14 傷と癒し
とりあえずスタートラインかな?
「殺したって……」
首を傾げる先生。俺はそれに対してちゃんと答えることにした。
「正確には俺が生まれたせいで母さんは死んだんです」
「えっと、確か西島くんのお母さんは西島くんが生まれてすぐに……」
「はい。俺を生んでからまもなく死にました」
正確には俺が2歳の頃にだが。ほとんど記憶はないけど、それでも覚えていることがある。それは父さんの俺を恨むような表情。俺が憎くて仕方ないという顔だ。
『お前さえいなければ真由美は死なずに済んだんだ……お前みたいな奴生まれて来なければ良かったんだ』
そんな言葉を最後に父親は消えた。元々身体が弱かった母さんは俺を産んだことで更に寿命を縮めたのだ。そう、つまり俺が母さんを奪ったことになるのだろう。
「俺は多分生まれてきちゃいけない存在だったんです。少なくとも父さんはそう思ってます。そんな最低の俺を愛してくれたのは祖母だけでしたが……その祖母も死んで今や1人です」
叔母にも好かれてないのはわかっている。叔母も母さんが好きだったようだしね。そうして俺の暗部を先生に晒せば嫌になって退くだろうと思っていたのだが……そんな予想に反して先生は優しい表情で俺を抱きしめると言った。
「1人じゃないよ。だって私がいるもん」
「……話聞いてましたか?俺はーーー」
「うん。聞いてたよ。要するに西島くんは優しいんだよね」
「そんなこと……俺は最低の人間です」
「あのね、西島くん。誰がなんと言おうとね……私は西島くんのことが好きだよ。世界で1番大好き。だから私の前ではそんな罪悪感捨てていいんだよ」
捨てる……そんな選択肢があるのだろうか?
「それにね、お母さんが君を生んだのはさ、紛れもない君への愛だと思うんだ。だから……私が保証します。君は生まれてきて良かったんだと」
安っぽい言葉のはずが、何故だかこの人が言うと物凄く説得力がある気がして不思議と心が暖かくなる。ああ、そっか。俺はもうとっくに先生のことが……
「ねぇ、西島くん。私のこと好き?」
「……はい。好きです」
「ならさ、迷わずに受け入れなよ。私は西島くんのこと大好きなんだからね」
ニコッと太陽のように笑う先生。そんな無邪気な表情で一気に力が抜けて俺は先生の元に倒れるように抱きついていた。嬉しいはずなのに目から溢れる涙は止まらなかった。そんな俺を優しく抱きしめている先生はさながら聖母のようでどこまでも優しくて……そして、俺はこの日から紛れもなく先生のことが大好きになるのだった。