14.5 それはきっと一目惚れ
西島弘樹くん。私が副担任を務めるクラスの教え子というのが、少し前までの私の認識だった。特に目立つことはなく、家庭環境だけが少し特殊だと担任の葛木先生からは聞かされてた程度だった。
そんな認識が変わったのはとある朝のこと。いつもは車での通勤をしているのだけど、時間的に電車の方がいいと思って乗った先で私は運悪く痴漢にあってしまったのだ。
本当に怖かった。止めてくださいとも声を出せずにただされるがまま震えていた私をーーー助けてくれたのが彼だった。
「や、やめてください!痴漢は犯罪ですよ!」
本当にびっくりした。怖いはずなのに毅然として私から手を離させた彼は驚く私の前で私を守るように言ったのだ。
「そんな風に女性を傷つけて……男として恥ずかしくないんですか!それでもあなたは社会人ですか!」
そう、思えばこの時が彼を初めて異性として意識した瞬間だったと思う。自分でもチョロいとは思うけど、本当にその時の彼はカッコよかったのだ。
それからお礼も兼ねて彼のことを本格的に調べて……そして、彼の境遇を改めて知って驚いた。幼い頃に母親を亡くして、父親は彼を捨てて、祖母もだいぶ前に他界して今は叔母が名義上の保護者という状態。
本当にこんな子が現実にいるかと驚いたのと同時に……彼を守りたいとも思った。そうして昔の部活なんて口実まで作って彼と2人きりなる時間を作って、私は確信した。私は彼のことが好きなのだと。
元々好きになるファクター満載だったのは否定しないけど、それでも私はその気持ちを自覚してから本気で彼に好意を伝えることにした。
バレたら教師と生徒の禁断の関係なんて言われるかもしれない。でもね……本気で好きになっちゃったから仕方ない。だから少しでも彼と一緒にいたくて、バイト先や自分の家に連れてって、ダメ押しで彼の元で暮らしたいと告げた私に……彼は淡々と過去を話してくれた。
その話を聞いても私の気持ちは何も変わらなかった。いや、違う。正確には更に彼のことを守りたくなり、愛しくなったのだ。だから、私は彼の全てを受け入れて好意を伝えた。
そう、きっとこれが私と彼のスタートラインなのだ。これから私は彼のことを愛していくことに何も変わらないけど……それでも、私は彼のことを好きになったのはきっと一目惚れと言うのだろう。
誰にも話せない禁断の関係。問題ない。だって、私は彼のことが好きで、彼もきっと憎からず私のことを意識してくれてるのだから。私は……西島くんのことが大好き。