7 1人の時間
オタクです
「ふぅ…ただいまー」
ガラガラと玄関を開けてそう反射的に言う。誰もいないのに癖が抜けないのだから、習慣というのは恐ろしいものだ。
「課題の前に夕飯食べて…って、そういや買い置きあったかな?」
自然と一人暮らしになる前から、祖母の手伝いで料理はしていた。まあ、だからと言って超絶料理が上手いかといえばそうではないが。
一人暮らしだと、やっぱり時間を有効に使いたくて料理が疎かになるのは否定出来ない。一応人並みかそれ以上には作れるんだよ。でもね、毎日の往復とか実習の疲労でそれどころではなかったりもする。
「うーん…やっぱり、そろそろ買い物行かないとなぁ」
冷蔵庫と戸棚を見てからそんな風に呟く。とりあえずは最後のカップ麺の買い置きで夕飯は間に合わせようと思いながら、お湯を沸かすと、自然と今日のことを思い出していた。
「なんだろうなぁ…先生は天然で男を惑わすのかなぁ」
ああいう風に接して貰えると年頃のモテない男子は勘違いしてしまいそうになる。まあ、別にモテたいかと聞かれればそうでもないのだが。
複数の女の子にモテるより、誰か1人に強く想われたい…と、言えば親友は乙女だと笑うのだろうか。
(でも…なんで、あれくらいでお礼してくれるのかなぁ)
事実助けたのは俺ではない。イケメンさんと言っても過言ではないはずだ。それでも好意的に接してくれるのは…あの部室を使いたいためなのだろうか?
(いや、それだけでお弁当まで作ってくれるのかな?)
女の子の気持ちというのは本当に男には理解できないものだと悩んでしまう。いや、この状況が嬉しくないわけではない。それでも、このままでは俺は間違いなく勘違いをしてしまうだろう。
キモイ陰キャの俺に好意なんて向けられても先生は嬉しくなんてないはずだ。むしろ迷惑に決まってる。
「あ、そうか。教師として家庭環境に問題のある生徒を気にかけてくれてるのか」
うんうん、それなら納得だ。お世辞にも家庭環境に関してはまともと言える自信はないしね。他は普通の陰キャなんだけど…まあ、オタクというのも普通の範囲内のはず。
「…って、あ!のうきん今夜か!録画しとかないと!」
今期の最推しのアニメの放送が今夜なのを思い出すのと同時にお湯が沸いてしまったので、仕方なくカップ麺にお湯を注いでから、待っている間に録画の準備をする。
うん、こんな俺には彼女なんて遠い世界の話だよね。そう納得して勘違いしないようにしようと決めるのだが…先生がそんな隙を与えてるわけないんだよなぁ。