! あけて!!」

むなしく自分の声が響くだけで牢屋一帯は不気味なほどに誰も反応をしてはくれなかった。

ああ、自分はここでのたれ死ぬのか。

絶望がシバの心に染みこみはじめたとき。

ちゅう、という可愛らしい鳴き声がした。

これはしめたと思い、鳴き声のする場所を探す。

牢の隅に茶色の丸い物体を見つけた。


少々小太りなねずみだ。





「や、やぁ。こんにちは。はじめまして」






傍からみれば、シバはねずみに対して恐る恐るしゃべりかける怪しい人間だ。

しかし、シバはそれでいいと思っている。

これはシバと故郷のおばば様しかしらない秘密なのだから。



「この牢屋、誰もいないんだ。なぜか、知ってる?」



シバの姿にネズミは逃げもせずちゅうちゅうと鳴きながらぐるぐると円のようにその場を回っている。


「ここ、お城じゃないの?……どうしようか。衛兵はいないのか。鍵は誰か持ってるんだろう」


シバがねずみに向かいぶつぶつと話しているが突っ込むものは誰もいない。

ねずみだけだちゅうちゅうと鳴き続けるだけであった。


「主? 主が全部鍵を持ってるの?そうか。ねずみくん。もし可能であれば、そのカギをぼくのところまで持ってきてくれないかな?」


ちゅうとひとなきするとネズミはさっと牢屋から移動した。

しばらくすると、ちゅうちゅうと、再び茶色のねずみが現れた。


「ネズミくん! どうだったかな?」


到着したネズミはなんと鍵をしっかり持っていた。

シバはそれを見て歓喜した。



「ああ‼︎  ありがとう‼︎  君は命の恩人だ。今ならこっそり出られるかもしれない……」



ねずみからシバは鍵を受け取りお礼を言う。






背後に気配があることも気づかずに。







「素晴らしいことです。シバ。そのネズミとお話しができるのですか?」







気がつくのが遅かった。

まさか罠だったなんて。





さっと青ざめる。見られてはいけないものを見られてしまったことがシバの心拍数を上げた。




「どうしましたか。シバ。どうぞ。その牢を出てみてください」



背を向けていた牢の向こう側には、ハクがいつの間にか立っていた。



「……ど、どうし、て」

ハクの色白よりも真っ青になったシバがゆっくりと振り向く。




「汚らしいネズミが不自然にも私の部屋に来たもので。定期的な害虫は駆除しているのになぜか。ハクという名に相応しく、汚らわしいものには敏感でして。しかし、これで合点がつきました。あなたのお願いでこのネズミが動いていたんですね」


「ぐ、偶然、です……。これ、これはっ。あ、そ、の」





まずい。まずい。まずい。まずい。




こんなところで。




こんなところで自分の正体を知られてはいけないのだ。





焦れば焦るほど頭は回らない。シバは息が上がることを止められなかった。













































ここまでお読みいただきありがとうございました。

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